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第五話 本当にガチャは悪い文明だ。お金がどれだけあっても足りない。



 女将さんが持ってきた服は動きにくそうだった。中世に服を期待するのは間違っているのかも知れないが、ぶかぶかの白いワンピースを青いアンダーウェアの上に着て腰を紐で結ぶようなものだった。ちょっと可愛くないから、自分で作ろうか。


「すいません。ハサミかナイフを貰えますか?」

「ナイフは買ってきてあるよ」

「ありがとうございます」

「じゃあ、私は仕事に戻るからね」

「助かりました」


 女将さんを見送ってから、ワンピースとアンダーウェア、ドロワーズを改造する。まあ、肩の部分を紐みたいに変えて、長い裾を膝くらいまでに変えるだけだ。


「お姉ちゃん私のもやるの?」

「動きやすくするだけですから、大丈夫ですよ」


 切り取るとほつれそうになるが、しばらくしたら自分で作ろうと思うので適当でいい。後は切り取った布を紐にして長い紫がかったピンク色の髪の毛を額の少し上で結ぶ。つまりツインテールにして首元と肩の部分を涼しくなった。ワンピースも肩紐と腰で支えるだけで、下は切ったドロワーズを装着した。


「可愛いけど、肌がですぎてないかな?」

「大丈夫ですよ。肩と膝がでているぐらいです」


 さて、靴下はないのでアンダーウェアを改造して作る。靴も買ってきてくれていたから、それを履いて教会を目指すことにする。


「いきましょうか。目指すは教会です」

「こっちだよ」


 アリアが俺の手を掴んで引っぱっていく。楽しそうな姿にそのままにされて階段を降りる。


「ちょっ!? なんだいその姿は!」

「こちらの方が動きやすいので」

「女の子なんだから慎みを……」

「また後でお願いします。これ、鍵です。ちょっと教会にいってきますので」

「はぁ……いってらっしゃい」

「「いってきます」」


 宿からでてから人通りの多い大通りを歩いて教会を目指す。リーディングの読心術を使いながら進んでいくと大量の声が入ってくる。そのほとんどがくだらないものだが、中には俺が必要としている情報もはいってくる。

 それは兵士や騎士からもたらされるものだ。内容は商会同士の抗争によって焼けただれた話しや、商業ギルドなるところにも一応調査が入るらしい。


「お姉ちゃん?」

「なんでもないですよ。それよりも教会はあれですか?」


 前方にある大きく綺麗な建物を指さす。その建物は街の中心に鎮座している。その周りにも大きな建物が複数ある。


「うん。中央が教会で、周りには探索者ギルド、商業ギルド、領主館があるの」

「ギルド、ですか」


 これぞテンプレという奴だ。しかし、冒険者じゃなくて探索者というのも珍しい。そういえばこの世界はダンジョンを攻略するとスキルを貰えるらしいし、冒険者というより探索者なのかもしれない。ちなみに登録する気はない。何故って? 今はわからないが、オフィスの力が復活すれば絶対に国に拘束されたり、ギルドに拘束されるのが目に見えている。武力的に単体で一国を蹴散らせると思えるし、できなくても大軍仕様の戦略級兵器だ。そもそもミサイルの射程は数千キロは最低でもある。そんなとんでもない艦が海上をうろうろしているのだ。一人で監視網さえ仕上げれば海上封鎖など容易いだろう。この世界では必要ないかもしれないし、むしろ海上封鎖を打ち破る仕事の方がいいかもしれない。


「どうしたの? 確かお姉ちゃんは祝福次第で探索者か商人になるっていってたよね。教会の人は回復系の祝福がないと無理だし」

「そうでしたね」


 それは聞いてない情報だな。いや、相談するところで院長のことを知ったのだろう。しかし、翌々考えたら孤児院を譲り受けたし、アリアのために孤児院の子達の面倒をみるとなると……非常にめんどくさい。お兄ちゃんとしては頑張らないといけないし、オフィスの力があれば可能だろうけど。そうか、いっそ乗組員にしてしまえばいいんだ。それならば船の上で生活しても問題ない。下手な貴族よりもいい生活ができると思う。できなくても改造すればいい。まあ、現状では捕らぬ狸の皮算用か。


