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第十二話 新しい街は……







 航海は予定通りに進み、トレマと思われる場所から離れた浜辺へと夜の間に上陸艇で乗り込んだ。そこで上陸艇の中で一夜を過ごした。分厚い雲に太陽が遮られて空から雪が降る中での野営はきついからだ。この辺りは雪国のようで雪が積もっているのだ。

 日の出と共にウロボロスと上陸艇を送還して、点呼をしっかりと行って街道を歩いていく。


「リュミドラ、そちらはどうですか?」

『こちらは問題ないよ』

「ではそのまま警戒を続けてください」

『了解』


 リュミドラには小型の通信機を持って後方の護衛をしてもらって、俺とアリアは妹達と一緒に先頭を進んでいる。街道の安全や行き先の確認はレーダーで調べているので問題なし。いや、問題はあった。


「うぅ~ちゅめたい」

「歩きにくい~」

「やわらか~い」


 雪が目算で十センチくらい積もっているのだ。お陰で怪我はしないが、小さな子達の体力が心配だ。というか、普通に歩きずらいしつめたい。


「リディアちゃん、どうにかならないかな?」

「そうですね……馬車でも通ってくれたらいいのですが……そうもいきませんね」


 レーダーには馬車の反応などない。むしろ、こんな雪の日に外にでる方がおかしいのだ。まあ、街道の隣には森があるのでソリでも作ればいい。


「ソリを作りましょう」

「ソリ?」

「雪国で移動する手段ですよ」


 四連式機関砲は使えるので銃弾で根元を撃って倒していく。音は遮音性能を高くしてあるので問題ない。もっとも、それでも近くにいたらそれなりの重低音は聞こえる。


「あっ」

「どうしたの?」

「ソリの引手を忘れていました。まあ、なんとかなるでしょう。皆、手伝ってください」

「「は~い」」


 イカダのように組んで縄で縛る。先端の部分は削らないといけない。


「刃物は……」

「ボク達が回収した中にあったよ?」


 こちらにやってきたリュミドラが教えてくれた。


「そういえばそうでしたね」


 俺が食料回収にいそしんでいる間に、リュミドラ達が沈没船から回収してくれた物は全てウロボロスの倉庫に収まっている。その中には刀剣類も収められているのでそれを使えばいい。というわけで、どこでも開けるようになった倉庫から良さそうな剣を出してみた。


「わっ!? おもっ!」

「危なっ!」


 出した剣は鉄の塊なわけで、非力なリディアの身体では扱いきれずに剣が俺の方にやってくる。もうちょっとで顔に迫ったところでリュミドラが剣を白刃取りしてくれたので助かった。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「大丈夫ですよ。ありがとうございます」

「リディアお姉ちゃんはおっちょこちょいでどこか抜けてるからなぁ~」

「おっちょこちょいでもぬけてもいません。ただ……筋力が足りないだけです」


 そっぽを向いて呟きつつ、今度は軽そうな短剣を取り出す。こちらでも重い。もっと軽い小さな奴を取り出して、それを使って削ろうと思ったが削れなかった。


「リュミドラ、お願いします」

「うん。それが正解だよ」


 細かい指示をして加工してもらう。非力な俺達はリュミドラに頼りきりになってしまうが、仕方ないよな。

 作ってもらったイカダの後ろに上陸艇のプロペラエンジンを取り外して装着する。

 本当は使いたくなかったが、このさい仕方ない。このままいけば食料は大丈夫でも凍え死んでしまう子がでそうだ。この世界の技術水準などしったことではないし、まずは生きるのが優先だ。


