第二話 艦内探索1
机の上に伏せて一息つきます。パソコンとかいう画面を見るかぎり、無事にアリアを助けることができたようです。これで少なくともカオルさんの庇護下に入ったアリアは安全ですね。
そもそも海に浮かぶ巨大な鋼鉄の船なんて神話のような信じられない存在です。こちらの世界では当たり前のようですが、向こうの世界ではありえません。
「ありえないといえば、これもありえないですよね」
視線をずらすと部屋の姿見が見えます。姿見に映る姿は私の姿ではありません。私が運命を捻じ曲げた男性、カオルさんの姿が映し出されています。
お腹はでていて正直いって、女性受けする身体ではありません。この人の妻になることが運命を好き勝手に捻じ曲げた代償の一つなのかもしれません。
むしろ、こちらの都合のいいようにするためにそういう人を選んだので問題ありません。
ですが、このままだと辛いのも事実。心も捧げると約束しましたから、構いませんが……どうせなら今の間に身体を使って好き勝手させてもらいましょう。
いんたーねっとなるもので痩せる方法の最適解を調べてみたらとお金が色々とかかります。まずは資金稼ぎですね。このパソコンとかいうので調べるといいみたいなので、やってみましょう。
パソコンで調べた結果、色々とわかりました。私の世界とは随分と違って祝福とかもありませんが、力はそのまま使えるので有利に働くことも多いです。
まずはカオルさんが言っていたように未来を読んで宝くじを購入しましょう。
未来を読むのは体が違うのでかなり負担が大きいですが、脂肪をエネルギーと変えれば多少は軽減できるようです。吐血は多少しますが、まあ問題ないでしょう。
宝くじを買ったら、次は株というものに手を出してみます。空売りという奴で後日に買い直して返す手法なのですが、未来を読んで株価が暴落するものだけを買っておきます。
次は食器を洗って掃除の続きをしましょう。これからここで妻として生活するのですから綺麗にしないといけません。掃除などの家事は孤児院で習っているので問題ありませんから、頑張りましょう。カオルさんに捨てられたら終わりですからね。しかし、小さい体というのは色々と不便です。
※※※
さて、諸君。船内探検の時間だ。超弩級魔導戦艦ウロボロスは全長三三〇メートルもある。これは某宇宙戦艦と同じだ。実際、宇宙にでることも可能かもしれない。
大気圏脱出ブースターでも用意すればいける可能性は高い。その前にブラックホールから入ってホワイトホールから出ればいいかもしれないが、その場合は当艦の安全が保証されないので試す気にはなれない。
「お姉ちゃん……」
「アリアか、どうした……のですか?」
やはり、リディアの真似は慣れない。しかし、ばれてもいいが、泣かれたらかなわないし、やはりこのままでいこう。
「どこにいくの?」
「探検ですよ。この艦内の構造とデータは持っているのですが、やはり自らの目で確認しなければ解放することもかないません」
「一緒にいく」
「いいですよ。逸れてはいけませんから手を握りましょうか」
「ん」
小さな左手を差し出すと、アリアも不思議そうにしてから握り返してくれる。そのまま二人で脳内に映し出されているマップを頼りに移動する。
まずは船で一番大事で一番危険な場所である機関室だ。ブラックホールとホワイトホールを利用した吸入と排出を繰り返すことで無限のエネルギーを生み出しているらしい。
「意味が分からん」
「?」
「なんでもないですよ」
どちらにしろ、無限のエネルギーがあるならそれでいい。壊れたら終わりだということだ。ブラックホールが暴走すれば地上の全てを飲み込んで消滅するだろうし、逆にホワイトホールが暴走すればわけのわからないものを無限に排出するだろう。それを理解しているせいか、機関室は艦長権限がないと入れない。入ろうとしても防衛システムが働いて気付けばブラックホールに吸い込まれているだろう。そう、ここにはブラックホール・フィールドが薄い壁のように展開されているのだ。救出はホワイトホールを使えば可能かもしれないが、試すだけ損だな。そもそも許可もなく何重もの隔壁を抜けてきた奴は敵だ。