「ふむ。アリア、こちらに」

「はにゃっ!?」


 アリアを引っ張って位置を入れ替えて、ぶつかろうとした人と私がぶつかる。


「危ねえじゃねえか!」

「すいません」

「気を付けろ」

「ええ、まったくです」


 そのまま歩きながら前方に向かって歩いていく。するとおじいちゃんが下を向いて財布を探している。


(困ったのぉ。財布を無くしてしまった……孫娘へプレゼントを買わなければいけないのに……)


 隣を通る時にさっき拾った物を捨てて歩いていく。しかし、スリが多いし、変態が多い。オフィスの力があれば掃除と称してこの道ごと消し飛ばしたい。


(あの女の子、買えないかな)

(油断してるからスレるな)

(おお、財布がみつかったわい。良かった良かった)

(リンデのとこの娼婦は最高だ)

(今日の晩御飯、何にしようかしら?)

(くそっ、昨日の火事のせいで朝から大忙しじゃねえか。本当に余計なことをしてくれやがって)

(商会が燃えたせいで賄賂がなくなった。これからどうすれば……)

(今日こそ告白してやる! 俺はやるぞ!)

(ふふふ、邪魔者が消えた。これで俺達が飛躍できる!)


 俗物共が。って、すごくいいたい。中にはそんな人もいないけど。ふむ。同じピンク色だし、はにゃ~んを目指すのもいいかも?


「ついたよ。ここがこの街の教会」

「ありがとうございます。中に入りましょう」

「うん」


 教会の中には結構な数の人がお祈りを捧げていた。神父や修道士の人達がいます。シスターやブラザーとか言われる人だ。


「本日のご用件はなんでしょうか?」

「祝福の確認とお祈りです」

「お二人ともですか?」

「いえ、私だけです」

「では、お連れ様の方はこちらでお待ちください」

「二人でいくことはできますか?」

「お布施を頂ければかまいません」

「では、それでお願いします」

「わかりました」


 アリアと一緒に案内されたのは祝福を待つ人や確認にきた人達がいる部屋のようだ。そこには豊満な身体をした男の司祭がいた。


「アンジェリカ、その人達のご用件はなんですか?」

「ブレーノ司祭。祝福の確認とお祈りとのことです」

「なるほど……」


 俺とアリアを嫌らしく汚らわしい目で上から下まで見詰めてくる。こいつはロリコンなのか? 嫌だが、心の中を読むか。


「では、後は私が担当しましょう。貴女は別の人のところをおねがいします」

「かしこまりました」

(さて、これで邪魔者はいなくなった。後は奥の部屋に連れ込んでいつも通りに眠らせて地下に運べばいい。その後は……ふふふ)


 これは完全にアウトだ。リディアとアリアを犯している姿を想像している。妄想程度なら許してやらないでもないが、実行しようとしたらそれは許されない。リディアは俺の嫁で、アリアは俺の妹なのだから、俺だけのものだ。


「それではこちらでご案内します」

「お姉ちゃん、いかないの?」

「いえ、いきませんよ。お祈りと確認だけならここで充分ですし」


 ここで実際に行われているのだから、わざわざ奥にいく必要もない。


「いえいえ、特別にあちらの個室でやらせていただきますから」

「結構です。私達だけ特別扱いされるわけにはいきません。それに特別扱いをするならお年寄りの方にこそするべきです」

(餓鬼の娼婦風情が偉そうに……さっさと言うことを聞けばいいものを……)


 餓鬼の娼婦? え、娼婦と思われて……ああ、俺の恰好からしてそう思われるのか。肩と足は出してるし、そう思われても仕方ないのかもしれない。


「しかし、祝福の確認にはお布施を頂いています。あちらの部屋でなら割り引いてさしあげることもできます」

(身体で払ってもらうからな)

「なるほど。おいくらですか?」

「金貨1枚です」

(本当は銀貨1枚からだがな。これなら払えないだろう)


