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雪の上に落ちた白い手袋

 出来損ないの口笛が耳元で吹き続ける、そんな吹雪の朝。

 小学生の三つ子の兄弟が歩いて登校していました。前から三男、次男、長男と縦に並んで歩いていました。三つ子は顔がそっくりでしたが着ている格好は違いました。長男はスキー用のゴーグルを付け、次男はダウンジャケットを着て、三男はみすぼらしいマフラーを巻いて両手はポケットに突っ込んだまま歩いていました。上の兄二人はスポーツで賞を取ったり勉強ができたりと親からは自慢の息子とされていましたが三男は劣っているというわけではありませんでしたが平凡な子でした。ただ気の利く優しい子で二人の兄のために自ら風よけの先頭になり歩いていました。

 この日は北風が強く、雪が顔に当たって冷たかったのでため三男は下を向いて歩いていました。学校まで一本道なので迷う心配はなかったのでずっと下を向いて歩いていました。

 すると校門の目の前で雪の上に白い手袋が落ちていました。小さな子供用の手袋のようです。三男は拾って兄たちに見せます。

 長男は言います。

「良かったじゃないか、三男。今年の冬は風邪を引かなくて済みそうだな」

 三男は言います。

「落し物を盗んだら落とし主が可哀想じゃないか。僕はそんなことしないよ」

 次男は言います。

「それならここにもう一度落としなよ。学校に持っていたら泥棒だぞ」

 そう言われ三男は悩みます。もしここに元に戻したとして持ち主が見つけられるとも限らない。

 それならば、と。

「お兄さんたちは先に学校に行ってて。僕はここで持ち主が来るのを待ってるから」

 持ち主がここにやってくるとは限らないのに、上の兄二人はそのことをわざと指摘せず、三男を置いてそのまま学校に行ってしまいました。


 走っても始業に間に合わなくなる、遅刻する時間ギリギリに三男の元へ同い年ぐらいの女の子がやって来ました。見かけない、知らない女の子でした。そしてテレビでも見たことのないくらい可愛らしい女の子でもありました。

「すみません、ここで白い手袋を見ませんでしたか」

「もしかして、これのことじゃない」

 三男はすぐさまポッケから拾った手袋を取り出し、女の子に見せます。

「はい、それです! 良かった、拾うだけでなく待っててもくれたんですか」

「物を亡くすってすごく悲しくなるから、そういうの誰にもさせたくないから」

 三男は女の子に別れを言い、立ち去ろうとすると、女の子がくしゃみをした。

「もしかして寒いの苦手なの? ならこれを使うといいよ」

 そう言って自分のマフラーを女の子に巻いてあげます。

「どう、暖かい?」

 三男が温めていたマフラーと手袋をし、女の子のくしゃみは止まりました。

「暖かいです、それと首がチクチクします」

「あ、ごめん、肌に合わなかった? それじゃあやっぱ外したほうがいいかも」

「いえ全然気にならない程度なので。このまま借りててもいいですか」

「いいよ、学校は目の前だし。それじゃあ僕は急ぐから」

 走って教室に向かいましたが遅刻してしまい先生に怒られてしまいました。何故か自分が寝坊したことになっていることを不思議にも思いながらも三男は反省文を書きました。


 次の日、学校に突然の転校生がやってきました。三兄弟のクラスに転校生がやって来ました。とは言うものの、この学校には一クラスしかなく生徒も三人だけでした。

 しかもその転校生が女の子だと知り、上の兄二人はどっちが早く仲良く出来るか競争の話をしていました。

 女の子が教室に入ってきました。それはテレビでも見たことのないくらい可愛らしい女の子でした。首には彼女と不釣り合いのみすぼらしいマフラーを巻いていました。

 女の子が挨拶を終えるとアプローチ合戦が始まります。

 長男は言います。

「僕の席を譲るよ、この席はストーブが近くてとても温まるよ。そんなマフラーを巻く必要がなくなるよ」

「ありがとう、でもごめんなさい。ストーブの風は喉に悪いから遠慮させていただくわ」

 女の子は丁重にお断りをした。

 次男は言います。

「僕のダウンジャケットを貸してあげるよ、この服はとても温まるよ。そんなマフラーを巻く必要がなくなるよ」

「ありがとう、でもごめんなさい。私、羽毛アレルギーなの」

 女の子は丁重にお断りをした。

 三男は言います。

「首は大丈夫? チクチクしてない?」

「あなたこそ大丈夫? マフラーも手袋なしで風邪を引いていない?」

「僕は大丈夫さ、バカは風邪を引かないって言うからね」

「隣の席でもいい?」

「別に構わないけど、ここは廊下側でストーブが遠くて寒いよ?」

 女の子は言います。

「良いの、ここが一番温かいところだから」

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