「全員、乗りましたね?」

「大丈夫だよ」

「こっちも確認したから」

「問題ありません」

「では、いきましょう。しっかりと捕まっているように」


 エンジンを起動させ、風を後ろから起こして街道を進ませていく。念のために四連装機関砲を先頭に設置し、レーダー探知機も設置して進ませる。


「速い速いっ!」

「さむい~」

「毛布にくるまって落ちないようにするのよ」

「「は~い」」


 メリルさんやリュミドラに任せて、俺はアリアを呼ぼう。流石に一人だと寒いので抱き枕兼湯たんぽに使える可愛い妹が欲しい。


「アリア、こっちにきてください」

「うん、いいよ。アリスも一緒に……」

「いくです」

「まあ、その方があったかいですからいいですね」

「お~」

「えへへ~」


 二人に抱き着かれた上から毛布をかける。二人の体温は暖かく、とても気持ちがいい。といっても、無理矢理とりつけているので操作するためには腕を触れさせないといけない。なので片腕だけは冷たい。四連装機関砲は触れてなくても平気なんだけどな。


「結構速いね」

「速度は20ノットですから」


 20ノットは約37.0km/hだ。40キロもだしていないが、外は寒いのでこれ以上はだせない。これでも結構やばいかもしれないくらいだ。


「お姉ちゃん、ふとした疑問なんだけど……」

「どうしましたか?」

「どうやって止まるの?」

「四連装機関砲の反動で止まります」

「それってかなり危ないのです」

「そうですね……」


 あさっての方向をみつつちょっと速度を落とす。レーダーで探知しながら調整しつつ滑る速度を計算して進んでいく。



 三十分ほど経つと多きな壁に覆われた港と城がみえてきた。でも、なんだか様子がおかしい気がする。


「リディアお姉ちゃんっストップっ!」

「はいっ!」


 リュミドラの声に従って慌てて風を止めて空腹の四連装機関砲を放つ。それでもちゃんとしたブレーキではないので、リュミドラが飛び降りて前から押さえてくれる。


「きゃああああぁぁぁっ!」

「まわりゅううぅぅぅっ!」


 スリップして回転しながら壁から少し離れて止まった。


「全員、無事ですか?」

「へいき~」

「なんとか~」


 確認していくと問題はないようだ。なので、俺はリュミドラの所へと向かう。彼女は砦の方をみて警戒したままだ。


「なにがありました?」

「防壁、壊れてる。それに城もなんだか変だよ」

「ふむ」


 俺は見えないが、リュミドラがおかしいと感じているのなら一考に値する。各種レーダーで探知してみる。

 まずは電波では動いている人は確認できる。次に熱源探知を行ってみると面白いことが判明した。


「熱がないのに動いているのは無機物ですよね?」

「もしくはゾンビとか?」

「なるほど……」


 無機物ならゴーレムとかだろうが、これが死体ならやばいことになる。ここは俺一人で進んだ方が良さそうだ。


「リュミドラはここで皆を守ってください。私は確認してきます」

「大丈夫なの?」

「平気ですよ。死体に関しては専門家になりますので。食料とかもちゃんと置いていくので安心してください」

「わかった」

「ありがとうございます。さて、皆さん。ここで休憩します。食事にしましょう。アリア達もメリルさんと一緒に手伝ってください」

「お姉ちゃんは?」

「私はやることがあるので別行動です。ですが、大丈夫ですから安心してください」

「うん……」


 大量の物資を置いてから対不死者決戦兵器をとりだす。


「転身・輪廻の女神フェルト」


 光に包まれて服装が変化していく。何故か、分厚い雲に覆われていた空に光がさし、天使の階段と呼ばれるような現象が起きている。

 そんな光の中から姿を現しつつ、新しい姿を確認する。まずは服装だが、こちらは白と黒のシスターローブに白いマント。それにつばの広い丸い帽子とブーツ。そして手には長い機械式の杖がある。この杖の先端は月の形になっていて、間に宝玉が浮いている。


「おお、お姉ちゃん凄い」

「綺麗、です」

「きれいなのです」


 ペリト、アリア、アーデルハイトがこちらの姿をみて抱き着いてくる。俺は三人を撫でてから杖で地面を突く。すると魔法陣が展開されて聖別結界に覆われる。

 この結界は味方には体力の回復や身体能力の強化、傷の再生などの効果がある。もちろん、敵に対しても効果があり、その一つにモンスターを一定期間だけ寄せつけないものがある上に中に入られたとしてもその能力は10分の3、つまり3割の力しか発揮できなくなる。また、アンデットに関してはもっとえげつない効果がある。


