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第二十話 三人での旅1 北海の悪魔





 冬を過ごすための安全な拠点は手に入れ、無事に防衛してから数日。次は日本からの物資に頼らずにこちらである程度の生計をたてるために商売をする。それにはまず商業ギルドに登録しないといけない。かといってウロボロスで入港すると、色々と面倒が起きる。

 ウロボロスを見たら、絶対に接収とかふざけたことを言ってくるかもしれない。その辺、リディアはどう思う?

 艦長席に座りながら、背もたれに持たれつつリディアに聞いてみる。


(旦那様、それならこちらの武力を事前に見せておけば有象無象はいなくなります。そうですね……この近くのダンジョンを攻略してモンスターの死骸を牽引してくるか、海賊に襲われている船を助けて一緒に入港するか……こちらは駄目ですね。こんな氷に覆われた場所にくる船なんてあまりないでしょうし……)


 そうか。遠慮する必要なんてないんだ。だったら、いっそのこと氷を破壊しながら港に入るとかどうだろうか?

 どうせ地面を削らないと入港できないかもしれない。


(そうですね。それは沖合までにして、後は停泊しながら上陸艇でいけばいいかと思います。沖合にウロボロスがあればそれだけで威圧になるでしょうしね)


 通信機も見せておけば大丈夫だろう。護衛としてリュミドラをつれていけばいいし、アリアがウロボロスに残っていれば砲撃くらい簡単にできる。


(それと最初から積荷をもっていくのではなく、一握りの宝石程度でいいでしょう。まずは商業ギルドに登録してから、後ろ盾を得ましょう。それとあくまでも後ろに国がいると匂わせておけば相手が勝手に便宜を図ってくれるでしょう。こちらは知らず存ぜぬでいけますから)


 こちらが認めなければいいだけだしな。よし、それでいこう。次は売り物を決めよう。候補としてあがるのは、胡椒や砂糖、それにサルベージ宝石類だな。


(待ってください。宝石類はこちらでも使えます)


 普通にお金は稼いでくれたんだろう? わざわざ宝石じゃなくてもいいんじゃないか?


(銃器類を買うのにお金はそこまで使えません。宝石の方が安全です)

「それもそうか」


 艦長席の上で三角座りをしながら思考する。確かに公安とかに目を付けられている。海外で大量の武器を購入したはずなのに、それが行方不明になっているのだから調べるのは当然だ。


(それとこちらでも貿易会社を立ち上げたいのですが、よろしいでしょうか?)


 貿易会社か。実際に日本の品物を船に乗せて国外に出すことで消費された物資の行方を眩ませるんだな。


(そうです。国外なら輸出したことにしてある程度は誤魔化せますし、実際に法律に則って貿易をしますから大丈夫かと。税金も納めますからね)


 確かに国内でいつの間にか消えている大量の物資とか、怖すぎる。それも税金が支払われていないし、俺達のせいで物価が上昇することもありえる。

 わかった。そっちは全部任せる。逆にこっちは任せてくれ。


(お願いします)


 正直言って、役割は逆だろうと思うが……地球では武力がほぼ必要ない。しかし、知識や知能が必要だ。騙されたりする可能性が非常に高いからだ。しかし、心を読めるリディア相手に嘘など通用しない。逆にこちらなら、俺のウロボロスの力が十全に生かせる。馬鹿な俺でもウロボロスの武力を背景にすればまともな交渉を相手が自らしてくれる。


「適材適所だな。こちら、ウロボロスの艦長、リディアです。近場の街に買い付けにいくための準備を行います。連れていくのはアリアとリュミドラだけです。他の人はお留守番をお願い致します。帰港は一日から二日だと思われますので、買ってきて欲しい物がある人は今から聞きにいくので教えてください。以上です」


 通信機のスイッチを入れて業務連絡をしてから、ウロボロスから出て皆に話していく。やっぱり一緒に行きたいと言ってくる子はいるけれど、今回ばかりは残ってもらう。

 ここの防衛にも戦力を残したいし、相手の対応次第で虐殺を行う可能性もある。数を絞ることでリュミドラの負担も減らせるし、アリアに関しては俺が癒しとして連れていきたいだけだ。当然、街ではお留守番である。







