第四話 緊急事態
早朝、目覚めると一人で寝たはずなのに温もりがベッドの中にあった。起き上がって布団を捲ってみると、まず目に入ってのは自分の、リディアの一糸ま纏わぬ姿。これは寝る時に転身を解除して寝たからだ。転身前に身に着けていた下着とかは汚れがひどく、臭いもあれだったので脱いだのだ。だから、裸なのは問題ない。
問題は俺の身体に抱き着くようにして眠っている青みのかかった銀髪美少女だ。彼女は幸せそうに人のことを抱き枕にしている。
これはおかしい。別のベッドに寝ていたはずだ。ちゃんともう片方に寝せていたのだから。まあ、姉を求めているんだろうし、怖い思いをしたのだから仕方ないだろう。
ベッドからでると欠伸がでてくる。それに裸なので少し寒い。
「ふぁ~転身・おふぃす」
眠いので目を擦りながら転身の言葉を発する。しかし、何も起こらない。
「え?」
つい声をだしてしまったが、身体は一切変化ない。嫌な汗、冷や汗がだらだらとでてくる。
「落ち着け、落ち着け……まだ慌てる時じゃない。落ち着いてもう一度するんだ。てっ、転身・オフィス……」
何度いっても反応がない。なにこれ、もしかして一度転身したら終わりとかそういう奴なのか?
「そうだ……リディア、リディア、聞こえるか?」
何度も声をかけるが、反応はない。もうどうしよもうないのかもしれない。こんな世界で能力なしはしねる。財産は全て全てはウロボロスの中に入っている。つまり、別けておいた少しのお金しかない。
「お姉ちゃん……?」
「アリア……なんでもないですからまだ寝ていてください」
「うん……」
起きかけていたアリアをどうにか寝かせた後、色々と考えて試していく。その結果、判明したのはかなりまずい状況だ。まずステータスは開けない。なぜ転身できないかは依然不明のままだ。外にでるのはすごく怖いが、ここは仕方ない。幸いやばい連中はすでに始末しているのでたぶん大丈夫だろう。そう思うしかない。
「アリア、すいません。服をちょっと貸してください」
「ふえ? いいよ……?」
寝ぼけているアリアの服を脱がしてから、布団でぐるぐる巻きにする。
「お姉ちゃん?」
「少しの間、隠れていてください。すぐに服を買ってもどってきます」
「え? え?」
ベッドの下の隙間を綺麗にしてから、アリアをそこに入れて隠れておいてもらう。これで少しの間は大丈夫だと思う。アリアに買いにいかせるよりはまだましだろう。しかし、心配なのでできれば別の手段を講じたい。
「必ず戻ってきますから、少しだけ待っていてください」
「う、うん……はやくお願いね」
「はい。それと不味いかもしれませんが食べ物も持ってきますからね」
「待ってるから、ちゃんと迎えに来てね……」
「もちろんです。いってきます」
「いってらっしゃい」
急いで部屋をでて鍵を閉めて一階へと降りる。すでに日が昇っていて、食堂や街の方から喧騒が聞こえてくる。特にちらりと開いている扉からみたら全身鎧を着た騎士や兵士のような連中が増えている。
「おはよう。もう昼だよ。妹ちゃんはまだ寝ているのかい?」
「ごめんなさい。それで一つお願いがあるのですが、よろしいでしょうか?」
「なんだい? 預かってくれとかは無理だよ」
「実はぼろぼろだった服が破けてしまって使い物にならないんです。ですので、お金を渡すので適当に見繕って買ってきて欲しいのですが……」
宿の人に頼めば持ち逃げされる可能性は低いだろう。微かな金より店の方が大事だろうしな。それでも持ち逃げされたら、それは諦めるしかない。
「昨日の服がかい?」
「いえ、あれは能力、祝福でだしたものです。解除すれば裸だったので……」
「なるほどね。その服は妹ちゃんのかい」
「はい。なので食事を持っていくついでにお願いにきました」
「駄賃はもらうよ」
「構いません」
「よし、いいだろう。任せておきな」
「ありがとうございます」
とりあえず、金貨を渡しておく。どれほどの価値があるかはわからないが、買えるだろうし。
「じゃあ、これで色々と用意しておいてやるよ。荷物はほとんどないみたいだしね」
「おねがいします。私は食事を運びます」
「既にお昼をすぎているから、料金が発生するからね」
「はい。大丈夫です」
「ナージュ、ちょっとここを頼むよ」
「了解だ、ボス」
「女将だっていってんだろうが! お客様の前だよ!」
やってきたのはナージュと呼ばれた赤髪の気の強そうな女性で、胸も大きくミニスカドレスのような恰好をしていた。首には首輪がとりつけられており、身分が奴隷だとわかるが腰に二振りの剣を装着している。
