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旅立つ背中の

「それじゃ、行ってきます」

「あぁ、気を付けて」

「ユーリ。ヘグレシアについたらライオンハート家の館を訪ねなさい。私の家族がよくしてくれるからね。合言葉を聞かれたら『獅子の心はこの体の中に』っていうのよ。いいわね?」

「了解、頭に記した」


カトーレアさんは今度はスレゼの方に体を向け、耳打ちで何かを話していた。

聞こえないものかと目を閉じて耳を澄まそうとしているとハバットさんに「やぼったいことはするな」と鉄拳制裁を喰らってしまった。ついに加護アリとナシの肉体脆弱性をハバットさん達に説明できなかったか。


「承知した。他言無用。口外無用。墓まで持っていく」

「か、過剰ね」


ロボットですからとは口が裂けてもいえねぇよ。


「一年後にエーテルもそっちに行くから先輩としてしっかりしなさいよ」

「勿論、カトーレア家の長男ですから王にでも何にでもやれますよ」

「それだけ見栄が張れるなら結構よ。選別にこれを上げるわ。私とパパの最高傑作である術丈刀じゅじょうとう〈ムラクモ〉と特殊加工.五十魔グナム弾五十発に通常のリムファイア型.魔グナム弾五十発。オマケに幻狼種用に純銀弾頭十発もつけちゃうわ」


内心、でもお高いんでしょうと思ったが頭の隅で「馬鹿」と呟かれた気がした。

レシレルさんは自分の後ろに隠していた一本の剣と二つの木箱を俺に渡してくれた。

その剣はレシレルさんの愛剣である。術丈刀じゅつじょうとう〈ムラクモ〉だった。

元は夫であるハバットさんの加護による発明品で知り合いの鍛冶師に頼んで作成した。弾は幼少期に発見した遺産を模したオリジナルだとのこと。銃弾はこの世界にはないはずなのだが創るとは驚きだ。

魔導師が使う杖を剣として作り直した代物で現代でも珍しい回転式弾倉シリンダーを剣と一体化させ.五十魔グナム弾を八発装填でき、柄と刀身間にあるトリガーを引くと高位魔術、高度練金術を発動する。

デメリットとして、重すぎること、.五十魔グナム弾は特殊な製造方法を持ちいらなければ生成できない。

全長八十五のロングソードの総重量は三キロ。通常のロングソード一キロほど違いがでる。

.五十魔グナム弾の魔術発動を指一本でやる為の魔術回路、発動に耐えうる為の魔術回路と様々な回路をその小さな(・・・)剣に圧縮――重くもなるわな。

女性のレシレルさんが術丈刀〈ムラクモ〉を握っていたとは未だ到底受け入れられない。ハバットさんからは〈ムラクモ〉を握った彼女は炎龍を二体同時で倒したとのこと。

どんどんスケールが大きくなっていく我が母上はホントに人間なのかと。

よく生きてた俺。


「あ、ありがたく受け取ります」

「ちゃんと弾倉から弾を抜き取っておくのよ? 弾が入っている時はセーフティー(安全装置)を掛けておくのよ。暴発で他人の体半分が四散したなんて洒落にもならないわ」

「いいな~、にいにはそんないいもの持って」

「兄貴の特権だな、ほしければ強くなって正々堂々奪ってみな」


膨らむ弟の頬。俺は弟の小さな頭の上に手を置いた。一歳しか違わないのだが俺は約175センチ。エーテルは165センチと食べ物同じものを食べていたが加護のデメリットなのか。

考えるだけ無駄か。


「じゃ、行ってきます」


重い剣を地面と平行に腰のホルダー(自家製)に収め、用意していた麻の大袋を持ち大手を振って俺はレネージュを後にした。

家族やお隣さんは号泣していたが俺は泣けそうもなかった。代わりに泣いてくれる人が多すぎるのが原因かどうかは――この後の自分に任せる。

運が良ければ道中に誰か王都に向かう同級生と出会うかもしれない


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