「という訳で三人だけの出航です」

「どういう訳かはわからないけどね……」

「あははは……」

「まあ、そちらはおいておくとして、嫌がらせのように大量に買ってきて欲しい物を頼まれましたね」


 妹達に頼まれたのはケーキやお菓子、玩具の類だ。防寒着や毛布とかはこれでもかと用意してあるので必要ない。地球の冬用キャンプ道具は優秀なのだ。そうなると嗜好品になるのは必然といえる。

 海で使う勉強道具も注文が多い。後は生理用品なんかもあった。生理用品はともかく、お気づきだろか? これら全て日本の商品が求められているのだ。こっちに売っていないような奴ばかり求められている。


「でも、肉! ってのもあるよ」

「まあ、お土産は適当に買っていきましょう。必要なのはもう揃っていますからね」

「肉は重要だよ!」

「はいはい。さて、準備ができましたね。機関始動。微速後退」


 前から入っていたウロボロスをゆっくりと後退させて、港から出航する。ある程度下がってから周りの安全を確かめ、艦長帽をかぶる。


「進路を0-9-0に」


 ウロボロスをゆっくりと後退させながら回転させ、真東になるように変更する。自動操縦モードがあるのだけれど、やってみたかっただけだ。目的地は村や街を何個か飛ばした先にある大きな港で、すでに艦載機による土地のデータは習得してある。


「Gキャンセラー及び自動防衛システム起動。速力80ノットで目的地まで前進」


 各システムが立ち上がり、ほとんど揺れがなく移動していく。これでやることがなくなった。人の手がなくても充分に稼働するウロボロスなので、移動中は本当にやることがない。それこそ自分で操縦するとなると別だけど。


「さて、これでやることはなくなりました。というわけで、アリアはこちらに」

「?」


 近付いてきたアリアを抱き寄せて、膝の上に乗せてから後ろからあらためて抱きつく。それから頭を撫でていく。


「お姉ちゃん?」

「スキンシップです。普段は他の妹達の手前、できませんからね」

「ボクがいるんだけどな~」

「リュミドラも撫でてあげましょうか?」

「それじゃあ、お願いしようかな」


 リディアの身体より大きなリュミドラは艦長席の近くで膝立ちになって頭を差し出してくる。なので思う存分、耳をもふもふさせてもらう。二人共、とても気持ちがいい。


「それで、これから暇なんだよね?」

「そうですね。なにかしたいことはありますか?」

「私は読書です……」

「じゃあ、ボクはゲームかな」

「ゲームですか。いいですね、携帯ゲームで遊びましょうか」

「お~いいね。じゃあ、公園に移動しようよ」

「そうしますか。ここにいる必要はないですしね」


 そう思って公園にある木に背中を預け、アリアを膝枕しながらリュミドラと携帯ゲーム機で遊ぶ。遊ぶのはFPSと呼ばれるシューティングゲームだ。これを二人でやっていく。アリアは寝転びながら本を読んでいる。


「ねえ、これってもっとリアルにできないかな?」

「リアルですか……VR、ヴァーチャルシミュレーションぐらいなら可能かもしれませんね」


 ウロボロスの機能を使えばいけそうだ。調べてみると可能だとわかった。これは訓練で使えるかもしれない。


「どうやらできそうですが、組むのは大変そうなので、少し待ってください」

「了解」









 しばらく遊んでいると、急にけたたましい警報が鳴り響く。急いで目を瞑って確認すると、視界一面に氷に覆われた海が広がっている。そこをフィールドで削って進んでいたようだ。

 問題は空から降ってくる大量の氷柱。それらがフィールドにぶつかって消えていく。このままでも大丈夫かと思ったが、大量に降り注ぐことで、ウロボロスの保有するエネルギー量が減りだしていることがわかる。生み出す量よりも減る量の方が多いのだ。このままいけばいずれは尽きてしまう。

 相手を探して索敵を全開にすると、氷柱の中にある無数の反応と、かなり遠くに巨大な生命反応を確認できた。視界を拡大して巨大な生命反応を確認すると、それは王冠を被った氷山のように大きなペンギンだった。そう、ペンペンである。