 貨幣価値はわからないが、銀貨が金貨に変わっている時点でぼり過ぎだ。


「わかりました。しかし、おかしいですね」

「なにがだね?」

「調べた時は銀貨1枚だったはずですが……」

「少し前に改訂されたのでね」

「そうですか。それならば納得です。しかし、事前の告知もなかったのですか?」

「ええ。教会の本部から言われましたから」

「でしたら、指示書をみせてもらえますか?」

「それは部外者にはお見せすることはできません」

「それは神様に誓って値上げは事実なのですね」

(もちろん、嘘だがな)

「ええ、神に誓って事実です」

「わかりました。それでは支払いましょう」

「え?」


 俺は息を吸い込んで大声で叫ぶ。


「皆さん、値上がりして確認の代金は金貨1枚らしいですよ!」

「なっ!?」

「なんだと!? どういうことだ!」

「この神父さんが言っていました」


 ホールに集まっていた人達が一斉にこちらにやってくる。俺はそれを見ながら少し微笑む。


「お姉ちゃん、どうしていっちゃうの? 特別に安くしてもらえるのに……」

「それは駄目ですよ」

「どういうつもりだ!」

「はぁ……どういうつもりもなにも、正規の金額を支払わなければ私達は神様に嘘をついたことになります。それはつまり異端者や神敵になるということですよ。そんなことはできません。皆さんもそうですよね?」

「そうだな。それは困る」

「だが、金貨1枚とか高すぎるぞ……」

「ええ、その通りです。ですが、神に誓って値上げは事実だと司祭様がいわれたのです。支払わなければいけません。ここは司祭様にちゃんと支払った証明書を書いていただきましょう。それでひとまずは神敵や異端者とされることはないでしょう」

(こいつ、何言ってやがる! 急いで言い訳を考えなければ……)


 もう遅い。観客は集まった。そして、観客は俺の味方だ。


「どういうことでしょうか。我々は値上げのことなど聞いていませんよ」

「そうですよね?」

「は、はい……」

(司教様を呼んでこなければ……)


 他の助祭の人達もやってきた。中には外に向かっていく人もいる。


「しかし、そんな大金はないぞ……」

(銀貨1枚だってきついのに……)

「そうですよ……」

「ご安心ください。ここにいる人達の代金の追加分は私が支払いましょう。その代わり、何かあれば協力してください」

(そんな金があるのか?)

(馬鹿が。これで助かる……)

「ここに白金貨が一枚ありますので大丈夫です。亡くなった方が残してくれた遺産ですが、こんな大金を持っていても怖いだけなので使ってしまいます」


 堂々と宣言してやると、皆がほっとしたようだ。これで完全に味方になった。


「そこのシスターさん。代金です。これでここにいる人達は問題ないですよね?」

「は、はい」

「では、司祭様。皆様に証明書を発行してください。その証明書を他の教会に確認しますから」

「なんだと! 私のことが信じられないのか!」

「いえ、そんなことはありません。ですが、白金貨という大金を支払ったのですから、確認するのは当然の事です。それに事実なら何も問題ないではないですか。まさか、神に誓ったことを嘘だと言われるのですか? そんなことはないですよね?」

(やばいやばいやばいやばいっ!)


 汗をだらだらと書いている司祭様を追及する。


「おい、まさか嘘なのか?」

「確かに証明書を書いて他の所に確認するぐらいは当然だよな」

「金額が金額だしな……」

「それもありますが、これからもこのような値段だと生活に響きますし、生きていられなくなります」

「そうだな」


 合いの手を入れつつ、話しの内容を誘導していく。全員の思考を読んで理解して、都合のいいように思考を誘導する。人は信じたいものを信じ、信じたくないものは信じない。なら、どれが信じたいかはわかるのでそこをうまく誘導すれば使える。って、偉い人が漫画やゲームでいってた。悪役だけどな!


