第八話 海は魔境だった
「ふぅ~」
額の汗を拭いつつ一仕事を終えて息を吐く。三時間にもおよぶ料理はとても大変だった。
用意した料理はハンバーグとサラダ。それに買ったスープ。簡単なものだけど30人分となるともう大変だった。それでも船員である子供達のためだから頑張れた。この子達もリディアの妹だから、リディアと結婚する俺の義理の妹になるし。
「ご飯ができました。全員、食堂まで集まってください」
館内放送で自由に動きまわっている妹達を集める間にカウンターに料理を乗せていく。
「良い匂い~」
「お腹減ったよ~」
「こちらでこのプレートを受け取って席で食べてください。おかわりもありますからね」
「「やった!」」
すぐにやってきた子達に手本をみせて席に運んでいく。ついでに大量に買ったパンをテーブルの上に乗せて、食器も置いていく。
「これはおかわりとして食べてください。ただ、一度床に落ちたものは捨てますので食べちゃだめですよ」
「もったいないよ!」
「駄目です。衛生……こほん。お腹がとても痛くなったりするので駄目です。それに落とした物は別に使いますので勿体なくありませんよ」
「別の物?」
「はい。釣りの餌にします。まあ、これは明日教えますから気にしないでください」
「うん。食べていい?」
「どうぞ」
「わ~いっ! お肉、お肉!」
嬉しそうに食べていく妹達の頭を軽く撫でてから厨房に戻って次々とプレートを渡していく。
数人がやってこないので艦内の映像を確認すると、迷子になっていて泣いていた。まあ、全長330メートルもある超弩級魔導戦艦だからしかたない。
一応、艦内には案内図とかもちゃんとあるのだが……読めなければ意味がない。
「メリルさん」
「なんですか?」
「ここを任せていいですか? 渡すだけでいいので」
「それぐらいなら大丈夫ですが……どうしたのですか?」
「迷子を迎えにいってきます」
「お願いします」
食堂からでて艦内で迷子になってりう子達を回収していく。後は寝ている子もいたけれど、そちらも回収して皆で食事をとる。
食事が終わればこれからのことを伝えていく。
「はい、お腹がいっぱいになったところで注目です。食べている子は食べながらでいいですからね」
全員の視線が集まるのを感じてから、話しを始める。
「当艦は現在、デザイアの街の沖合に停泊中です。これからあちらか接触があると思いますが、それまでは基本的に動きません。ですので、今の間に決めることを決めたいと思います。まず、大前提として艦長である私ともう一人の責任者の言葉は絶対だと思ってください。ただ、意見があれば言ってくれていいです。私が間違っていることあると思いますので」
完璧超人などいないのだし、これはしかたないことだ。まあ、未来を予測したり、リディアみたいに未来を読むことができれば話は別だろうが。
「絶対服従にたいする理由は簡単です。ここは海の上なので、下手をしたら沈んで死んでしまいます。そうならないための処置だと思ってください。可愛い妹達を死なせる気はありませんが、なんでしたら沈む体験もできますのでやってみますか?」
俺の言葉に全員が頭をぶんぶんと振っていく。少し残念ではある。海の中を進むとか楽しそうなのに。ちなみにその場合は青い軍服を着なくてはいけない。
「誰もいないみたいですね。では、今から皆に大切な役割を与えます。まず一番大切な炊事係を決めます」
「お姉ちゃん、炊事係が一番大切なの?」
「炊事洗濯が一番大切ですよ。ぶっちゃけると私が召喚しているウロボロスの操作なんて私がいればどうとでもなりますので、生活する上で必要なことの方が優先度は高いです」
人は欲しいけれど、それは全力運転する場合で、よほどのことがない限りは必要ない。そもそも俺一人でも艦の80%の力は使える。問題はリディアと入れ替わった時だろう。その時はリーディングの劣化具合からみて、ウロボロスの性能は50%を下回ると思われる。だが、そこを妹達が手動で操作することで賄えるはずだ。
「というわけで、料理をしたい人はいませんか? 女の子なのですから、料理ぐらいできた方がお嫁さんになる時とか、色々と便利ですよ。それと戦闘が苦手な子は炊事係がいいと思います。後、働くのは六歳からです」
6歳ぐらいから勉強を始めるから、それぐらいがいいだろう。本当は働かなくてもいいのだが、将来を考えたらしっかりと知識を持ったほうがいいしな。
