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第十話 新たな祝福

全話を少し変えています。祝福の習得を変更しました。




 無事にフォートレス・タートルの撃破を確認したのでゆっくりとできる。お茶でもいれて甲板でゆっくりと日向ぼっこでもしたくなる。


「お姉ちゃん、お姉ちゃん」

「なんですか?」


 服の袖をくいくいと引っ張ってくる可愛らしい仕草をしているアリア。俺は青みのかかった銀糸のよう長い髪の毛を手で撫でながら聞く。


「宝物、とらないの?」

「え? あるんですか?」


 アリアから信じられないような言葉を聞いて、つい聞き返してしまった。いくらなんでもダンジョンを攻略したらといって宝物とかもらえるのだろうかと思ったのだ? ここがゲームの世界ならまだ話はわかるのだけど。


「モンスターの身体とか、ダンジョンマスターの身体の中にある奴からスキルがもらえるって聞いたよ?」

「ふむ。それはつまり、あの沈んでいっている死骸は回収しないといけないということですか?」

「たぶん、そうだと思うよ?」

「急がないと駄目じゃないですか!」

「ひうっ!?」

「ああ、ごめんなさい。アリアが悪いわけじゃないですよ。私が悪いんですから怖がらなくていいですからね」


 怯えたアリアを抱きしめてよしよしと撫でながら、アンカーを複数打ち込んでフォートレス・タートルの死骸を引き寄せる。


「しかし、こんなに大きいと入らないかもしれないですね。こんな時はマジックバックやアイテムボックス、ストレージでもあればいいんですが……」

「いっぱい入る鞄だよね? お姉ちゃん、もってるよね?」

「持ってませんよ」

「でも荷物を消したり出したりしてたよ?」

「ああ、あれはウロボロスの倉庫に転送しているだけなので、容量が増えているわけでは……もしかしたらできるかもしれませんね」


 急いでウロボロスの拡張機能を調べてみると、目的の物があった。手持ちのお金でウロボロスの倉庫機能を強化したり、魔力結晶体を使って新機能を追加したりできるようだった。

 この倉庫の強化項目にはいつでもどこでも入れられたり、出したりできる機能や倉庫の拡張、追加ができるようだ。出し入れの機能はすでにウロボロスに標準装備されている機能なので解放する必要がないのはありがたい。

 魔力結晶体を使って解放する機能には時を止めたり、進めたりする機能や小さな物を大きな物に纏めたり、大きな物を小さな物に別ける機能などがあった。

 これらの機能はとても便利だが、とりあえずは出し入れの機能と倉庫の拡張だ。それに倉庫だって冷凍と冷蔵設備が標準装備されているので保存は可能だ。

 残り白金貨12枚のうち10枚を支払って出し入れ機能と倉庫を一つ追加する。この倉庫は100個の項目があり、一つに10個まで同じ物を入れられる仕様だ。初期から倉庫は二つあったので合計が三つになり300個まで入れられる。もっとも、流石に大きさの制限で引っ掛かるようで、フォートレス・タートルはいれられない。


「大分増やせましたから、これで大丈夫でしょう。妹達の中で誰か解体できる人はいますか?」

「ごめんなさい……わからないです……」

「それならそれでかまいませんよ。皆を呼んでやればいいだけですから」


 みんなを集めて解体作業に入る。メリルさんに売れそうな部分を聞きながら小分けしてもらう。それを俺が倉庫に入れていく予定だ。

 とりあえず、アンカーで固定してからタラップを配置してフォートレス・タートルの上に上陸する。肉の上に立ったというにに土のように感じるほど硬い。


「お~」

「「凄い~」」


 先に進んだ妹達が真ん中くらいにあった数メートルはある巨大な結晶体の周りに集まっていた。


「お姉ちゃん、綺麗なのあったのです」


 水色の綺麗な髪の毛をツインテールにした女の子が近寄ってきた。彼女の服装は半袖の青いワンピースドレスに白いエプロンをつけている。頭にある白いリボンのヘッドドレスがまるで耳のようだ。格好からして不思議の国のアリスみたいなコーディネートだ。彼女の名前はアーデルハイト。愛称がアリスでもあるのでいろんな意味で似合っているから良いと思う。他の子達もまるでメイド服のようなワンピースやワンピースドレスを着ている子が多い。簡単に作れるから安いせいだと思えてくる。