「司祭様、どうなんですか?」

「証明書を書くくらいはしてあげてもいいんじゃないですか?」

「いや、それは……」

(そんなことをすればばれるではないか。今まで着服した金が……いや、それどころか操作されれば手に入れた女を楽しんでから奴隷として売っていたことも……)

「あれ、司祭様。もしかして、本当に嘘だったんですか?」

「ち、違うっ!」

「だったら問題ないですよね」

「違うといっているだろ! こいつらを摘まみだせ!」


 教会に居た騎士の人達が動いて俺達を捕まえようとする。アリアが不安がって手を握ってくる。


「大人しくしろ」

「騎士の方々、いいんですか? 司祭様が嘘をついているのなら、それに従った貴方達は神を貶めた異端者になりますが」

「っ!?」

「違う!」

「だって、そうでしょう。私は証明書を書いて他の教会に確認するといっているだけです。拒否して言葉ではなく力で追い出すということは事実だと認めたことになります。もしや、この件に教会に所属する騎士様も関わっているのですか? 違いますよね?」

「そうだそうだ! やましいことがないなら別に問題ないじゃないか!」


 人が騒ぎを聞きつけてどんどん増えていく。そろそろ頃合いか。


「ああ、もしかして教会に訪れてから行方不明になった人がいるという噂や行方不明になった人が奴隷として売られているという話もききましたが……もしかしてそれも……」

「ふざけるな! そんなことはない!」

(なんで噂が流れているんだ! まさか、奴隷商共が裏切ったのか! いや、燃えていたはずだから問題ない。証拠はでてこない)


 ちょろい。駄目だ。自分でも顔が悪くなっていくのがわかる。これが愉悦という感情なのだろうか? どちらにしろ、ポーカーフェイスを忘れるな。一つ手をみするとこちらがやばいのだから。


「そういえば噂には司祭様が奥の部屋に連れていってから、帰ってこなくなったという噂もありましたね。ああ、もしかして私達も危ないかもしれません。さっき、こっそりと寄付金を割り引いてあげるから奥の個室においでといわれましたし……」


 震える演技をしながらアリアを抱きしめる。アリアは本当に怖いのか俺を抱き返してくる。当然、俺達をみていた人達が一斉に司祭様に視線をやる。野次馬にもどんどん話が広がり、中には噂を聞いたという奴まででてくる。


「確か、道具屋の店主の娘がいなくなったって……」

「俺は……」

(なんでだ。なんでしってやがる! ばれるようなへまはしていないのに!)

「司祭様。弁明を聴かせてください。事実でないのら、構わないではないですか」


 顔を真っ青にしながら民衆に詰め寄られる司祭様。騎士達は自分達も巻き込まれるかもしれないと動きを止めている。また、一部は動こうとしているようだが数が足りてない。


「静まり、道を開けてください」


 男性の声が響くと鎧を着た騎士に先導されて一人の偉そうな人がこちらにやってきた。


「私はこの教区を担当している司教です。トラブルが起きたと助祭が駆け込んできましたが、何事ですか?」

「こ、これは……そこの者が私に濡れ衣を……」

「違います。他の人にも確認していただければわかります。そうですよね?」

「ええ、そうです」

「では皆さまから順番に話をききましょう」


 聞き取り調査は味方に引き入れた民衆にも及んでいる。私もちゃんと事実を報告した。


「なるほど。私もその話は聞いていません」

「で、でっちあげです! 私はそのようなことを……」

「私は確かにききました。アリアもそうですよね?」

「う、うん」

「ち、違う! 貴様らのでたらめだ!」

「まあ、私達の聞き間違いというならそれでもかまいませんが、誘拐の件はどうなんですか?」

「違う! だいたい私がやったという証拠はあるのか?」

「証拠なんてありませんよ。私は噂があると伝えただけですし。それとも証拠があるんですか?」

「あるわけないだろう!」

(部屋の引き出しの二重箱はばれるはずがない。それに地下室の入り方もわからないだろう)

「こういう時、隠し場所は部屋の引き出しの二重箱の底とか地下室があったりするんですよね」

「なんでしって……っ!」

「おや、適当にいったのですが、図星だったようですね」


 俺はニコニコしながら司祭様をみる。胸の中には可愛いアリアが不安そうにしているが、お兄ちゃんに任せなさい。


「司祭を捕らえて部屋や教会を調べてください。探索者ギルドに連絡してスカウトを数人派遣してもらうのも忘れないでください」


 司教様が指示を出してくれているお蔭でスムーズだ。司教様も調べる。


(面倒なことをしてくれた。しかし、ブレーノ司祭はあちらの派閥だ。攻める恰好の標的になる)