「私、やるよ」
「戦うのは怖いし、私も……」
ほとんどが手をあげたので、後回しにすることにしよう。
「明日、適正検査をします。その適正に従って、航海科、砲雷科、船務科、主計科、海兵科にわけます。その中から優秀な人は指揮科にも所属して他の人を纏めてもらいます。今から詳しい内容を説明していきます」
全員にざっくりと内容を説明していく。
航海科は船の進路を決めたり、船の操縦をしていく。
船務科はレーダーなど電子機器の整備や情報収集を行う。
砲雷科は大砲や魚雷を放つ。またそれら全般のこと。
機関科は機関室のことなのだが、ウロボロスには必要ない。
主計科は主に財務係や炊事係など。
海兵科は白兵戦用の戦闘兵。地上に乗り込んだりもする。警備なども担当。
ざっくりいってこんな感じだ。
「さて、決めるのは明日にするので皆でお風呂に入ります。ついてきてください」
ウロボロスの巨大な船内で探したらあったお風呂。普段は亜空間に仕舞われていて、甲板や船内の一部に出現させることができる。ちなみにプールもあった。そんな訳で今日は甲板で女の子30人でお風呂である。素敵な光景が広がっていたが、頑張ってアリアの身体を洗うくらいで我慢した。
お風呂が終われば後は寝るだけだが、アリアをアリアの部屋に入れたことで寂しく一人でねるが、やることをやったのですっきりした。しかし、抱き枕が欲しい。妹離れしないといけないのは俺のほうかもしれない。っと、寝る前に自動迎撃システムと遮音性能をあげておこう。異世界ではなにがあるかわからないし。
次の日、起床するとかなり体調がよくて力が湧いてくる感じがする。とりあえず、寝ぼけながら着替えて外に出たら……海が大変なことになっていた。
「真っ赤ですね」
海の上にはモンスターの死骸が沢山浮いていて、その回りが真っ赤に染まっているのだ。その死骸を食べようと大きな整った鮫、5メートルはありそうなブルーシャークが集団でやってきているが、ウロボロスから次々と魚雷が発射されて撃墜されていく。空にも数メートルの巨大な鳥がいて56口径の四連装機関砲から88口径の連装高角砲やミサイルの餌食になっている。
「ふむ」
ウロボロスと完全に視界などを接続し、全ての情報を集める。すると寝ている間にモンスターの襲撃があり、自動迎撃システムが対応していた。そのモンスターは軽く撃退したのだが、その血の匂いに誘われて複数のモンスターがやってきて、また迎撃。以下、エンドレス。そんな訳でまわりにはとても濃い血の匂いと硝煙の匂いなどがしている。
弾薬が心配なので確認すると、残りがかなり減っていた。通常弾頭が8割減だ。どれだけいるのか本当にわからない。意味がわからないぐらいモンスターがいる。
「弾頭生成にエネルギーリーソスを回す」
重力弾頭を使えば解決しそうだが、なんだかこれはこれで効率のいい狩りになっているように感じる。朝に感じていた力が湧き上がってくる感触はレベルが上がっているせいかもしれない。あくまでもジェネシスオンラインはゲームだし、この船はゲームを基にしているからレベルも適応されるのかもしれない。
弾薬の生成が全力で行なわれて消費に追いついた。しかし、回復はしない。仕方ないので自動迎撃システムを切って、自分で照準して効率良く潰す。視界にマルチロックシステムが表示されて、それに従って放つ。無駄な弾幕を張らないことで弾頭の節約になる。
ただただ効率よくモンスターを虐殺していると、まるで自分が機械になったかのような気分で思考がクリアになって照準と発射が素早くできてくる。
52分後、追加がいなくなった。どうやらこの辺りのモンスターを一掃したようだ。弾薬の残りは残り2割で、生産は素材がなくてできなくなっていたようだ。
「はぁ、はぁ……んっ」
身体がゾクゾクしてやばいくらい気持ちがいい。最高にハイの気分だ。しかし、顔を触ってみても無表情のままだ。水面をみても同じだ。試しに下を触ってみたら濡れていた。
「トリガーハッピーなのだろうか?」
戦艦でのトリガーハッピーってかなりやばいと思うのだが、気にしないでおこう。とりあえず、資材の回収だ。これ、縄をなげるのも面倒だ。調べてみるとウロボロスの資材にできるそうなので回収する。そもそも網とかいらなかった。ブラックホール・フィールドで吸い込んで、ホワイトホールで船内に輩出すればいいだけだ。
レベルアップのお蔭だな。
「ん?」
