第九話 初めてのダンジョン
海上封鎖から数日、ようやくデザイアの街から白い旗をあげた船がやってきた。その船に乗っていたのは交渉役の人だった。
彼等の船が接舷してきたので、ちゃんと前を止めてコートに身を包んだ青色の軍服姿でテロップを出して乗り込む。この姿なら普通に戦えるしな。
「あなた達は領主から派遣されてきた人ですか?」
相手の船に乗り込むと真っ先に目に入ったのは数人の騎士と偉そうな奴。
「責任者を出せ」
「私が責任者です」
偉そうな人が聞いてきたので、素直に答えてやる。
「お前みたいな餓鬼がか?」
「そうです」
本当に驚いているようだ。情報は伝わっていないようだし、しっかりと対応しないと。
「それで何の用ですか? 降伏でもしにきましたか?」
「何を馬鹿なことをいっている! それはこちらの台詞だ! 今すぐ船を明け渡せ!」
「お断りします」
(まあ、流石に断るだろう。しかし、これならば受け入れるだろう)
相手も多少は理解しているようだ。これは期待できるかもしれない。
「では次だ。俺様、オレグ・デザイアの妾にしてやろう。平民が貴族である俺様の女になれるんだ。感謝するがいい」
「お断りします」
「名誉なことだぞ!」
「お断りします。名誉だとも思いませんし、妾などもっての他です」
「な、なら正妻にしてやる」
「お断りします」
「なぜだ!」
「なぜもなにも、私は夫(妻)がいますから、お断りするだけです」
リディアは俺の嫁だ。絶対に渡すつもりはない。
「貴族になれるのだぞ!」
(平民が貴族になれるなどありえないことなのだぞ! それを断るとは……ましてや俺の愛人にしてやるというのに!)
「貴族になろうと思えばいつでもなれますから」
「何を馬鹿な……」
「この船の力を使えば簡単です。それよりもこちらとしては祝福を奪おうとした騎士についてです。彼は領や国を敵に回すことになるといっていましたが、そのことについてはどうするのですか? このまま戦うならそれはそれで構いませんよ」
(おのれ、調子に乗りやがって……こうなれば騎士に捕らえさせて奴隷にするか。それに先生もいるから大丈夫だろう)
色々と考えているようだ。とりあえず、こちらも皆を船内に入れて何時でも潜れるようにしておこう。
「そちらの要求はなんだ……」
苦虫を噛み潰したような表情をしながら聞いてくるので、答える。
「公式な謝罪か賠償です。公式は街中など色々なところにお触れをだしてもらいましょう。賠償は白金貨10枚です」
なんとリーズナブルなことだろうか。公式に謝るだけで白金貨の賠償金は払わなくていいのだ。
「ふざけるな! たかが騎士一人が告げたことでそのようなことなどできるか!」
「上司が部下の責任を取るのは当たり前のことですよ」
「違う! 上司の責任を部下が取るのだ!」
本当にそう思っているようだ。最悪な上司だ。こんなのの下にはつきたくない。
「まあ、こちらとしてはどちらでもいいですよ。それが嫌ならこのまま海上封鎖を続けますし、適度に攻撃を仕掛けることになるでしょう。何せ一般人ならともかく、騎士に宣戦布告されていますから」
「ふん。答えはどれも拒否だ。愚かにも乗り込んできたのだから覚悟はできているだろう。捕らえろ」
周りの騎士や船の中から沢山の騎士達がでてくる。あちらがやる気のようなのでこちらも対応する。
「交渉決裂ということでよろしいでしょうか?」
「そもそも貴族である我々がなぜ平民如きと交渉をせねばならん。貴様等は大人しく全てを差し出せばいいのだ」
(どうせこいつがいるかぎり、撃ってこれんだろう)
「そうですか。撃っていいですよ」
迫ってくる騎士を無視して指示をだすと、四連装魚雷が発射されて船の下で爆発がおきる。
「ば、ばかなっ! 貴様、正気か! 共に沈むぞ!」
「お構いなく。私は水中でも生きていけることをしっかりと確認しておりますので」
「くっ! 先生っ、お願いしますっ!」
「任せよ!」
先生と呼ばれた男が甲板を突き破ってでてきた。そいつは白銀の鎧に身を包んだ金髪オッドアイの男だった。武器は大剣を持っているようだ。
「我が名はノリオ・テラワキ。この世界を救う英雄だ!」
(決まった。これで俺が勝利すればこのロリは俺の物になること間違いなし。なにせ主人公なのだから! 色々としてたっぷりと可愛がってやるぜ)
「気持ち悪い。ミサイル発射してください」
ウロボロスから38発のミサイルが放たれる。俺はすぐに海に逃げる。
「現代兵器がファンタジーに勝てると思うなよ! ふんっ! ディメンションエッジ!」
大剣を一閃すると空間が裂けてそこにミサイルが吸い込まれていく。
「弾頭の変更。重力弾頭の使用を許可します。また吸い込まれる前に爆発させてください。同時に急速潜航開始」
「逃げるか!」
「いいえ、戦略的撤退です」