「こっちです」

「アリアもいくよ」

「では三人で向かいましょう」


 巨大な結晶体がある前まで移動すると、不思議な気配が伝わってくる。これがスキルをくれるという奴だろう。


「触っていいかな?」

「ダメだよ。お姉ちゃんが最初じゃないと……」


 どうやら俺から触らないといけないようだ。妹達に何が起こるかわからない奴に触れさせるのも問題だ。


「リディアさんが一番最初ですよ。最初は一番欲しいスキルがもらえる確率が高いですからね」

「「「は~い」」」


 らしいので、触れてみる。俺が欲しいと思うのはリディアと精神を入れ替え、こちらに連れてくる……いや、移動できるスキルだ。

 そう願って触れるとウロボロスの機能拡張にも使えることが判明した。これが魔力結晶体らしい。スキルか魔力結晶体かで悩ましい。だが、ここはやはりスキルだろう。アリアも欲しがっているし……一番はアリアに譲るか。


「アリア」

「な、なに?」

「アリアからお願いします。私のせいでスキルを無くしてしまいましたからね」

「ううん。アリアはお姉ちゃんと一緒にいられたらいいから、余り物でいいよ」

「ダメです」

「それこそだめだよ」


 しばらく二人で言い合っていると、メリルさんが痺れをきらしたようだ。


「もう二人一緒にやってよね。それで解決なんだから」

「それなら、まあ……」

「うん、いいよ」

「では一緒にしましょう」

「頑張る」


 二人で触れてお願い事を告げると身体の中に何かが入ってくる感触がした。これでおそらく祝福が増えているのだろう。もらった祝福を確認できる石板を使ってみる。するとシフトという切り替えや配置の変更といった意味のあるスキルが増えていた。これを使えばリディアと入れ替わることができそうだ。

 しかし、今は試すことができない。もしかしたら超弩級魔導戦艦ウロボロスが消滅し、海へと放り出される可能性があるからだ。


「だいぶ小さくなっちゃった」

「そうですね」

「でも、まだ大丈夫そうなのです」


 魔力結晶体はその大きさを三分の一まで小さくしていた。スキル次第ではいっきになくなるのかもしれない。


「リディアはどうです……どうしましたか?」


 リディアの様子が明らかにおかしい。俯いて泣いていた。


「リディア?」

「だ、大丈夫。他のみんなが待っているから、やってもらおう?」

「そう、ですね。では、メリルさん。後は任せます」

「わかったわ」


 あちらはお願いしてリディアを連れて離れる。


「さて、お姉ちゃんに話してみなさい」

「えっと……」

「もしかして、スキルがもらえなかったのですか?」


 聞いてみるとこくんと微かに頷くアリア。どうやら、スキルがもらえなかったから泣いたようだ。原因がわかれば後は対処だけだ。


「でしたら、次はアリアだけで触れてみましょう。それで解決しますよ」

「ち、ちがうの……」

「どういうことですか?」

「……アリア、もう二度と……スキル、手に入らないって……うぅ……」


 ぽろぽろと大粒の涙を流しながら泣きだしたアリアを思わず抱きしめる。


「どうして……?」

「……神様の声が、聞こえて、きたの……アリアは、全部、捧げてるから……祝福にできる、才能……もうないって……だ、だから……無理、だって……」

「そうでしたか……」


 泣いているアリアを撫でながら、原因を考える。リディアの話では代償召喚を使って俺の世界へとやってきた。その代償としてアリアとリディア、二人の成長に消費した肉体時間とリディア自身を契約者に差し出すことで……あれ?

 よくよく考えたらおかしいな。それは契約条件であって代償ではない。つまり、召喚に関する代償はリディア本人ではなく、あくまでも肉体時間で足りなかった分は召喚者であるアリアの才能全てということになるのかもしれない。そう考えるともっと最悪なこともありえる。もしも代償が才能以外にもおよんでいたら、下手をしたら成長することが一切できないかもしれない。いくら努力してもそれは実ることがないということで、待っているのは地獄しかない。


「おねえ、ちゃん……ごめん、なさい……ごめん……なさい……」

「リディアが悪い訳じゃありません。アレは同意の上で行ったことです。それにこう考えればいいのです?」

「ふぇ?」

「私の力は《《私達》》の力だということです」

「で、でも、それはお姉ちゃんの……」

「いいですか? この力はアリアが召喚してくらからこそ手に入れることができた力で、誰か一人だけでは実現することもありませんでした。つまり、あの状況を乗り越えられたこの力は二人の力ということです」

「……う、うん……でも、いいの……?」

「いいんですよ。それでも気になるなら例えば知識を蓄えるとかどうですか? 才能がなくても努力すれば高い能力を持つ人を追い詰め、追い越すことは可能です。もしも納得できないのなら、知識で《《私達》》を助けてくれると嬉しいです」


