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 社会人になってからの日々は年間単位と月単位が大雑把にあって、その中で一日一日をやり過ごすようなものに思えた。薄いクレープを一枚一枚ずれないように重ねていくように丁寧に重ねる。一定のスパンで完成するケーキは仕上げにシロップを塗ることで本当の完成を迎え、また翌日から一枚、また一枚とそっくりで同じ成分なのに少し、例えば焼き目のつく位置の違いのようにほんの少し違った一日を重ねていく。


 たまに購入するアイスクリームはスーパーでは一個、コンビニでは相変わらず二個だった。しかし、今年の夏は毎日安くて小さいアイスが食べられるようにお徳用をまとめて購入したので、コンビニでアイスはあまり購入していない。


恥ずかしくはないが、どこか悲しい。


矛盾していると自分で気がついたので、笑ってみた。笑ってみたものの自分で何も面白くなかったので、自分のキャラクターに似つかわしくないことはしない方がいいなと結論をつけた。今日の分のアイスをスプーンで一口すくった。


今日も同じように一日をやり過ごす。自分の仕事をミスなくこなし、この春入社した後輩の様子をきちんと把握し、営業のフォローをし、電話でのクレームに対応した。終業時刻が過ぎて、帰り支度をしていると金曜日ということもあって同僚に呑みに誘われたが、先約があるのでと申し訳なさそうな笑顔を作って断った。そうやって一日を、一週間を終えていく。


本当は特に先約はないので、一Kの自室で簡単な夕食をとりながらぼんやりとテレビを見ていた。

飲み会に行くと世代の近い同僚であっても多少なりとも気を遣うので疲れる。それに、一人暮らしのOLには負担が大きい。同じ飲み会にお金をかけるなら気心の知れた友人が一番である。どうしても職場の人とは一線を引いてしまう。仕事はお互いの粗やミスが目につきやすいせいだとは思うが。


ブブブブブブブ


マナーモードにしておいたままの携帯が鳴る。メールだろうと放っておいたが、携帯電話はしばらく振動を続けていた。夕飯の後片付けを終えてから、メールではなかったらしい携帯をチェックした。

「春花。」

折り返してみたが通話中のようだった。これは手当たり次第に連絡を入れているのかもしれない。そうすると見えてくる展開はあまり気持ちのいいものではない。そのことが容易に想像できた。その晩は春花から連絡が来ることはなかった。


翌朝、少し遅めに目覚めると美雪からメールが入っていて「春花緊急事態につき雪月花召集します。」とあった。漢字ばかり続く文面が少しおかしい。召集日時は今夜とのことであったが、恐らく全員が彼なしとなった私達には何の障害もなかった。



召集を受けて集いましたメンバーはいつもの三人、「雪月花」普段と違っているのは春花がひどい顔をしていたことくらいだろう。個室になっている居酒屋で春花に何が起きたのかを聞く。いつもの女の子らしい服装に、世界の全てを灰色に染められそうな顔をした春花。美雪がそっと春花の手を握っている。


これが嫌なのだ。恋がどれだけ怖いか知るのだ、また。


金曜の夜。つい昨日の晩のことだ。彼の部屋に招かれた春花は洗面所の棚の下の部分に偶然にも女性用の化粧品類を見つけてしまったらしい。彼氏は当然元カノのものだと取り繕ったらしいのだが、その化粧品は封を切ってすぐと見てわかるだけの量が残っていたし、たちの悪いことに春花がチェックを入れていた最近発売されたものであった。春花がどんなにその事実を突きつけても、不機嫌そうな表情で彼は「誤解だ。」と認めなかった。

「浮気されるなんて思わなかったよ。」

「彼となら幸せになれるって思ってたのに。」

なんとか聞きとって清書した春花の言葉。本当はぐちゃぐちゃで何を言っているのかよくわからない。私達はうんうんと頷きながら話を聞くことしかできない。

「そんな男、こっちから振ってやりなよ。」

そう声をかけても、肩を震わせて泣きながら首を横に振る。

「いや、彼が好き。」

言外に彼女がそう言っているのが分かる。彼のことが好き、彼と一緒にいたい、どうしてだろう。傷ついてもなお、大切にされていないと知ってもなお、どうしてそう言えるのだろう。私にはわからない。本当にこれが幸せなのだろうか。


 グラスの氷がころりと音を立てて溶ける。春花の心はほんの少しでも溶けただろうか。その彼が憎い、私の大事な友達を傷つけたから。でも、私は。本当は。


春花が羨ましい、傷つくほど好きな人がいるなんて。



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