しかし、この艦はオーバーテクノロジーにもほどがある。さすがは神話級の存在であるバロールやシヴァなどと同じランク10だけはあるということだ。むしろ、ウロボロスを素材に人が作りし機械仕掛けの神なのかもしれない。
「ここは絶対に入らないようにしてくださいね」
「うん。面白くもないから入らないよ……?」
「ならいいのです。次にいきましょう」
次はこの艦の中でも二番目に重要な場所であるCICと呼ばれる戦闘指揮所だ。ここには戦闘に必要な情報が全て集められる。レーダーやソナー、通信などや、自艦の状態に関する情報が集約される場所であり、指揮や発令もここから行うのが一般的だと思われる。しかし、この艦は普通ではない上に全てが自動化され、指揮者である俺の意思に従って全てがコントロールされている。そのため、ここに居る必要もなく艦内に居ればどこからでも指揮でき、リアルタイムな情報をみることができるので正直に言って、ここに人は基本的にいらない。
全力戦闘をする場合は居た方がその分のリソースを他に使えるのでいいかもしれないが、信頼できる人じゃないと預けられない。わかりやすいのが、火器管制の操作を失敗すると街が崩壊する場合があるからな。
だが、防御力は機関室の次に高いので避難所にもなるので、アリアには入る事を許しておく。
「危なくなったらここに逃げ込むようにしてくださいね。アリアには入れるように許可しておきますから」
「う、うん……」
「ここも面白くなさそうですね。では、これならどうですか?」
画面の電源を入れて外の情報を表示させる。外の映像をみるくらいなら艦橋までいく必要はない。艦橋は飾りというか、展望台的な感じになっている。艦橋は剥き出しなので狙われることが多い。操舵の問題は各種レーダーを使ったモデリングされた海底と全方位カメラにより必要がない。目視はカメラその物が俺の目として使えるのこちらもいらない。センサーが壊されたら仕方ないが、上空に小型の無人艦載機を飛ばしてその映像を取ればいいのだ。
「これ、お舟の周り?」
「そうですよ。左側に陸地が見え、右側には海が見えるでしょう」
「うん。陸地にそって進んでいるの?」
「そうですよ。この辺りの地図を作成しながら進んでいます。現在、24ノットで進んでいるのでもうすぐ港がみえますよ」
リディア達が住んでいた港は以外に近い。まあ、乗せられてから数時間が経ってから俺を呼び出したようだし、ガレオン船じゃ進める距離もたかが知れている。といっても、平均10ノットのはずが、それよりも進んでいる。魔法使いがいたから、風でもおこしていたのかもしれない。
「のっとって、なに?」
「ノットは距離の単位です。1ノットは1時間に1852メートル進みます。ですから、24ノットは時速約44キロに……」
「うにゅ、わからない……」
「まあ、船の進む速さだと思っておけば気にしなくていいですよ。それよりも次は甲板にいきましょう。面白い物をみせてあげます」
「は~い」
甲板に移動すると大きな複数の砲塔がみえます。アリアも興味津々のようで、ペタペタと触っているのでおいておく。今は弾頭の確認しよう。この艦に配備されているのは徹甲弾、炸裂弾、各属性の魔力弾、榴弾、重力弾だ。大きさは56口径の四連装機関砲から88口径の連装高角砲、召喚可能な800口径の巨大な物が二門。これ以外だと後は魚雷とかミサイル群だ。
ビーム兵器ではなく、あくまでも弾頭というところにロマンがある。ジャマーで妨害されようが、圧倒的な物量によって押し潰す感じだ。まさに戦いは数ということで、艦載機も大量にあるし、船内に弾頭などが自動で生産される設備もある。ちなみにこの艦のモデルは某国のZ計画の奴だ。