「リュミドラ、メリルさん、後はお願いします」

「ボクに任せて」

「気を付けていってらっしゃい」

「ええ、任せました。それではいってきます」

「戻ってきて……ね?」

「もちろんです。約束します」

「ペリも」

「いいですよ」


 結局、皆と約束してから街に向かう。支援魔法運動能力を強化して駆け抜ける。

 トレマであろう街に到着して防壁をみると、そこは崩れていたり、ひび割れしていたり、蔦が巻き付いていたりとろくに手入れがされていない。念のため防壁にそって所々で魔法の仕込みをしてまわっていく。

 途中で門があり、詰所のようなものがったのでそこに門番がいるのだろう。仕込みをしてから扉を叩く。


「旅の者か?」


 中から騎士の恰好をした男の人がでてきた。その男からはとてつもなく酷い嫌悪感が湧き上がってくる。俺の中のフェルトがこいつは不死者だと教えてくれているようだ。


「はい。巡業をしております」

「なるほど。まあ、入るといい」

「ありがとうございます」


 特に何もなく街の中に入れられていく。ここからは心を読まないといけないな。


「ところでここはどこの街でしょうか? 私はトレマを目指していたのですが……あっていますでしょうか?」

「ここはアイスグラウンドにある最果ての街スノーエンデだ。トレマはあそこにあるアイスベルグ山脈を越えた先だな」

「そうですか、ありがとうございます」


 心を読む限り事実のようで、中に入る。雪に覆われた街は静まりかえっていて、人がいるようには思えない。家も雪の重さで倒壊していたり、風香して崩壊したりしている。


「領主様がお会いになるだろうから、まずは城に向かってくれ」

「わかりました」

「失礼のないようにな」

(この容姿なら我等が主の贄として問題ないだろう。こいつも主の贄となって感謝するだろう)


 なるほど、俺を贄にするつもりか。これは城に行く前にに準備だけはしなくてはいけない。

 街の中を進み、迷っているふりをしていくつかに杖をついて魔法の仕込みをしていく。

 仕込みが終わったので、魔法を発動させる。わざわざ会いに行くつもりはない。聖女ならともかく、女神状態のフェルトであれば街を城ごと全て聖別結界で覆うことなど容易い。


「どうせなら、ここはあの言葉を送りましょう。我は神罰の地上代行者。輪廻に逆らう愚者を、その肉片の最後の一片までもを塵に返すことこそが我が宿願。その罪を浄化してさしあげましょう」


 全力全開の聖別結界を発動する。敵は3割の能力になった上にアンデットなら、毎秒1000の固定ダメージを与えられる。


「三重結界を展開」


 仕込んだ場所から光の柱が立ち昇る。それらを基盤にして同時に三つの聖別結界を発動する。これによって下準備が完成した。


「輪廻の女神、フェルトが命じる。我が降臨せし地を聖域と認定す」


 聖域と認定したことでさらに聖別結界の効果が上昇する。状態異常回復が追加され、再生能力が付与される。そして、敵対者は2割のステータスへと落ちる。アンデットはそれに追加して毎秒5000の固定ダメージを受ける。

 街中から悲鳴があがり、黒い煙が天高くへと登っていく。城とて例外ではない。


「では、もうワンプッシュとしましょう」


 杖の先端を地面に突き刺し、月の部分を振れるとそこが巨大化してハープへと変化する。両手をハープの弦に添えて歌いだすと勝手に演奏しだす。


「私の力を見せましょう。それはとても小さな……」


 アニソンを女神の美声で歌うとそれらは全て聖いなる女神の歌へとなるのだ。これにより、女神フェルトの全力が発揮される。最終的に能力値が3倍、HPMP自動回復毎秒1%、状態異常完全無効化。相手はステータス9割低下にアンデットなら毎秒10000の回復できない固定ダメージ。ステータス9割低下でHPも減っているのでもはやただの虐めである。さらにここに蘇生も入ってくるのでガチな鬼である。