 氷柱の中を覗き見ると、小さなペンギンが高速回転しながら時速数百キロで突っ込んできている。


「なるほど、可愛い悪魔ですか」

「敵襲?」

「そうです。アリア、リュミドラ、移動しますよ」

「うん」

「了解」


 CICに移動し、席に座ってちゃんとシートベルトを嵌めてもらわないといけない。その間にこのままじゃフィールドだけでエネルギー切れになり、艦が破壊される可能性もある。


「機関最大。対空迎撃開始」


 四連装機関砲や高射砲を撃ちまくって氷柱の雨を粉砕する。しかし、自動照準システムを使っても数が多すぎる。なので、重力弾頭を使用したミサイルを放ち、ブラックホールを生成。傘として防壁にする。問題はこちらの対空迎撃も使えなくなる。


「今の間に相手のボスを撃ったら?」

「うん。ここダンジョンだと思うから、そっちの方がいいかも」

「そうですね。しかし、なんでダンジョンに入ったんでしょうか……? 艦載機を飛ばした時は大丈夫だったのですが……」

「もしかして、艦載機って地上しか飛ばしてなくない?」

「あっ……うっかりしていましたね」


 海を通らずに陸地に沿って飛んだだけだった。そうなるとウロボロスは超弩級魔導戦艦なだけあって、大きいから沖合の方を通ることになる。


「最初から全力がいいよ」

「そうですね。主砲、発射用意」


 相手は油断できないので、主砲を発射してみる。800口径の巨大な砲門を二門召喚し、全力で放つ。


「撃てぇぇっ!」


 衝撃でウロボロスが急激に下がる。放たれた砲弾は着弾する前にありえない速度で残像を残して避けられた。相手の背後に数百メートルはあろう円形の漆黒の球体が現れて全てを飲み込んでいくけれど、相手はそのままソニックムーブを発生させながら突っ込んでくる。


「回避っ!」

「わかってるけど間に合わないっ!」


 でも、このまま突っ込まれてもまだフィールドは持つ。相手は船の前まで接近して飛び上がり、足の先に巨大な氷山を生み出す。それはドリルの形をしていて、自ら掴んで高速回転しながら突っ込んでくる。


「フィールドもっ、もつ?」

「わからない」

「どうする?」

「ぶん殴ります。捕まっていてください。回頭っ!」


 氷山がフィールドによって削られていくそばから作り出されていくので、このままだと死ぬ。だから、ウロボロスを急速に回頭させて召喚した巨大な砲門で横からぶん殴る。

 目標の氷山ごと吹き飛ばすことに成功したので、動けない空中にいる相手に残していたもう一つの砲門から一発を放つ。


「飛べない鳥は空中では無力ですっ!」

「それ、フラグって奴じゃないかな~」

「アリアもそう思うよ?」

「シャラップっ!」


 巨大なペンギンが羽ばたいて生み出すソニックムーブで弾頭の速度を衰えさせながら、風圧で回避する。


「当たれば死ぬのにぃっ!」

「お姉ちゃん落ち着いて」

「ほら、弾幕を張ればいいだんよ」

「そう、ですね。あたらぬのならばあたるまで撃てばいいのです。カーニバルです! 全砲門全弾撃てぇっ!」


 ミサイルも機関砲も全て使って重力弾頭を放つ。在庫の一斉放出。採算なんて完全無視であたるまで撃つ。そもそも、超弩級魔導戦艦で精密射撃をする方が間違っているのだ。


「あはははっ、もっと弾幕をっ!」

「お姉ちゃんが壊れた」

「大概トリガーハッピーだよね」


 ミサイルや機関砲を放つ振動が直に伝わってきて、とても気持ちがいい。なんだか、恍惚とした感じになってしまう。思わず立ち上がって転移し、外でくるくる周りながら弾幕の雨を回避して接近してくるペンペンを見詰める。