ポーンという音と共にお知らせがきていた。それによると、ウロボロスの新機能としてお金でウロボロスを更に改造できるみたいだ。白金貨単位……一千万単位だが。
「これはお金稼ぎをしろという神の導きですか。いいでしょう」
踵を返して艦内に戻る。ウロボロスには売れそうな牙や皮、魔石、少しの肉以外はいらないので、骨とかは弾頭の生産に回すようにいっておいた。
「さて、今日も面倒な三時間耐久食事作りですね」
厨房に入って料理を開始する。しばらくすると起きてきたアリアと妹達が厨房に入ってきた。
「おはようございます」
「おはよう、お姉ちゃん。手伝うね」
「お願いします」
指示をだして食事を用意するとだいぶ楽だった。やっぱり炊事係は必要だ。
その後、食事を終えて適正検査と試験を得て人を配属した。働けるのは私とアリア、メリルさんを含めて25人。残り5人は5歳より下なので無理。
翌日、とりあえず、皆を部署に配置して訓練をしだしてもらったら船が近づいてきた。デザイアの街からではなく外からだ。無線なんてこの世界にないので、甲板に出て照準だけは合わせておく。
「すいません。その船はどこの国の所属でしょうか?」
あちらは甲板にいる男性が声を張り上げてきた。俺はアバターモードから通常モードの軍服に変えてから拡声機で返事をする。
「国には属していません。個人所有の戦艦です」
「な、なるほど……それで通っても大丈夫でしょうか?」
「構いませんよ。ただ、あの街との交渉が決裂した場合、攻撃しますので一両日中には出航することをお勧めします」
「そ、それは本当ですか?」
「はい。あちらの騎士に船を渡せと脅されましたので、拒否しました。そうすれば国を敵に回すことになるといわれたので国ごと滅ぼしてやろうかと思っています」
「……」
絶句したようだ。まあ、そうなるだろうな。一応、甲板の端まで歩いて姿をみせる。
「女の子?」
「そうですよ。この艦は私の祝福です。故に所有者は私にあります。なにも間違っていません」
「そ、そうですね。しかし、補給をしないと困りますし、モンスターのことも……」
「この辺り一帯のモンスターなら殲滅しましたよ」
「それは本当ですか?」
「血の匂いに引き寄せられてくるものに限りますが、鬱陶しいぐらい寄ってきましたから」
「なるほど。では素材や肉を買い取らせてもらうことはできますか?」
「構いませんよ。商品を持ってそちらに向かいます。下手なことをすれば消し飛ばしますからね」
「それはもちろんです」
大量の素材をウロボロスから商人の船に転送して、俺自身も移動する。そこからは簡単な交渉だった。適正の値段で海のモンスター素材をおろしてやる。海のモンスターはなかなか狩られないようで、とても高価だ。冷凍した肉もとても喜ばれた。こちらは大量のお金をもらってうはうはだ。
商人からはお金と彼等の品物をみて必要なものは買わせてもらった。毛布とか武器とか本とか筆記用具とかだ。妹達の勉強に使えるからな。
商人の船が戻っていったことで一ついいこと思い付いた。このまま海上封鎖をしてやろう。食料は海から調達すればいいし、来た商人から買い取ってもいい。商人には海のモンスターの素材を売ればいい。後は少し試したいこともあるのでスロットを入れ返る。青い軍服になるのだが、ウロボロスに変化はない。ちゃんとこちらもオフィスだとわかっているようだ。
ちなみにこの青い軍服……旧スクール水着に軍服のコートというとんでもない姿だった。
さて、青い軍服になった俺は海に飛び込む。すぐに身体は沈んで肺などが海水にうまっていく。しかし、苦しみはない。しゃべれないが、問題はないようだ。視界もウロボロスのレーダーなどの情報が表示されているので問題ない。
改めて海の中をみるとモンスターはいないが、魚は普通にいる。本日の目的はウニやハマグリ、貝類だ。真珠を手に入れるだけでも十分だ。
モンスターのせいで手付かずな海の中は予想通り、宝の山だった。回収してから海の中でも色々と試す。武装の召喚は魚雷限定になっていたが、これはこれでいいだろうと思う。
次にやることは甲板などを確認して誰も出ていないことを確かめて、ウロボロスに指示をだす。するとウロボロスが沈んでくる。少しして完全に沈んだので、甲板の上に立ちながら浮上させる。酸素もちゃんと生成されているようだし、潜航も問題ないようだ。製作者は本当に何を考えているのだろうか?