 といっても、運営もフェルトがいる前提で超難易度はレイドボスを組んでくるし、フェルト自身がガチャから排出される確率は他の奴よりもさらに低い。公式チートな女神様である。プレイヤーが彼女に対抗するにはとりあえず、破壊神シヴァを連れてこいって言われたりもする。どちらにしろアンデットは絶対に勝てない。


「ききききっ、きさまかぁああぁぁぁっ!」

「?」


 城から身体中から煙をあげながら男性がとんできた。その身体はほぼ溶けている。


「わ、我が真祖の血脈である吸血鬼だとしっての狼藉かぁっ!」

(む、なかなか可愛いな。我がハーレムに加えて……むふふ。これこそて……)

「……」


 俺は問答無用で蘇生魔法であるリザレクション・アンリミテッドを発動する。これは絶対成功の完全蘇生魔法である。


「あがっ!? あぎゃあがああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁっ!」


 真祖の血脈? 知ったことか。リザレクション・アンリミテッドの副次効果はアンデットの即死効果。そこに慈悲はなく、強制的に灰になって消えていく。

 アンデット相手に慈悲はなし。美少女のロリっ娘吸血鬼ならまだ許したかもしれないが、男に興味などないから浄化だ。

 時計がないので心の中で数を数えながら10分ほど待つ。これで最低で600万のダメージを受けているはずなので雑魚敵はいないはず。

 そんな訳で探索です。レーダーはウロボロスじゃないので使えないし、レベルが低いのでまた結界内の探知とかはできない。あとゾンビをはじめとしたアンデットが怖いのでこのままでいく。バイオなハザードはゲームで銃を持ってやるもんであって、現実でやるもんじゃない。まあ、やるとしたら四連装機関砲や単装砲とかミサイルで焼き払うが、現実なら是非もないよね!


 一応、歩いて探してから本命の城へと入る。ボロボロなお城は隙間風が寒いが、まあ使えないことはない。廊下を歩いていると所々に灰があるけど気にしない。部屋の中もみて生き残りがいないか探していく。

 探索すること二時間。宝物庫を放置してようやく最後の部屋に入った。

 そこには大きなベッドがあり、複数の灰が床を埋め尽くしていた。残っていたのはベッドではなく、椅子に座った無表情な女の子。身長は140センチから135センチくらいだ。

 髪の毛は綺麗な長い白銀の髪の毛を黒いリボンでツインテールにし、銀色の刺繍が入った黒色のチャイナドレスを着ている。肩は完全に露出していて、胸元の部分も空いている。

 スリットが開けられていて、白色の下着が露出している。


「生きていますか?」


 声をかけても返事はない。瞳は閉じられたままで開いてみても虚ろなままだ。


「ふむ」


 真祖の血脈とかいっていたから、首筋をみると吸血痕があり、血を吸われていたのがわかる。どうやら吸血鬼にしていた途中のようだ。だからこそ、肉体が残っているのかも知れない。

 これならまだ助けられる。死んでいる訳じゃないので女神フェルトの力を使えばいい。だが、このまま復活してもまずいかもしれない。だが、やってみればいい。

 回帰とリザレクション・アンリミテッドを発動するが、効果はない。身体の外からじゃ力が伝わらないようだ。そもそも一応は生きているのだから蘇生はきかない。


「仕方ない。悪いな……」


 口付けをして体内に直接力を送り込んでいく。すると彼女の情報が伝わってきた。彼女はこの城と周辺を支配する小国の姫だったが、群雄割拠のアイスグラウンドで他国の襲撃に対応している時に吸血鬼の襲撃を受け、敗退。街と城は支配された。

 その後、住人はアンデットに変えられて、女達は奴隷や生贄に彼女の目の前でされてきた。今日は最後に残った彼女の番だったようだ。そこで俺が邪魔しにはいったということだ。もっとも、すでに彼女の精神は壊れていた。だから精神を修復していく。例え彼女が嫌がったとしても生きてもらいたい。




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