滅んでしまえ!
学校から帰ってくるとダイニングのテーブルで原稿用紙とにらめっこしている妹がいた。眉間に皺よせて、超不機嫌だな、おい……。いったいなんの宿題だと聞いてみたら、読書感想文とぶっきらぼうに答えた。
「そんなの適当でいいだろう?」
「適当に書いたら、一行で終わるの」
妹は完全にブチ切れ状態だ。
「だいたい、作者に届くわけでもないのになんでこんなもの書かなきゃいけないのよ」
俺はちょっと考えてから答えてみる。
「ちゃんと読んだことの確認みたいなもんじゃねぇの?あとは、文章の組み立てとか国語の評価のひとつだろ?」
「だったら、作文でいいじゃない。それを読書感想文だなんて、横暴だ」
(横暴なんて言葉、どこで覚えた小学生……)
「それで、お前は何にそんなに怒ってるんだ?」
「まず、学校推薦図書。興味のない話を押し付けられてむかつく。次に原稿用紙2枚っていう制限。最後に感想文を評価しようっていう大人の浅はかさ」
そこまで言える小学校四年生なんて普通いないぞ、妹よ。
「それでも宿題だろう?」
「どうせなら、感想文とか言わないで評論文にでもしてくれればいいのよ」
それなら、なんとかなるのにと言う。
「そ、じゃあ、評論文にしちまえよ」
妹は一瞬ぽかんとした顔をした。
「とりあえず、その原稿用紙うめればいいんだろ?だったら、お前が書きやすいようにかけばいいんじゃね?」
妹の眉間からしわが消える。
「伊達に年取ってなかったんだ。お兄ちゃん」
「お前の中身が老けてるの」
俺は妹の頭を乱暴に撫でて、夕飯の支度をはじめた。今日は生姜焼き。朝、母が下ごしらえした夕飯の献立を調理するのが俺の日常。妹は夕食ができるまでに、宿題をやっつけた。
数日後、妹のところにもどってきた例の読書感想文には先生の赤い字で『感想を書きましょう』と書かれていた。そして、彼女はその原稿用紙をぐしゃぐしゃにして、ゴミ箱に放り込み、「滅んでしまえ!」と呪いの言葉を吐いた。