 駄目だ。教会も腐ってやがる。さっさと確認だけするとしよう。


「さて、貴女達についてですが……」

「なんですか? こちらは巻き込まれただけですよ」

「ええ、そうですね。悪事を暴いてくれたのなら、報いなければなりませんが……もうしばらくお待ちください。その間に貴女達の目的を終わらせましょう。お祈りと祝福の確認でしたね」

「はい」

「では、祝福の確認からしましょう。案内してあげてください」

「わかりました」


 最初にであったシスターに連れられてお祈りのスペースにやってきた。


「この石板に手を触れてください」

「こうですか?」


 触れると脳裏にステータスっぽいものが表示された。それによると生命力、魔力、筋力、敏捷、器用、知力、精神、魅力がEXからHまでのあるようで、俺とリディアのが表示された。



 姫柊薫

 生命力:D 魔力:G

 筋力:G 敏捷:G 器用:H

 知力:D 精神:F 魅力:G

 祝福:転身スロットEX(1.オフィス、2.なし)、リーディングC


 リディア

 生命力:G 魔力:A

 筋力:H 敏捷:D 器用:EX

 知力:EX 精神:A 魅力:S

 祝福:リーディングEX、転身スロットA(1.オフィス)



 これを見て思う事は格差社会ひどい。こっちとら最高でFなのにリディアはEX三つだ。まあ、肉体面は全然みたいだが、それでも高い。そして魅力Sは納得だ。まあ、これはあくまでも才能が表示されるようなので現状、もっと低い。

 肝心の祝福だ。転身スロットを確認するとオフィスのところに再使用までの時間として残り1日と表示されていた。連続使用はできないようだ。

 しかし、見たお蔭でいいことが判明した。それはスロットがまだ二個も空いていることだ。ジェネシスオンラインではキャラクターの切り替えも普通にできた。最大で5体までセットできる。当然、課金しないと駄目だ。これはリディアに連絡してセットするしかない。俺が用意できたらいいんだがな。

 しかし、連続使用が駄目なのか。いや、オフィスの効果を考えるとウロボロスを出している限りは大丈夫なのかもしれない。転身の切り替えさえみ失敗しなければどうにかなりそうだ。どちらにしろリディアがいないと話にならないな。


「アリアはどうでしたか?」

「代償召喚、なくなってた……」

「もう少し待っていてください。ダンジョンを踏破して別の物を手に入れましょう」

「うん。でも、別にいいからね。お姉ちゃんがいればいいから」

「アリア……」

「お祈り、しよ……?」

「はい」


 お祈りの場所に移動してお祈りを始める。すると少しして眠そうな声でリディアの声が聞こえてきた。


『……薫さん……聞こえますか……?』


 待っていたリディアの返事にすぐに答えて、これまであったことを説明してく。


『どうやら大変だったようですね。ですが、こちらもちゃんと未来を読んで準備はしてあります』


 それは非情に助かる。しかし、それならもっと早くに連絡が欲しかったな。


『すいません。寝ていました。昨日から今朝にかけて徹夜でジェネシスオンラインをやっていたもので……』

「なにやってんの」

「?」

「なんでもないですよ」

『仕方ないですよ。オフィスちゃんのイベントがあったのでクリアしておいたんです。専用装備とかいうのがイベントと一緒に実装されて大変だったんですよ?』


 ごめんない。素直にうれしいです。で、肝心の装備は?


