ファーストキス
私はるんるんで部屋着に着替えてベットに寝っ転がった。
「さて、台本覚え……」
《ピルルルル…》
突然携帯が鳴った。川上さんからだ。
「あ、はい!芦原です!」
『どうも川上です。ごめんね~突然。
明日の予定伝えるの忘れてて』
「あ、いえわざわざありがとうございます。」
『明日はね、ドラマの撮影はいつも通り夕方なんだけど、午前中雑誌とCMが2本ずつ入ってるんだ。来れる?』
「明日午前中からですか…ちょっと待っててください。」
年間行事の紙を見てみる。明日は特に何も無い。
「はい、明日大丈夫です。朝から行けます。」
『うん、突然でごめんね。じゃあ明日8時に迎えいくよ〜』
「わかりました。ありがとうございます。」
『はーい。じゃあおやすみ』
川上さんが電話を切ろうとした。
「あ、の!!」
勢い余って声が裏返った。
『どうしたの?!大丈夫!?』
「……あ、はい。その……川上さん……」
『ん?』
「ちゃんと、睡眠とってくださいね。お仕事……忙しいと思いますが。」
『……うん。ありがとね。松原さん』
今度こそ、電話を切った。
****
次の日…
私は7時に目が覚めた。
「やっばい!あと1時間後やんけ!!」
朝ごはんを流し込むように食べ、シャワーを浴びて着替えた。
《ピルルルル…… 》
電話だ。川上さんからに違いない。
「はーい。」
『ついたよ〜』
「はーい。」
玄関の鍵を閉め、早歩きで階段を降りて車に乗った。
「おはよー松原さん」
「おはよ。川上さん」
「ねぇ、松原さん」
「ん?」
「名前で呼んだら、怒る?」
突然の事で頭が真っ白になった。
「あ、い、いいですよ?」
とりあえず冷静な判断をとった。
「ん、じゃあ。鈴音さん」
「……はい。」
「今日も頑張ってね。」
「もちろんです。」
スタジオに着くと、あの七瀬さんのメイクをやっていた人にメイクをされた。
「蓮ちゃんよろしくね〜」
「貴方七瀬さんにも似たような呼び方してましたよね…」
川上さんとメイクさんは仲良しらしい。
「七瀬くんでしょ?」
「鈴音さんは?」
「蓮ちゃん!」
「貴方ねぇ……」
「じゃあ蓮ちゃんのメイク始めようかね!」
いつもこんな感じなのだろうか。
やっぱり2人の中で、七瀬さんは大きな存在なんだな。
「蓮ちゃんって歳いくつ?」
メイクの途中で話しかけられた。
「あ……自分は19です。」
「19ね…。七瀬くんと同い歳か。ちなみに蓮ちゃんは裕樹の事好き?」
「え!?」
「当たりだったね。ほっとけないよね、女の子からしたら。裕樹はさ。」
メイクさん……高梨さんは川上さんの同級生らしい。
「裕樹のこと、よろしくね蓮ちゃん!
はい、メイク終わったよ。」
目を開けると、芦原蓮がいた。
「行ってきます。」
高梨さんにお礼を言って打ち合わせに入った。
****
これからドラマのラストシーン撮影なんだけど…
「はぁ……」
キスシーン、あるんだってさ。
「……まだファーストキス残ってんのに……」
まさかファーストキスがドラマで奪われるとは。
しかもする相手はもちろん女。
「あ!いたいた!蓮くんどしたの?」
「川上さん……これからラストシーンなんですけど……」
「うん?」
「キスシーンが……あるんです。」
「え。」
「私まだファーストキス残ってるから…ためらってて…… 」
「寸止め、でいいと思うよ。」
「え?」
「ギリギリ触れない当たりにする。これなら、まぁいけるんじゃないかな?」
「……はい。」
ファーストキスは、好きな人としたかった。