悪夢
最近私は怖い夢を見る。
ここ十ヶ月の間、ずっと同じ夢を見続けていた。
その夢には毎回同じ少年が現れる。
色白で、艶やかな髪を持った少年だ。特に特徴的なのは、光がない黒い瞳だ。
その少年の目を見ると、深い闇に吸い込まれたような気分になる。
夢の中でその少年は私の前に現れては、家族、友人を次々と殺していく。
決まって私は一番最後に殺されて、目を覚ますのだ。
ある日は、包丁で。またある日は銃で。殺す手段は様々であった。
そんな夢を見続けて、また今日も少年が出てきた。
私の目の前で、両親の首を絞めている少年。少年の顔はこの状況にも関わらず穏やかだった。
気味が悪い……。
そう思いながら私は右手にあるものをぎゅっと握りしめ、少年に近づく。
何度もこの悪夢を終わらせようとした。
お母さんを庇おうとしたり、みんなで逃げようとしたりした。
無理だった。必ず最後に私が殺される。誰一人として生き残らないのだ。
もう、この手段しか残ってなかった。
私は少年の背中にナイフを突き下ろした。
少年は不思議そうな顔で、自分の服に広がる赤い染みを眺めた。
しばらくそうしていたかと思ったら私を見て、にこりと笑った。
そこで私の夢は途絶えた。私が死ぬことなく、夢は終わったのだった。
その夢を最後に悪夢は見なくなった。
でも、あの少年にナイフを突き刺した、あの感触と笑った顔が忘れられないままでいた。
それからしばらくして、私は病院にいた。
私に弟ができたのだ。今日、初めて顔を合わせる。
「あら、お姉ちゃんが来たわよ」
お母さんが微笑みながら腕の中にいる我が子に話しかける。
私はわくわくしながらお母さんの腕の中を覗き込んだ。
「ひっ……」
思わず小さな悲鳴が出る。
赤ちゃんは、光がない黒い目を私にまっすぐ向けて笑った――。