 打ち込めることを与えればネガティブ思考から脱却できるだろう。知識を蓄えてくれるだけで役に立つし、思考速度や記憶領域などは許可すればウロボロスのを使えるから問題ない。問題はインプットする面倒な作業があるだけだ。それにどこぞの兄と妹みたいなこともできるかもしれないから期待できる。

 まあ、俺としては可愛いアリアを可愛がれればそれでいいので構わないのだ。居てくれるだけでいい存在だ。


「……うにゅぅ……頑張って……みる……」

「無理しなくてもいいですからね。私の傍にいて……」

「でも、前は駄目って……いってた……よ?」

「状況が違いますからね。前はこんなことになっているとは思わなかったですから。それに辛い時はお姉ちゃんに頼っていいんですよ」

「うん……ありがとう……」


 こんなことをやっていると魔力結晶体が消滅したようで、妹達がこちらにやってきた。


「アリアお姉ちゃん、泣いてるの?」

「大丈夫?」

「アリアたん、平気?」

「お人形さん貸してあげる!」

「うん、大丈夫……ありがとう……」


 心が弱っているからか、身体に心まで引きずられているのか、はたまた精神まで引き戻されているのかわからないが、アリアの心はかなり幼くなっているようだ。


「……なんとかなりそうか……」


 思わず呟きながらアリア達をみていると、アーデルハイト、アリスがこちらにやってきた。


「お姉ちゃん、メリルお姉ちゃんが呼んでるです」

「わかりました。ありがとうございます」

「ん~」


 アリスの頭を撫でてからメリルさんの下へと向かう。メリルさんはすぐ近くにいた。


「メリルさん、どうしましたか?」

「リディアちゃん……この亀は回収するのよね?」

「その予定ですよ」

「入るの?」

「ちょっと無理なので一部を切り取ってから牽引することになりそうですね」


 フォートレス・タートルは大きすぎる。牽引することはできても倉庫には入らない。大きさの制限も解除する必要があるが、そこまでお金はない。


「そうなのね」

「はい」

「なら皆の祝福を確認して、潜ったりできるものがあるか調べたらどうかしら?」


 メリルさんの言葉に心を読んでみると理解できた。彼女は大量の弾幕で消し飛んだ雑魚モンスターを回収したらいいと思っているのだ。

 確かにいい素材になるし、それぐらいならウロボロスの倉庫に収容できる。


「なるほど海に潜るんですね。では皆には明日から働いてもらいましょう」

「明日からなの?」

「はい。今日はこのお肉でパーティーです。それと一つ疑問なのですが……モンスターの再配置は何時でしょうか? ああ、一週間後でしたね。ここでしばらく停泊して海洋資源をできる限り回収しましょう」

「え、ええ」


 心を読んだせいか、結構驚いているし気味悪がっている。少し頼りすぎなところもあるし、あまり頼るのはよくないか。


「みんな、二列に別れてもらった祝福を教えてください。その後、この大きな亀さんのお肉を食べましょう」

「「「「「は~い!」」」」」


 いい返事をもらった。アリアにも手伝ってもらって、教えてくれた祝福をしっかりと記録していく。そこから導き出される答えは習得できる祝福はかなり偏りがあることだ。

 今回は水や海に関する祝福が多かった。例えば水流操作、水中呼吸、潜水、水魔法、水質変化、水質検査などだ。他には砲術や硬化などで、一番凄いのはアリスが覚えたフォートレス・タートルの召喚魔法だった。


「お~凄いのでたね、アリスっち」

「亀さんを呼び出す奴だから楽しみ。ペリちゃんは?」

「私は砲術っていうのだった~」

「ボクは水中呼吸だから羨ましいよ」


 話しているのはアリスの他にペリちゃんと呼ばれた金色のショートヘアで茶眼の女の子、本名はペリトだ。身長はアリスよりもちょっと小さいが13歳くらいだと思う。栄養不足で成長がちゃんとできていないのだろう。

 もう一人は逆に大きいくて名前がリュミドラ。身長159センチとここにいる中ではメリルさんに続いて年長の14歳だ。彼女はもうすぐ成人で売られる場所が決まっていた。鈍色の長い髪の毛を後ろ側でリボンを使って束ねていて優しそうな赤色の瞳をしている。胸は服の上から少し膨らんでいるのがわかるスレンダーなタイプだ。

