経営シミュレーション始めました
薄暗い地下室で、一人の少年が黙々と添え付けられたコンソールボックスを操作していた。
少年の視線の先には、金髪碧眼の美少女の立体映像と立体的な景色が写し出されていた。
「良し、後はこの街の通貨を決めよう」
そんな少年の呟きに、立体がの少女が声をかけた。
「ジン様、何故かダンジョンの主旨が変わっている気がするのですが」
ジンと呼ばれた少年が、眉根を潜めて立体映像の少女に答えた。
「メルティナ、経営に関しては僕に一任してくれるって言ってくれただろ」
ジンはコンソールを操作しながら器用に立体映像の少女、メルティナに話を返した。
「ジン様、何故新規特典で貰えたダンジョンポイントを全て施設に回したのか私には理解出来ないから聞いたのです」
立体映像のメルティナが器用に表情を作って聞いてきた。
「‥‥‥僕はローグ系のゲーム苦手なんだよ」
作業する手を止めてジンがメルティナを見詰める。
「大体、モンスターやアイテムを召喚するってソーシャルゲームだし、何その運ゲー」
ジンは地球からこの世界【ヴァーミリオン】に、ダンジョンマスターとしてメルティナに転送されて呼び出された高校生であった。
因みに地球に居た頃は、両親はジンが小さい時に死に別れており、遺産目当ての親戚に引き取られて悲惨な生活を送っていた。
趣味らしい趣味は、アルバイトをして買った時代遅れの携帯ゲーム機でやっていた経営シミュレーションゲームだけであった。
「課金とか、余裕のある人がするもんでしょ」
その為、モンスターやアイテム召喚にポイントを使うと言う事がまるで課金ゲームの様であり、ポイントの少ない初期状態からそんな無駄をせずにポイントを増やそうと経営を始める事にしたのである。
「ですから、ダンジョン内で敵を撃退すればポイントが入ると‥‥‥」
「だからさ、その敵をどうやって呼び込む訳?」
まさか街まで行って、僕のダンジョンポイントの為に死にに来て下さいとお願いするのかとジンがメルティナに聞いた。
メルティナが小さく呻くと、ジンは溜め息をついて話を続けた。
「まあ、何時かはそんなプレイングも出来るかも知れないけどさ、最初は金策するのがシミュレーションゲームの基本だよ」
ダンジョンポイントを手に入れる方法は他にもあり、侵入者がダンジョンに継続して滞在しているだけでも加算されたり、この世界での通貨をポイントに変換する事も出来る。
その為にジンは侵入者が滞在出来る施設を作り、更には貨幣価値を自分で調整できるダンジョン通貨を作ろうとしていた。
「うー‥‥‥でも、何だか違う気がするんです」
尚も食い下がり中々諦めないメルティナに、ジンは仕方ないと別の作戦を考えた。
「僕は現状、メルティナみたいな美少女が居てくれるだけで満足だから」
そんなジンの言葉に、メルティナが顔を真っ赤にして立体映像の身体をくねらせた。
「ジ、ジン様!? いきなり何を!?」
チョロインであったメルティナ。
これで話を誤魔化せたと、ジンは作業を再開するのであった。
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「完成だ」
ジンが限られたポイントを使い作り出したダンジョンは、既にその姿を変えていた。
先ず、洞窟では無く街である。
しかも、娯楽施設や商業施設がメインの観光地であった。
そして、誰も住んで居ないのであった。
「さて、それじゃ近くの街に住民を募集しに行かないとだな」
「ああああ‥‥‥私のダンジョンが‥‥‥」
先程まで洞窟であったダンジョンが、エンターキー1つで青空の下一大観光地と成ってしまった姿を見たメルティナが煤けた立体映像の姿で項垂れていた。
そんなメルティナに、ジンは優しく声をかけた。
「それじゃ、従業員を募集したり人を呼び込むから残りのポイントをこの世界の通貨に全部変換して」
その言葉に人選を間違えたとメルティナは思った。
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メルティナより近くで人口の多い街を聞いて、その街へ向かったジンは一先ず職業安定所で従業員募集広告を出した。
それから、酒場や各職業ギルド、街の掲示板等に巨大観光地近日オープンの張り紙を貼って回った。
「従業員の面接もあるし、当面はこの街に居ないとだな」
ジンが滞在している街【アガスティア】は人口三十万人の街と言うよりも都市であった。
ここの人達は僕の街の上客に成りそうだとジンはほくそ笑んだ。