『オフィスちゃんのは白い軍服と青い軍服ですね。通常装備が黒い軍服です。白い軍服は航空戦闘が得意になるタイプで、青い軍服は深海装備らしいです。機能は白が飛行、青が潜水機能らしいです』


 それぞれの制服によって違うタイプが用意されているのか。しかし、武器が欲しい。


『武器も用意しておきますが、まずはスロットの問題です。とりあえず追加でスロットを二つ解放させます。そこに追加のオフィスちゃんを入れておきますね。白い軍服と青い軍服です。それともう一つのスロットはすいませんがこちらで選ばせてもらいました』


 何を選んだのだろうか? まあ、なんでもいい。オフィスの力を使えるなら問題ないだろう。


『セットできました。私が選んだのはの輪廻の女神フェルトです』


 またとんでもない物を選んだな。輪廻の女神フェルトは再生の聖女フェルトが真の力を解き放った時の姿だ。その名の通り、輪廻転生を司る力を持つ。ゲーム的には回復と支援のスペシャリストで、プレイヤーが死なない理由の一つだ。彼女は操作キャラとしては蘇生から状態異常の回復、様々なバフなど攻撃以外はなんでもござれ。別名はゾンビメイカーや絶望の聖女。例え味方が倒れて輪廻転生を行わせ、強制的に蘇生しては戦わせるのでこの名が取り付けられている。高難易度のレイドイベントでは必ず一人は完全覚醒が欲しいと言われている。


『病気になっても彼女の力があれば問題ありませんからね』


 その通りだ。病気や怪我のことを考えるといてくれると助かる。何せ蘇生能力があるのだから。


『それと専用装備は今回のイベントで強化できたので強化しておきました。オフィスちゃん50枚も集めるのは大変でした』

「ま……こほん」


 今なんていった。50枚? もしかして軍服三着の強化って10枚のオフィスが必要なのか? それに追加された二体のオフィス。そのどれもがスキルと限界突破がされていた。つまり、ランク10を60枚集めたというのか。それにフェルトも合わせるととんでもない数になるはずだ。


『お金がかなり消えましたが、ちゃんと稼いでおいたので安心してください』


 まあ、それは任せておこう。なんせ知力の才能がEXだったしな。


『ああ、それとそこでフェルトへの転身はしないでください。いえ、別に薫さんが望むならいいのですが……聖女認定されて大変なことになります』


 あぶな。いまここで転身しようと思ってたぐらいだ。俺とアリアに自動蘇生の魔法をかけておこうかと思ったのだ。


『そのまま出ると安全です。それと教会からでて約30分後に転身してください。襲われますので撃退して孤児院へ向かってください。その後は任せます。すいませんが、しばらくまた留守にするので対処をお願いします。吐血ばかりして貧血で大変です。ああ、これは未来を読んだ代償ですので気にしないでください。命に別状は多分ないとおもいますので』


 未来のみすぎだ。身体を気を付けてくれよ。


『わかりました。そちらもお願いします』


 さて、これでどうにかなったな。リディアの言われた通りに動こう。そう思っていると後ろからシスターがやってきた。


「お祈りは終わられましたか?」

「はい。アリアももういいですか?」

「うん。ちゃんとしたよ」

「そうですか。良い娘です」

「では、こちらにどうぞ」


 案内されたのは教会の奥深くで、とても豪華な部屋だった。そこには司教様が座っていた。


「よくきてくださいました。ブレーノ司祭の容疑がかたまりましたので、お礼の品を差し上げます。何がいいですか?」

「でしたら、祝福をみれるアイテムが欲しいです」

「アリアもそれでいい、です……」

「大元のは無理ですが、個人用の小さい物ならいいでしょう。二枚でいいですか?」

「はい。それでおねがいします」

「ではこちらになります」


 すんなり貰った。これで鬱陶しいのは終わりだ。後は孤児院に向かうだけだ。


「時に貴女方はこれからどうするのですか?」

「孤児院に向かいます」

「よければ我が教会に入りませんか?」

「いえ、孤児院の運営をするので必要ありません」

「孤児院の運営ですか……経営者がなくなったそうですが……」

「はい。生前に譲渡の契約書を交わしておりましたので、私どもが経営します」

「失礼だが、資金はあるのかな?」

「あります。稼ぐ手段もあるので問題はありません」

「そうですか。何か困ったことがあれば訪ねてきてください。できる限り力を貸します」

(彼女には秘密があるはず。色々と探らないといけないな)


