表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最終兵器的彼女  作者: 御影志狼
1/9

プロローグ

不意に過去の作品を発掘して手直ししたくなりました。少しばかりお付き合いください。

 

   プロローグ




 傷つくことを厭わずに、ただ目の前の見えざる壁を叩き続けた。

 

 親友と自分とを隔てている壁は透明で、一見手を伸ばせば届く距離にあるというのに触れれば分かる、断絶の証。

 水晶のような結晶で作られるその壁は、否、壁ではなく、自分の退路を断つための檻であった。

 四方はその結晶により閉ざされ、自分は目の前の男に視線を向けるしかなかった。とは言うものの、自分の視界に映る相手は幾人も分裂し、その中の一人と定めて視線を向けることは酷く難しかった。

 それでも、双眸を細めて、相手の顔を見定めた。

憎む相手であるならば怨色(えんしょく)を浮かべて、睨めばよかったであろう。

 ――けれど、相手がずっと信じていた相手であったならば、自分はどうすればいいのだろうか?

 裏切り者と罵り、怒気を浮かべて相手を責めるべきなのか、それとも涙を浮かべてこんなことは止めてくれと、懇願するべきなのか。

 ただ、どうして彼が自分にこんなことをするのか、その真意が掴めなかった。だから、自分は閉じ込められて困惑するしかなかったのだ。

「ッ、どうして、君がこんなっ……!」

 親友が自分を閉じ込めておく道理が分からない。その真意を探るために、自分と相手とを隔てている壁を叩き続けた。

 届いているであろう声に、相手は痛ましいように顔を歪めた。悲痛なその表情は、葛藤と決断に揺れ、泣いているようにも見えた。

「…………君が、この世界にいては駄目なんだ……」

 搾り出すように呟き、親友の持つ、宝玉の嵌め込まれた杖を構え直す。

「どうしてッ?」

 結晶内に響き渡る声が鼓膜を刺激し、脳内を揺さぶる声量も垣間見ず、質問をぶつけた。

 相手の顔はますます(かげ)るばかりで、その唇は硬く閉ざされる。唇を噛み締める相手の姿が、決意の表れだった。こうするしかない、もうこれしか方法はないんだと、苦渋に満ちた表情で親友は言った。

 親友の持つ杖の先にある宝石が輝きを発し、自分の目の前に突きつけられた。

「……許してくれとは言わない。僕は、君を裏切ったのだから。いっそ僕を恨んでくれて構わない……君の中に僕が残るなら、憎しみであっても、僕は誇りに思うから……」

 泣きそうな笑みを浮かべる親友に、裏切られたはずの自分が同情を抱いていた。

 憎しみであっても誇りに思うという親友の言葉が、胸に深く突き刺さる。

 現に裏切られたと感じた自分は、絶望を抱いた。そして、きっとその親友に対して次に抱くのは、怨恨や憎悪といった感情だ。

「……君の意図が分からないよ……」

 どうしてこんなことをするのか、理由がなければ親友は絶対に、こんな行動には出やしない。しかし、その理由が分からない。

 だからこそ、困惑するしかなかった。

「月が、隠されてしまう……そうしたら、奴が…………」

 独り言のように、親友は呟いた。

 ―そして、

「………………君が―だから」

 ポツリと、か細く呟いた言葉。

「何? 何て言ったんだよ?」

 肝心の部分が聞こえず、聞き返す言葉も虚しく耳に反響した。

「ごめん」

 謝るくらいなら、こんなことしないで欲しい。切実に願うが、その願いが聞き入れられることはなかった。

 宝玉から放たれる光は更に広大化し、囚われた自分自身を含め、結晶全てを包み込む。

 そして、視界全てが光に包まれ、親友の顔すら定まらないまま、自分は全ての時を凍らされた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