プロローグ
紅く染まった空。
至るところから立ち込める黒煙。
悲鳴、叫び声、金属音、爆発音、そこはまるで地獄絵図だった。
まだ齢十ほどの少年がその最前線にいた。
泣きもせず、喚きもせず、物怖じすることもなく、自分に下された任務遂行の為に。
返り血か自分の血か、またはそのどちらもかが彼の隊服にべっとりと付いていた。
これが最後かも。
少なくとも身体は疲弊し、限界に近づいている。
しかし、目の前にいる敵を、この状況の元凶を討たねばならない。
お互いどれだけの時間やり合ったのだろうか。
もう、いっそ。
禁忌に触れてもいい。
懲戒処分になってもいい。
疲れた。
もうこれ以上やり合うとどうなるかもわからない。
『もうオシマイですかぁ?ケヒャャャャ!!楽しみ甲斐が無いですねぇ』
だから、もう。
「おい!優!それだけはするな!絶対するな!」
もう良いんだ。
身体がどうなるかも分からないけど、これしか無いんだ。
「影よ、我を呑み込め、すべてを喰らえ」
『ホホホッ!それは面白い!私をもっと楽しませてくださいよォォ!!』
不思議だな。
身体が軽いや。
ゆっくりに見えるな。
ぜんぶ、ぜんぶ。
ああ、最初からこうしてればよかった。
『ヒヒヒヒヒヒッッッ────ヒ?』
こうしていれば沢山の仲間を失わないで済んだのに。
自分は馬鹿だ。
もう後悔はしたくない。
「君は可哀想だ。そして、俺も……」
『お前を…ワタシは…許しませんヨォォッ!……またッ!いつかッ!お前を見つけて殺してやるッ!』
ああ、終わったんだ。
これで終わりだ。
上を見上げると空は蒼く澄み、白い雲が流れていた。
長かった。
ようやく帰れる。
そして、もうここには帰っては来ないだろう。
そうして、一人の少年はその場から姿を消した。
そこから何時間も仲間達が探したが彼の姿を見つけたものは誰もいなかった。
彼は消えたのだった。
誰にも別れを告げることもなく。