 自動照準を停止し、こちらで相手の起動を高速演算で計算して詰将棋のようにしつつぶっ放す。俺と機械の思考に別れている感じすらする。

 相手は高速飛行しながら、他の小さなペンギンと一緒に氷柱を吐きながら小型のブラックホールを避けてくる。小さいのはそのまま吸い込まれていくれど、大きいのは別だ。

 しかし、このままでは突破されると計算がでたので、ウロボロスを下がらせる。するとそこに巨大なペンギンことペンペンが突撃してきてフィールドを突き破って船の一部を破壊する。同時に近距離から四連装機関砲の徹甲弾の雨をプレゼントしてやる。相手は砲弾を腹で受け止めてこちらをじっと見詰めてくる。


「「殺す(殺す)」」


 互いに見つめ合いながら、高射砲を甲板に向けて召喚して放つ。相手は口から光線を放ってこようとしていたようで、高射砲の一撃が右目に命中して斜線がずれる。相手の光線が掠めた場所は氷結してしまっている。

 俺は背後に大量のミサイルポッドを呼び出して近距離から大量に放つ。流石に重力弾頭は使用できない。カバーが外れて放たれる大量のミサイルを相手が羽で吹き飛ばす前に起爆させてダメージを与える。俺は転移で場所を移動しているので問題ない。甲板はかなりダメージを負ってしまったが倒せればそれでいい。

 爆炎が張れると、そこに焼き鳥が……いなかった。なにもいなかった。急いでレーダーをみるとこの海域から海の中を通って急速に離れていっている反応がある。


「魚雷撃てぇっ!」


 魚雷を放つも、相手は海の中を音速を越える速度で移動するのか、そのせいで津波が起こったり、小さなペンギンが氷を突き破って海に入ってきて魚雷に抱き着いてくる。まるで王を守る騎士のように。


「ちっ、逃げられましたか……転身・ウロボロス・オフィス・モード空」


 浸水していっているウロボロスを空母モードに変更することでダメージを無効化する。代わりにウロボロスは大破判定を受けて修理中となった。


「艦載機、全機出撃。殲滅しなさい。一匹たりとも逃がすな」


 爆撃と雷撃装備で別けて大量に放つ。残っているペンペン共を根絶やしにする。否。生体反応がある物は全て滅ぼす。




 しばらくするとダンジョンを攻略した証である大きな結晶体がレーダーで発見された。今回は三人だけなので強力な祝福が貰えるかもしれない。いや、アリアは残念ながら無理なので二人か。


「お姉ちゃん、リュミドラさん、アリアに気にせずどうぞ」

「ごめんね」

「いえ、大丈夫です」

「じゃあ、私から……」


 触れると魔杖の支配者という祝福が手に入った。どんな物かというと、これは魔法が籠った杖ならなんでもデミリットなしに使えるようになるというものだった。確かに強い。女神フェルトの杖に仕えるかはわからないけれど使えたらいいとは思う。


「魔杖の支配者というものですね。強いようですが、基本的には使わない代物だと思います」

「じゃあ、次はボクだね。ボクは……心眼だってさ」

「おめでとう」

「おめでとうございます。充分に強力な奴ですね」


 心眼は言ってしまえばニュ〇タイプみたいな奴だろう。直感をより強力にした感じだろう。これは俺達の秘密がばれるかもしれない。それでもありがたい力だ。


「では艦載機を戻してから港に向かいましょうか」

「もう微かに見えてるしね」

「凄い慌ててるかも……」

「あ~」


 ひょっとしたら戦闘の音が届いていたのかもしれない。空間に干渉して作られたフィールドダンジョンでなければ、陸地に近い場所なので充分に戦闘を知ることはできるだろう。むしろ、津波の影響があちらにもでているかもしれない。


「あっ、氷がどんどん割れていくよっ!」

「ほんとうだ。もしかして、あいつらが氷の地面を作っていたのかも」

「それはありえそうですね。冷凍ビームを使っていましたし。まあ、いってみたらわかるでしょう」


 しかし、あのペンギン強すぎだ。あんなのが沢山いるとか、この世界は終わりじゃないか?

 凍らせて地面を作り、陸地にも侵略してくるんだから危険度はかなり高いはずだ。





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