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それからしばらく経ったある週末。

「あ、久しぶり南田さん。」

「堀内君。久しぶり。」

なんの疑問も躊躇もなく、メールが途絶えていたことも全て関係ない様子で彼が言ったので、そのまま普通に自然と返事がしてしまえた。

「今日、予定ある?」

「え、ううん。」

だからこそ、素直に予定がないことを認めてしまったのだと思う。仕方がない、面喰っていた。

「海老、安いんだよね!海老チリ食べよう。」

都合がいいのか悪いのか。お昼前のこの時間、買い物をして昼ごはんを作って食べるとちょうどいい。

「え、うん。」

思わず頷く。

「じゃあ決定。早く海老買って帰ろう。」


 こうして杏仁豆腐もジャスミンティーの茶葉も、ましてや心の準備もないまま私は堀内君と海老チリを食べる。今日。


 堀内君の部屋は私の城たる一Kの部屋とあまり変わらない作りだった。部屋の調度は黒で統一されていて、濃いこげ茶色のラグマットが真っ白なフローリングの上に敷かれている。部屋の真ん中には黒いローテーブル。玄関には女物の小さな靴はなかった。

「春花は?」

彼について部屋に入りながら後ろから声をかけた。

「いないよ?」

「あとから来るんだ。」

「え、来ないよ。」

ゆっくり堀内君が振り返る。一瞬目が合い、笑顔を向けられる。

「ちょっと適当に座っててもらっていい?関係ない食材冷蔵庫にしまうから。」

「うん、・・・・失礼します。」

ちょこんとラグの端の方に座る。さっきの笑顔の意味は一体。

「今日は、春花は呼んでないんだ。」

冷蔵庫に今日のお昼の材料以外をしまいながら堀内君が言った。

「なん、で?」

刹那の緊張と自意識過剰への恥じらいが私の言葉を不自然に切らせた。ちらりと一瞥し、瞬時に顔を逸らされる。

「いや、同窓会?」

「同窓会??」

「あーうん、ほら・・・春花いると南田さん取られんじゃん。」

と、はにかんで笑った。

「あ、ああ、そっか。確かに春花がいると高校時代の話しにくいもんね。春花も私達以外の子の話聞いても退屈しちゃうよね、きっと。」

「そう。そんな感じ。」

へへっと堀内君は笑った。


 調理開始後からリーダーシップを発揮し、堀内シェフとアシスタントの南田といった様子で海老チリ、炒飯、たまごスープが完成した。デザートはアイスがあるようである。

「おおーすごいね、堀内君。お見事!」

胸の前で小さく手でぱちぱち拍手。テーブルに並べた豪華な中華ランチセットを見ながら感嘆の声をあげる。

「いやいや、共同制作だって。」

「ほとんどやってもらったもん。」

まだいやいやと手を横に振って照れている堀内君を促す。

「早く食べよ。中華はあつあつがいいよね!」

「だね、いただきます。」

「いただきます。」

ぷりぷりの海老チリを一口。

「うまっ。」

「んんーっ。美味しいね。」

夢中になって中華を食べる。途中途中で美味しい美味しいと言い合いながらあっという間に平らげてしまった。デザートのアイスを冷凍庫から取ってきた堀内君は「バニラでいい?」と訪ねながら差し出した。「ありがとう。」と受け取り、カップの蓋を外す。

「アイスはやっぱりこれだよ、これ。」

銀色のスプーンで美味しそうにアイスを食べる。一口一口が大きくてペロッと食べてしまう。私も大好きなバニラ味のハーゲンダッ●に舌鼓を打つ。中華料理のオイリー感を払拭し、甘く涼やかに口の中がさっぱりする。

「美味しかったね、大満足。」

ガラスコップに入ったウーロン茶を飲みながらにこにこと話す。

「今度は北京ダックとか食べたいな。」

「アヒル揚げちゃう?」

「油かけながら揚げるんだよね、確か。」

「そうなの?腕の見せ所だね、堀内シェフ。」

「無理だ―。中華のバイキングとか行きたくなってきた。」

軽口を叩いて笑い合う。


そのあとは共通の友人である高校時代の同級生のことについて話した。あの頃から付き合っていた二人が結婚したとか、地味なタイプの子が大学デビューしてキラキラした女の子になったとか、自分探しの旅に出たきり海外生活を送っている人がいるとか、担任の英語教師が今も校舎内を特徴的な走り方で走り続けているとか、本当にそれぐらいの何でもない話。

お腹も心も大満足の週末の夜。私は鼻歌を歌いながら自転車をこいでいる。家まで送るという堀内君を近所かつ自転車だからと押しとどめて、月夜の道をゆったり進む。楽しい同窓会だった。

微妙な気持ちも何もかも飛んで行っていた。堀内君と二人で話している時の私は高校生の頃に戻ってしまったかのようだった。


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