海に飛び込む。空と海の両方から大量の魚雷とミサイルが発射されていく。相手は迎撃に必死なようなのでその間に泳いでウロボロスに入る。俺だけなら船体に触れるだけでいいので楽に入れる。
「機関最大。距離を600ノットまで距離を取ります。ミサイルは停止。魚雷による発射を継続してください」
水雷科と砲術科に連絡をいれてから船内を移動する。予想以上に相手が規格外だ。空間断裂をしてくるとひどすぎる。こちらも大概だが。いちおう、重力弾頭をぶつけて相殺している。空間の歪とかが色々とやばくなっているが、しったことではない。
「おい、さっさと追撃をしろ!」
「無茶いわないでくれ。海の中に潜られたら手が出せん。こちらも迎撃でいっぱいいっぱいだ。それにこのままじゃやばいからさっさと逃げるにかぎる」
「何を言っているんだ?」
「アイツは戦略的撤退といった。俺が圧倒できたのは近距離にいたからだ。あいつの本来の距離は超遠距離。それこそ視界に映るか映らないかの距離だろう。つまり、連中の攻撃はこれからが本番だ」
「まってくれ、そんなの聞いてないぞ!」
「こっちも相手があんなのだって聞いていないんだが……まあ、俺はここで逃げさせてもらう。どうやら負けイベントのようだからな」
「何を言って……」
距離を取ったところで浮上して、ミサイルと魚雷をたっぷりとプレゼントする。主にデザイアの領主館だ。これはあちらから仕掛けたことだし、住民にはできる限り被害がでないようにしておいた。それに湾岸施設は無事だから、住民の生活は困らないだろう。おそらく、国としては別の領主を派遣するか、そのまま国有地にするだろう。どちらにしろ、腐敗しまくっている今の状況よりはよくなるだろう。
「さて、次はどこにいきましょうか。ああ、その前に地図を作りましょう。艦載機、全機発進」
白い軍服に交換して艦載機を出す。それから周りをみるとあらたな問題が発生していた。
「お姉ちゃん、大変」
「どうしたのですか?」
「ダンジョンに入っちゃう!」
「え?」
レーダーを確認するとなんだかやたら変な空間の歪みが発生していた。
「逆噴射! 後退して……」
「間に合わないよ!」
「くっ!」
機関最大で進んでいたから急には止まれない。そのままダンジョンに突入してしまった。ダンジョンに突入すると視界にフォートレス・タートルの巣とでていた。
空は雷雲に覆われ、落雷が複数落ちている。海中には大量のモンスターの反応が無数に存在している。それも飽和状態といえるような状況だ。
「これがダンジョン、ですか……でたらめな数がいるんですが……」
「ダンジョンは倒されないと、中のモンスターがいっぱいでてくるから……」
陸上で生きる人には水中で戦うことなどできない。祝福でそういうのを持っていても、基本的に陸地から離れないだろう。ウロボロスみたいな巨大で多人数を乗せて戦えるなら別だろうけれど。
「海は水中戦ができないから基本的に倒されないと」
「うん……だから、どこもこんな感じ……」
「なるほど」
これは色々と倒せれば稼げそうだ。それにしても、ボスはフォートレス・タートルか。直訳すれば要塞のような亀ということになる。
「硬くておっきい、ですか」
「お姉ちゃん?」
「こほん。とりあえず、面倒ですから重力弾頭を使用して一気にに殲滅します。艦載機、各機は爆雷投下。魚雷も放ってください」
飛ばしていた艦載機の爆雷による面制圧。届かない深海の方には魚雷をばらまく。
「デコイとソナーを投下。さて、ここに私達以外、いないのなら……やりたいほうだいです。機雷を放出します」
雷が大量に降り注ぐ中、機雷、爆雷、魚雷で海が大変なことになっている。命中すると小型の重力球が出現してモンスターの身体を吸い込んで破壊していく。明らかに海面の水が減っていっている。
「お姉ちゃん、怖いの、きた」
「みたいですね」
複数の爆発が海底か響いてくる。海面に浮きあがってきたのは全長約100メートルはありそうな巨大な海亀。背中には複数の砲塔があり、その姿はまさに要塞だった。
「うって、きた」
砲塔から放たれたのは光の榴弾。上空に到達すると分裂して雨のように変化していく。
「全機、緊急上昇。ブラックホール・フィールド全力展開」
雨を塞いだら今度は大きな口を開けてブレスのような攻撃を放つ準備をしだした。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫です。それに待ってやる筋合いはありません」
チャージなんてしてるんじゃねえ。800口径の砲門を召喚して重力弾頭を放つ。衝撃でウロボロスが数ノット後退する。重力弾頭は口の中に入った瞬間、大爆発を起こして内部から光が溢れて崩壊していく。
「終わった?」
「そうですね」
光が収まると、そこには前の部分が全て消滅したフォートレス・タートルの死骸が海へと沈んでいくところがみえた。