「すまないね。あの子はもと海賊の奴隷で宿の護衛としても雇っているんだ。戦力としては十分なんだけど、口がねえ……」
「そればっかは粗暴者なんでなかなかなおんなくてな。まあ、ボ……女将の息子には命を拾ってもらった恩もあるから、ここの警備は任せてくれていいぜ。これでも60人の部下を従えてた一端の元賞金首だからな」
「大丈夫なんですか?」
「ああ、平気だよ。ちゃんと国に届けてある正式な奴隷だからね。隷属の術式も発動したこともないし、ナージュはうちの息子にぞっこんだからね」
「もしかして、息子さんの奴隷なんですか?」
「ああ、そうだよ。息子が行き倒れてるナージュを助けたら、掘れたらしくてね。それで自首させて奴隷にしたんだよ。捕まえた者が賞金の代わりに相手を奴隷とすることは認められているからね。もっとも、解放には数年、奴隷としてちゃんと働いてりうかが条件になるからね」
「あたしは後数ヵ月だからな。それが終ったら結婚するんだ。だから……邪魔すんじゃねえ。てめぇが昨夜、抜け出して何をしていようがしったこっちゃねえが、アタシ達に迷惑はかけんなよ」
「ええ、敵にならないかぎりはですが」
後半を耳元で囁かれて正直言ってかなり怖い。だが、リディアとの約束があるし、義妹であるアリアのためにも義理の兄として頑張らないといけない。
「アンタはお客様になにをしとるんだい!」
「すいやせん。ちょっと可愛い女の子に忠告をしていただけですって。ほら、アタシ達の部屋に近付かないようにってね。子供には刺激が強いですから」
「まったく……アンタが次の女将になるんだからしっかりと覚えないと息子はやらんからね」
「が、がんばります……」
さっきまでの強気な態度が嘘のようにしおらしくなった彼女に思わず笑ってしまった。
「すいません。強気な態度がワンコのようになったギャップが面白くて……」
「うるせぇっ!」
「こらぁ!」
「すいません!」
「まったく。勘弁してやってくれるとありがたい。すぐに服は買って来るからさ」
「お願いします。それではまた」
「ああ」
俺はさっさとその日の定食っぽいのを二人分貰って二階の部屋に移動した。そこで下からアリアをだして一緒に食事をする。その後は女将さんが服を持ってくるまでアリアと遊ぶことにした。
「お姉ちゃん、あのカッコイイ服はどうしたの?」
「それが急に使えなくなったんです」
「原因はわからないの?」
「わかりません。色々と試しているのですが……アリアは何か知りませんか?」
「はにゃっ!? あ、アリアがお姉ちゃんより詳しいとは思わないけれど……えっと、確か使用回数に制限があるタイプの祝福とかもあるし、神殿にいってみるしかないんじゃないかな?」
「神殿に?」
「祝福を貰えるのは神殿だし、そこで鑑定してもらえるから……」
「なるほど。では、服が届き次第神殿にいきましょう。アリアには悪いですが、孤児院は後にしてくだい。まずはアリアを守れるだけの力がいりますから」
「大丈夫。お姉ちゃんに任せるよ。アリアは足手纏いだから……あうっ!?」
アリアを抱きしめて背中を撫でてあげながら諭す。
「そんなことはありません。アリアが代償召喚を使わなければあそこで終わっていたのですから」
「ありがとう、お姉ちゃん」
嬉しそうにほほ笑むアリアの顔が何よりの原動力になる。リディアもそうだったんだろう。て、リディアで思い出した。現状は歪だが、この身体はリディアのものだ。もしかしたら、リーディングの力が使えるかもしれない。祝福という能力が魂だけに依存するのか、それとも身体だけなのか。はたまたその両方か。使ってみないとわからない。ウロボロスの時はあくまでも演算の結果だった可能性も否めない。やはり神殿はいかなくてはならない。だが、その前に実験はできる。
「アリア。好きな数字を思い浮かべてください」
「数字?」
「わかりませんか。なら、1,2,3,4,5から好きな物を選んで私にはいわないでください」
「うん、いいよ。選んだよ」
「では、少し待ってください」
リーディングを意識してみるが、なにも思い浮かばない。アリアに触れてやってみると4という数字が浮かんだ。
「4ですか?」
「はにゃっ!? 正解だよ!」
「では、次は……」
とりあえず、色々と試した結果。どうやら手を握ったりといった接触をしていれば相手の心が読めることが判明した。それに使えば使うほど力も強くなってくるようで、実験の途中で相手の思考も読めるようになってきた。女将がくるまでに半径1メートル以内なら思考が読めるようになった。これはおそらく、リディアの身体が思い出しているからだと推測できる。しかし、未来視などというとんでもない力は残念ながら扱えていない。