 面倒極まりない。だが、邪魔をするなら教会ごと消えてもらうだけだ。なんの問題もない。


「では、失礼いたしました」

「はい」


 アリアの手を握って教会からでてしばらく進むと監視されている気がする。そのまま適当に歩いて30分経ったところで白い軍服姿のオフィスへと転身すると後ろから襲い掛かられた。


「貴様のせいで、貴様のせいでぇぇええええぇぇぇっ!!」


 それはブレーノ司祭だった。血走った目に手に持った血塗れの剣。


「ひっ!?」

「はぁ……」


 降られた剣を召喚した四連装機関砲で受け止めて弾き飛ばす。別の四連装機関砲を上空から下に向けて召喚して引き金を引く。弾丸の雨をブレーノ司祭にプレゼントして消し飛ばしてから孤児院に向かう。


「ここでいいですよね?」

「う、うん……」

「大丈夫ですよ。アリアは私が守ります。だから安心してください」

「ありがとう……」


 怖がっていたアリアを抱いたままボロボロの孤児院に入っていく。中では院長が死んだことで慌てているようだ。


「失礼します。責任者と子供達を集めてください」

「あ、あの貴女はいったい……」

「もしかして、リディアちゃんとアリアちゃん?」

「そうです。そして、ここの新しい院長です」


 俺は譲渡契約書をみせて孤児の女の子達を集めてもらう。女性専用の孤児院だけあって、本当にだらしない格好の女の子ばかりだ。


「皆さん、お久しぶりです。今日からここの新しい院長になりましたリディアです。私の言う事には従ってもらいます。嫌なら出て行ってくださってかまいません。ですが、衣食住は保証します。お腹いっぱい食べさせてあげるので、貴女達には働いてもらいます。では、リディア。子供達のことは任せます。私は職員の人と話があるので」

「うん、任せて」


 アリアに任せて、私は残った職員を連れて院長の部屋にいく。そこで孤児院には不釣り合いな豪華な椅子に座って足を組む。この部屋は無駄に高い物が置かれている。


「お、おい、その譲渡書をどこで手に入れた!」

「院長から昨夜もらいました。ああ、ちゃんとお話ししましたよ。その後に不幸な事件に巻き込まれたようで痛まれます」

「そんなはずはない! 次期院長は俺だ!」

「そうですか。ですが、契約書と権利書はこちらにあるので私の物です。それと職員の皆様には聞き取り調査を行った後、しかるべき処分を受けてもらいます。いかんともしがたいことに前院長は人身売買に身を染めておられました。あなた達の中に関わっているものがいるかもしれません。そのような者をこれからの孤児院に必要ありませんので消えていただきます」


 言葉と同時に指を鳴らして周りに四連装機関砲を複数よびだして、入口や壁を完全に防ぐ。


「いっておきますが、この攻撃は防げませんし速さはあなた達が動くよりも圧倒的に速いです。死にたいのならお好きにどうぞ。なに、私の質問にちゃんと答えてくれればいいのです。では、最初の質問です。あなた達は人身売買に関わっていましたか? はいかいいえでどうぞ」


 質問を繰り返し、情状酌量の余地があるものとないものをわける。情状酌量の余地がある者として助けるのはここの卒業生で仕方なく従っていたメリルさんだけだ。それ以外は職員は全員黒だったのでさっさと叩き潰した。


「り、リディアちゃん……なにも殺すことは……」

「ありますよ。これからここの人と一緒にリディアと暮らすんですから、安全は確保します。こいつらは逃せば後々手下を連れて襲撃してきます。始末するのが一番手っ取り早くて安全ですし。後、私は家族や味方には甘いですが、敵には一切容赦しません。敵は根絶やしにします」

「もしかして、昨日の事件……」

「さあ、なんのことかわかりません。メリルさんは引き続き孤児院のことをよろしくお願いいたします。差し当たって引っ越しの準備です。それと私についてくるのが嫌な子達はお金を渡してでていってもらいますので、その辺も話しておいてください。では、もういっていいですよ。私はここの掃除があるので」

「は、はい……」


 さて、私の、俺の可愛いアリアのために孤児院の経営を頑張るか。といっても、こんな治安の悪い街からはさっさととんずらするけどな。







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