33
私達は向かい合って座っている。
都内にある美味しい紅茶の飲めるカフェだ。ある土曜日、開店時刻に合わせて入店した私達が注文してあるホットケーキ(あくまでもホットケーキであり、パンケーキと表記されていない)は、直径が二〇センチ、厚さがたぶん三センチあり、一枚で頼むより二枚で頼んだ方がお値段的にかなりお得だが、決して一人では食べられないモンスター級の代物である。
「それで?」
「二年待って、と。」
「あは。常套句だね。」
「ね。」
すでに二杯目のロイヤルミルクティーを飲み始めている私は苦笑いをするしかない。テーブルに飾られたピンクの花が愛らしい。
「春花も、二年って言われたの?」
「ん?うーん、どうだったかな。」
春花は笑ってダージリンを飲む。ホットケーキの前なので無糖で。
「うーん。難しいね、やっぱり。」
「そういうものなんだと思う。」
「また、そんなこと言って。」
私達は笑いあった。
甘い香りが私達の側に近寄ってくる。大きくて甘くて美味しいホットケーキだ。
「「美味しそう。」」
感嘆の声をあげ、半分こに切り分ける。バターとシロップで美味しくいただきます。ちょっと大きめに切りだした最初の一口はたっぷりのシロップをかけた。美味しいものって本当に人を幸せにすると改めて実感する。
「話戻るんだけどね、この前、軽く言っちゃったけど葉月ちゃんは本当に聞いてしまって良かったの??」
少し不安そうな顔をしている。
「うん。もやっとすることもあるにはあったし。」
「そっかぁー。」
ぱくっと一口頬張ってとびきりの笑顔になる春花を見てロイヤルミルクティーを一口。店内に流れるクラシック音楽は華やかで艶やかなのに、いつだって気高く、品がある。
「それなのに、別れないの?」
「うん。」
「ふーん、そっか。」
カップを置いてナイフとフォークを手に取った。ゆっくりとホットケーキをカットする。
先日の合コンの帰り、その内の一人が春花にしつこくまとわりついていたので、建前として春花は私の部屋に泊ることになっているのだと宣言した。嬉しいのか嬉しくないのかは微妙だが、私に対しての「送るよ。」みたいなアプローチはなかったので、二人で帰宅を装った。もちろん、私の今彼は春花の元彼で、奪ったも同然ではあったので部屋に連れていくことも出来ず、新宿にある早朝まで営業しているカフェでお茶をしながら朝を待つことになったのである。
深夜のカフェでお茶をしながら、何時間も話した。
お酒を飲んだ後だったせいか、お互いに抑制がいい具合に効かなくて、ざっくばらんに本音を話せていたんじゃないかと私は思っている。
「浩樹くんのことは、もう本当にいいの。もちろん、一切恨まないとかはないけど。」
「そっか。うー謝るのは何か違うもんね。」
「謝ったら絶交する、絶対。」
けらけらと笑う私達はもっと軽い話をしているみたいに思えるけれど、なかなかきわどい。
「厳しい。でも春花の言うこと正しい。」
「じゃあ奪うなよ!って、言っちゃう。」
あはははははははははははと笑って、話して数時間。何故だか。仲直りしていた。当然、全てが元通りではないが。
そして、別れ際に春花に言われたのだ。
「結婚したい、とか言っちゃえば?葉月が一番なら少なくとも浮気は控えるんじゃない?」
「むしろこれが最後とばかりにするかもよ?」
「否定できないけど。試す価値はあるかもね。」
お互いの目の下にはクマがおはようございますっていらしていたけれど、さらっと交わした挨拶代りの会話が私の中で引っかかった。
試したいと思った。
彼の、否、堀内君の気持ちが知りたい。




