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序
短い話ですから気楽に読んで下さい。
電車が轟音を響かせて通過していく。
鮫島葉子は線路沿いの道を、ひとりで歩いていた。
夏になりかけの日差しは、薄い雲に吸い取られ、どんよりとした空は葉子の心を映しているようだった。
木々の梢は、微かな光を煌かせ、きまぐれな風に吹かれている。
過ぎ去る列車を目で追いながら、父の家に向かう葉子の細い足は、風が吹けば今にもくずれ落ちそうなほど儚く写った。
すれ違う人々はそんな葉子に、憐憫の表情を浮かべ、道を譲って通り過ぎる。
この道の先にある父の家までの短い距離が、二十六年間歩み続けてきた全ての距離よりも、葉子は遥かに遠く感じるのだった。
ここが、父の住む町なのだ。
葉子の歩みは、今にも止まりそうだった。
まるで、あの時、父の歩みのように。
短期に集中して連載します。
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