「これ、武器なの?」
「そうですよ。ちょうどいいので撃ってみますか」
「うん。撃ってみたい」
「撃つのはあくまでも私なんですよね……いえ、いけますか。では手をこんな形にして、ばーんっていってください」
「ばーん」
手を銃の形にしたアリアが可愛らしい声で告げると同時に魚雷を放ち、少し時間を置いてから88口径の連装高角砲、アハトアハトを放つ。まず海の内部で爆発がおきて、こちらに近付いてきていた巨大な蛇みたいのが空中に打ちあがった。そこにアハトアハトの砲弾が連続で命中して二ヶ所で引きちぎった。
「すごいっ、すごいですっ!」
「……」
「お姉ちゃん?」
「こんなのは駄目だっ! 遮音性能が高すぎる! なんでアハトアハトで拳銃をぶっ放した程度の音なんだ!」
「はにゃっ!? お姉ちゃんがおかしくなった……」
「はっ!? すいません、取り乱しました」
これは駄目だ。設定を変えなければ……機関砲以外の武装の音を戻そう。それがいい。やっぱり、あの音こそロマンだ。
「あれ、どうするの?」
「蛇ですか……でも、この艦に網はないんですよね……」
食料確保のための網なんて必要ないから、あるのはアンカーだけだ。これは錨として使う物と牽引用の物があるだけだ。
「魔物だと思うから、売れると思うよ?」
「駄目元でやってみましょうか」
アンカーを射出して蛇を狙う。射出したアンカーは残念ながら波に煽られて外してしまった。
「あぁ……沈んじゃった……」
「まあ、しかたないですね」
そもそも回収しようとするのが遅かった。こればかりは仕方ない。しかし、陸地から数キロ先の海にこんな大きな生物が存在しているとか、こっちの海は魔境すぎる。こんな事を考えていると脳裏に映るレーダーに複数の反応が現れた。
「ちっ。アリア、私にしっかりと捕まっていてください」
「どうしたの?」
「これから速度をあげますからね」
「わかった」
アリアをお姫様抱っこして、しっかりと立ってから館内放送を流す。
「本艦はこれよりモンスターから逃げ切るために加速します。衝撃に備えて何かに捕まっておいてください。なお、港に到達する残り微かです」
思考で船の速さをあげる。24ノットから60ノット、時速約108キロまで一気に加速する。普通ならこんな速度は出せない。しかし、前方にブラックホール・フィールドを展開し、後方にホワイトホール・フィールドを展開することで吸入と排出を行って水の抵抗を無くしている。地球ではエンジンの大きさによるスペースの問題や積載量の問題などで速度はだせないが、この艦はそんな地球の法則などガン無視しているので別だ。
「なんで逃げるの?」
「面倒だからですよ。こいつらは血で引き寄せられていますからね」
海のハイエナ、ブルーシャーク共が大量にやってきている。対処するのは可能だが、これから戦闘を行う可能性もあるので面倒は避けたい。それにこれから戻る場所はリディアやアリアを売った孤児院と奴隷にした商人がいる港町だ。それを考えると戦う可能性が大きいし少しは節約しよう。無限のエネルギーと弾頭生産能力があるとはいえ、弾頭自体を作り出す速度には限界がある。あくまでもエンジンが生み出すエネルギーが無限というだけなのだ。
まあ、言ってしまえば相手をするのが面倒なだけである。ということでもう港が見えてきたが……この船で乗り付けるべきだろうか? それとも格納庫に存在している艦載機や上陸艇、潜水艇を使うべきだろうか? 悩むな。いや、面倒だ。このままいけるところまでいってしまえ。どうせ沖に停泊するしかないだろうし、脅しにもなる。なにせこんなオーバーテクノロジーの船が入港しようとすれば警戒して入れないのが当たり前だ。ましてやこれは軍艦なのだから普通は途中で止めるだろう。
そう思っていたのだが、そのまま入港できてしまった。