19
ある夜。もう日付も変わってしまった頃。
いつも通りにスキンケアを済ませて睡眠態勢。読みかけの文庫本もキリがいいところまで進んでいて、もう寝てしまおうかなと本を閉じたところだった。
ぴろりろりん。
お休みの前日はいつもマナーモードにしっぱなしの携帯を通常のモードに切り替えている。そのため着信音にちょっと驚く。それでも今夜の驚きは着信音だけではなかった。
「また春花かな。」
ふわぁっと欠伸をしながらメールの発信者を確認する。
「堀内君？？」
思わず声に出る。確かに私達はまだたまに主婦友達のようなメールをしていたが、ごはん友達としての関係も例の件があって頻度としてはほとんどなくなっていた。
「遅くにごめん。ちょっと電話していい？」
それだけの内容に何が起きたのかよくわからない。
深夜。私宛のメール・・・。春花宛の間違い？？
よくわからなかったが、これは話すチャンスではあるかもしれない。私はまだ堀内君のことが好きで、春花から奪い取ろうとも思ってはいないのだけれど。けれど、少しくらいなら話したいって思っても、話してもいいよね。別に浮気させるわけでもないし。
たくさんの言い訳を並べてみたい。私は私が納得しきっていないことを知っているのにこうやって連絡を入れることを正当化しようとしている。
トゥルルルルルルルル
発信していた。
本当はメールで春花への間違いでしょうと笑うことも、そのまま無視して翌朝に「ごめんね、寝てた。」と返すことも出来たのだが。
「もしもし。」
「もしもし？堀内君どうかしたの？？」
「南田さん、ごめん遅くに。」
「ううん、起きてたから。」
私宛のメールではあったようである。少し嬉しい。訂正しようか、とても嬉しい。
「本当に女の人にこんなこと頼むのは申し訳ないんだけど。」
堀内君は何か言い淀んでいる。
「？。何か困りごと？」
「あー・・・春花に追い出されて。」
「え？」
この人たちは同棲をしていたのか。少しの驚きとショックが私を揺さぶる。
「あ。いや、俺の部屋なんだけど。なんか怒っちゃって入れてくれないんだよね・・・携帯しか持ってなくて漫喫とかにも行けないし。」
「そか。春花ったら・・・。」
「ね。」
二人で少し笑う。
「「・・・・・。」」
躊躇いながら言葉を選ぶように、堀内君は私にお願い事を一つ。
「玄関でいいんだけど、一晩、泊めてもらえないかな。こんなこと頼めるの南田さんしかいなくてさ。」
私しかいない。
その言葉にどれだけ、どれだけ私の心が揺さぶられたか、わかるだろうか。例え、歩ける範囲の近くに住んでいるのが私だけだとか、男友達には彼女に追い出されたというのがかっこわるいし体裁が悪いからとかいう事実があったとしても。
春花への罪悪感が一瞬、よぎる。でも、一瞬だ。
「いいよ。」
心とは裏腹に落ち着いた声が出た。平静が保たれているようにきっと聞こえただろう。
「ごめん、ありがとう。」
堀内君のほっとした声が聞けた。
電話を切ったあと急いでナチュラルメイクを施し、一番可愛い部屋着に着替えた。部屋も綺麗に片づけ、掃除機はかけられないので代わりにコロコロで床を綺麗にした。シーツだけ綺麗なものに交換しておく。
言い訳を頭の中で積み上げる。困っている友達は男女問わず見捨てられなかった、季節的に朝晩は冷えて風邪をひいてしまうから、玄関から廊下に寝てもらえば大丈夫だから。どれも正統性に欠けること、気がついている。これが友達を裏切ることになることも。私。
私は、知っている。