 そして、特質すべきは彼女は犬耳と尻尾がついていることだ。そう、彼女は獣人なのだ。調べた限りではリュミドラはそれ以外に獣人としての特色はでていない。

 しかし、重度の獣人がいないかと言われればいる。孤児院の中にも一人だけいた。リュミドラのような耳と尻尾だけの子は獣によった母親と人間の間に生まれるので、人によるかは血の強さによって変化する。よって、基本的にもっと獣の特色がでる方が多くなる。しかし、中には祝福を沢山もった強者が親の場合、獣の血を人の血が凌駕してごくまれに突然変異のように現れる。それゆえ稀少価値があり、得られる祝福も強いのが多いうえに獣人の身体能力を持つという強者が生まれる。その上に女の子なら美少女確定らしく値段はかなりする。


「リュミドラさん」

「リューやドラちゃんでいいよ、リディアお姉ちゃん」

「……どっちが姉かわからない身長ですが、撫でないでください」

「やだ。小さくなった方が悪いんだから」

「むぅ」


 俺を子供扱いして、撫でてくる。お姉ちゃんとは呼んでくれているが、中身はわからない。


「はぁ……まあいいです。それよりも、明日は私と一緒に海の中に潜ってもらいますからね」

「了解だよ。安全確認だね」

「そうです。その後、潜水持ちなどで水中を探索し、サルベージ……財宝を回収します」

「うん、ワクワクするね。とっても楽しみだよ」

「そうですね。レーダーで調べたら沈没船とかもあるようですし、期待できますよ」

「ここは今まで一度も攻略したって聞いたことのない魔の海域だからね。金銀財宝がうまってそうだ」

「ロマンですね」

「ロマンだよ。ボク達が全部もらっていけると思うと、こう……滾るね」


 尻尾をパタパタと揺らせながら嬉しそうにしているリュミドラ。視線がついついつられてしまう。


「そちらは任せますよ」

「あれ、リディアお姉ちゃんは?」

「私は別の宝物を回収するので」

「なになに?」

「海産物です。貝類や魚は美味しいですからね」

「なるほど、そっちか。お姉ちゃんは食いしん坊だね」

「違います。断じて違います。大事なことだから二回いいましたからね」

「は~い。そういうことにして……ふみゃっ!?」

「ふっふっふっ……聞き分けのない子はお仕置きです」

「ちょっ、尻尾は反則だよっ!」


 尻尾をもふもふしてやろうとしたら、涙目でこちらをみたあとで一気に尻尾を振り上げた。


「っ!?」


 そうなると軽い俺が埋めがたい力の差で上に弾き飛ばされて、逆にキャッチされる。お姫様抱っこされてそのまま運ばれる。


「降ろしてください」

「だ~め。さっきのお返しだからね」

「くっ、殺せ」


 羞恥のあまりに女騎士や姫騎士の言葉がでてしまった。


「殺さないからね。お姉ちゃんに死なれたら大変だから、そのまま恥ずかしさを味わうといいよ」

「そうですか、いいでしょう……」

「諦めた?」

「みんな、リュミドラが高い高いして遊んでくれるそうですよ!」

「なっ!?」

「本当!」

「やった!」


 元気な女の子達がリュミドラに殺到していく。その隙をついてさっさと逃げる。リュミドラは孤児院の子達の恰好の遊び道具でもあるのだ。


「お姉ちゃんっ!?」

「ふふふ、諦めて相手をしてあげてください。私はやることがあるので」

「まっ、まってっ!」

「い・や・で・す」


 助けるリュミドラを無視して、フォートレス・タートルから肉を取っていくとアリスが小さなフォートレス・タートルを召喚している姿がみれた。

 やはり、大きなものを召喚するには魔力不足のようだ。それでも数がいれば厄介極まりないだろうが。ふむ。そう考えるとアリスの配置は水雷科がいいかもしれないな。砲術を持つペリトは砲術科にして、リュミドラは海兵科だな。アリアは司令部に移動させて補佐官……秘書とすればいいだろう。

 他にも配置替えを色々としないといけないが、明日は軍服水着になって海底探索としゃれこもう。それが終り次第、サルベージを引き継いで今度は艦載機を飛ばして陸地を探す。陸地が見つかれば後は街を探してそこを目指して進むだけだ。

 陸地についたらウロボロスを送還して、シフトでリディアを連れてくればいいだろう。その後は身体が戻らなくても、もう一度シフトすればいいだけだからな。って、シフトは置き換わるだけだからリディアをこちらに連れてくることはできないかもしれない。まあ、それでも交代できるなら一歩前進ではある。

 どちらにしろ、一度リディアと今後のことを話合わないといけない。アリアのこともあるし、交換日記とかもつけるべきなのかもしれない。ああ、そういえば……船長の義務でもある航海日誌を書いていなかった。義務じゃないかもしれないが、書かないとな。うん、これを交換日記としよう。




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