表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/12

第2話 『きっと水玉模様』

 あら、ご機嫌よう。

 今日も来てくれたのね。

 ご足労に感謝するわ。


 お茶で良かったかしら、もちろん良いわよね。


 早速なのだけど、わたくし常々考えておりますの人って繋がりが大事なんだと。

 わたくしが一人、自室のコテージで食事をとる間。

 楓さん。彼女もまた、中庭で一人食事をとる姿をよく拝見しますわ。


 無論、わたくしは寂しくなんてありません。

 そんな心配は、分不相応と知るが良いわ。

 魔法の勉強だって忙しいし、早く一人前にならなくてはいけない。

 身なりを整え、語学に勉強もして、経済だって……

 これからの魔女の行く末を考えたり、魔女の住みやすい街作りや法整備を考えていれば、あっという間に時間は過ぎてしまいますもの。


 わたくしは一人でも大丈夫。

 しかし同じ境遇……いいえ、同じ現状のわたくしと楓さんが手を取り合っても良いと思うの。

 一緒にお食事をして、日頃の悩みを打ち明けるような。


 ただすれ違って挨拶を交わすだけの関係なんて、そんなの寂しいじゃない。

 話し相手が必要な時は、どうすれば良いの?

 夜一人で泣きそうな時は、どうすれば良いの?

 互いに支え合い、励まし合える、そんな関係をわたくしは……


 いいえ。

 ちょっと、センチメンタルが過ぎましたわ。


 とにかく。

 あなたの思いつかないようなロジカルに、色々と考えた結果思いつきましたの。

 つまり落とし物を拾ってあげる。

 こういう接点を演出しようと思うの。


 なぁに?

 ハンカチでも良いんじゃないかですって?


 あなたの思考は、外国の空軍から高度なジャミングを受けているのね、きっと。

 先ほども申し上げたじゃない。

 ハンカチを拾って渡す。

 挨拶を交わすだけの関係と、どう違うのかしら。


 それにハンカチを拾ってあげたから友達になって欲しいと求められるだろう、というのは高慢な考えだと思うわ。

 土砂降りの中、傘をくれた人に対してだってそう。そこまでの思い入れが起きるかしら?

 まぁそういうところが、この世界の寂しくて嫌なところだけれど。


 もっと自然に、加えて信頼を得られる。


『二人だけの秘密』


 そういうのが欲しいのよ。

 わかるかしら。

 決して楓さんのショーツが欲しいわけではないわ。

 決して楓さんのショーツが欲しいわけではないの。


 返す! 絶対に返すから!


 でも、これくらいしか思いつかない。

 食堂で会えたら、故郷の食べ物の話とかで盛り上がれるでしょう?

 でも、わたくし食堂には行かないの。

 もし書庫で会えたら、本の話題を交わせるでしょ?

 でも書庫では会ったことが無いの。

 いつも、どこで何をしているのかしら。


 流石に尾行するのは気が引けますわ。

 バレた瞬間に、その先の未来の関係まで終わりよ。

 もしもそうなったら時間魔法の研究に没頭して、禁忌に触れる羽目になるわね、きっと。


 だから、これくらい強引なセッティングも必要だと思いますの。

 向こうから喜んで、友達になろうと申し込んでくる。

 それくらいの密度と特別性のある出会いでなければならないわ。


 かといって靴下とかを拾ってあげるのでさえ、無理があると思うの。

 それに片方だけ靴下を履いて、俯いて廊下を歩く楓さんを想像したら。


 ダメね……涙が出て来たわ。


 しかもどうやって手に入れるのよ。

 脱がすのは流石に無理があるんじゃなくって?

 靴下が一瞬にして消えて、わたくしの手中に入るなんて、どういう原理の魔法よ。

 物体消失なんて魔法は難し過ぎるから、単純に力の魔法を使うことになるわね。

 いわゆるモーメントの魔法よ、結果的に手で脱がせるのと何も変わらないわ。


 スクールカースト最上位の私が、極東からの転校生の靴下を奪う構図。


 もう地獄。

 地獄以外の言葉が見つからないわ。


 でも考えてほしい。

 学園の寮にシャワールームがあるじゃない?


 もしも、あれが大浴場だったらと思う度に初代学長が恨めしいのだけれど。

 だって大浴場なら自然に接することができるでしょ?

 しかも、極めてネイキッドな状態で。

 良いわね。

 とても良いわ。

 楓さんと一緒にお風呂……良いわね。

 身体を洗って差し上げたい。

 でもまぁ現実には、シャワールームしか無いのだけれど。


 話が逸れたけど大丈夫よ……あなたのせいだから。

 シャワールームの更衣室は、カゴに服を入れるだけだから、そこでショーツを手に入れるのは簡単よ。

 単純な浮遊魔法で、そっと拝借するのよ。


 ショーツがなくなってたら、本当に困ると思うの。

 周りからは分からない彼女の苦悩。

 誰でも、そういう経験あるわよね。

 心に秘めた悩み、誰にも相談できない悩みごと、八方塞がりの状況。

 そんな彼女の悩みに手を差し伸べたら?

 解決してみせたなら?


 きっと彼女の心に歩み寄れる。

 そんな気がするのよ。

 シンデレラストーリーも真っ青な完璧な作戦ね。


 でもこの計画には、一つだけ疑念があるわ。

 学園支給の黒いワンピースで、下に何も履いていない無防備な楓さん。

 モジモジと自室に向かって小走りする楓さん。

 強めの風に顔を赤らめうろたえる楓さん。


 それを見たわたくしの理性がどうなるか。

 それが最大の不安ね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