干支達の夢 その十a 【調子に乗って言ってみただけなんだよ】
干支に関するショートショートです。今回はトリその1です。アメリカのミネソタに七面鳥専門の牧場がありまして…
その話がどこまで本当だか、真実の程は知らない。でも、あなが
ち無い話でもないと思う。
どんな話だって?まあ、待ってくれよ。物事には順序ってものが
あるからね。この話をしてくれたのはA氏。割と真面目な男なんだ。
時は今からちょうど二週間前。場所はアメリカのミネソタさ。
どうしてミネソタなのかは良く分らない。まあ、細かい事は
いいっこなし。
ある一軒の牧場があったんだ。その牧場、ただの牧場とは違って
いた。普通、牧場っていうと牛だの馬だのを飼ってるもんだが、そ
こにはそんなもんはいやしない。代わりにいたのが七面鳥! 言う
なればだ、七面鳥専門の牧場だったんだね。
今から二週間前って言うと、ほら、手元のカレンダーを見てごら
ん。クリスマスを一週間後に控えた18日だ。その日、A氏は日本か
ら七面鳥の買い付けに、そこにやって来たという訳。
「じゃ、旦那、間違いなくここの七面鳥、おたくに譲りますぜ。わ
しら本当は日本には売りたかねぇんだが、カカアが病気じゃしょう
があんめぇ」
「いや、どうも。サンキュウ、おカネ、コレね」
A氏は本社の言う通り、買い付けただけ。七面鳥を空輸するのは別
会社というコトになっていた。
仕事を無事終えたA氏、七面鳥を前にして最期のチェック。よしよ
し、数もOKと。そこでつい気が緩んだのか、七面鳥相手に冗談を一
席ぶった。
「お前らよぉ、後二週間後の日本でだったら、トリは大切にされる
んだせ? それまで身が隠せて日本に来れれば天国なのによぉ。何
てったってトリ年だからな。そうだ、いい事考えた。お前らよ
ぉ…」
その日のうちに、七面鳥全部、姿を消したんだって!
きっと奴ら、日本を目指して飛んで行ったに違いない。
A氏は最後に言った言葉を今、心配している。
「来年、日本に来られたら、オレが全部世話しちゃる!」
ええと、勿論A氏は調子に乗って言ってみただけなんだよ。でも彼
は現在自分の周りで、彼にしか聞こえない羽音を聞いては恐れおの
のいているらしいんだ…
誰にでも冗談が通じるとは限りません。