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 学生時代のことだ。毎日、春花や美雪と授業を受けて、放課後お喋りをしてサークルに行って、アルバイトをしていたあの頃。

 夕方、キャンパス内の人も徐々に減っていく。薄闇が迫っていて、それでもまだどこか暑さがあったから、たぶん秋。私達は十九歳と二十歳でほんの少しティッシュペーパー一枚程の厚さ分の違いを気にしている。未成年と成年の違いが話題になって、成人式の振り袖の話で毎日のように盛り上がってはティッシュペーパーの厚みを吹き飛ばしていた。


 夕陽の差し込むサークルに割り当てられた個室がある。活動日ではない日であったため、先輩も後輩もおらず私達、三人だけだった。なんとなく習慣で掃き掃除をさらっとする。

「ねー。」

「んー?」

「どうかした?」

猫が甘えるような声をして春花が話しかける。この部屋に入ってから春花が「話したいことがあるんだよね」という空気を醸し出していたために黙って掃除をしていた私と美雪はすでに聞く態勢である。

「やっぱりさぁ愛がないとダメだと思うんだよねぇ。」

「どういうこと?」

窓の外に視線を飛ばして春花は言う。私はすかさず聞くが、美雪は「ふーん。」と返す。美雪は興味がないような言葉で春花の話を続けていいよという風に促す。もしかしたら少し、聞いているのかもしれない。

「この前、話してたオトモダチなんだけど。」

オトモダチとはきっと男の子で、この前がつくから先々週の合コンの相手の一人なのだろう。春花は恋人がいない期間、積極的に合コンに参加している。周り中に恋がないと生きていけないであろうと思われているだけに声も多くかかるのだろう。そして他大の男子からすると女子大の女の子っぽい春花を呼ぶとまあまあ喜ばれるというのも合コンに呼ばれやすい理由だとは思うのだが。

「ああ、先々週のM大?」

「そうそう。」

私達は無言で促す。春花はちらりと入り口に視線をやる。大丈夫、きっともう今日は誰も来ない。

「なんかむなしくなっちゃった。」

ふうぅぅと大きな溜め息。

「二人で会って、そのあと。」

夕陽はゆっくり傾く。ぐらり。

「えー・・・と、したの?」

「そ。」

思わず確認をしてしまった私に対してさっぱりと春花は答える。美雪が小さく溜め息をつくのが聞こえた。

「やっぱり、好きじゃないとだめだね。寂しいとか、誰かに求められたかったとか、そんなしょうもない理由でそんなことしても。ただただむなしくて・・・。」

「あははは、大失敗。」

春花は続けざまに一人で喋って笑った。

「こら。」

こつんと美雪が春花の頭を軽くこぶしで突く。

「いたーい。」

春花もふざけだす。もっと自分を大切にしなさいと怒ったように二人のじゃれあいに加わる。


 じゃれあいに加わりながらも私は少し嫌悪感を抱いていた。嫌悪というよりは理解不能なものへの恐怖に近いかもしれない。よくわからない。何故、そんなことをするのか。それの意味合いはもっと尊いものであると思う。



思っていた。






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