フューチャー・マジック
ご飯を食べ終わるとハバットさんが俺に外に出るよう言われたのでただいま外に居るがスレゼはなぜかついてきた。
ハバットさんの真剣な顔だったためかいつになく俺は真面目な顔で従う。
家の外は黒く、月と燦然と輝く恒星の河が夜空を支配していた。
「少しこの先の道について話をしよう」
家の裏手まであるくと薪割りに使っている切り株にハバットさんは腰をかけた。
ポケットからシナモンステックを取りだし口に咥えた。
まるで煙草の吸えない未成年者のようだ。
などと、大人ぶって言っているがハバットさんが渋く男らしく見えた。前世でも見続けた父の背中のような筋骨隆々で家族を持って歩いてくれている背だ。俺の憧れまで背負っていると感じられたのはただ単に自分が憧れを抱いているからなのだろう。
俺はシナモンステックを要求し真似て口に咥えた。口の中に広がる味は予想通り辛いが水がほしいほどではない。
慣れていない俺の舌では味を敏感に捉えてしまう。ニッキ飴ほど刺さる辛さではないが舌がしびれてくる。
「学園の入学資格、厳密には学園で生活ができるかどうかは加護と魔法の二つに一つを持つこと、二つないものに未来がないのはわかるだろう。狩りも農業にも限界がある。双方の知識と他を寄せ付けない技術があっても不条理に突き返される。加護なしで十二神のアルテミスの加護と対等な持久力と瞬発力、こんな辺境でありつつも私の知らない知識と知恵がある。ユーリよ、この先はどの道を選ぶ」
ハバットさんは咥えたシナモンステックを杖代わりに宙に魔法陣を描く。
「汝、これを道とせず未来とせず定めに従わず、されど未来の斜陽を許容せず『フューチャー・ヴィジョン』」
詠唱が終わると掌に赤、青、緑の球体を魔法で創りだされていた。
これが魔法と認識した。
一つの赤い球体を覗くと人形が大きな建物に乗り込んでいく場面が繰り返されているその後どうなるのかは見れない。恐らくではあるが俺が大きく立ちはだかる障壁に挑むのを示しているのだろう。
青は赤とは別の大きな建物に人形がへんてこな旗を持って進んでいる。違う国で学校に進むということだろうか。
緑はなにも見えない。濁った緑が中で乱れている。
「エーテルと一緒に学園を行くさ」
俺は躊躇せず赤の球体を掴む。
「なるほど、話は終わった。もう十分だ」
予想より淡白な反応が返ってきた。ハバットさんは子供の未来に無関心ではなく逆に情熱的に考えてくれる。親バカなところもあるが決して自由にしてよいなどと言う人でもなかった。
「入学方法を知らなくていいの?」
「昔からできないことがお前にあるのか」
買被り過ぎたとは口からは出なかった。誇らしさが胸を高鳴らせ、喉を詰まらせるからだと外的要因に責を押しつけた。
「さて、用は済んだ。先に家に戻らせていただく。二人の先もあるだろうよく話し合って家に帰ってきなさい」
ハバットさんは咥えていたシナモンステックを藪に投げ捨て帰っていった。
要らぬ御節介だがチャンスだ。スレゼについて話し合わなければいけない。
この状況に甘んじよう。
「スレゼはこれからどうするんだ?」
「私は君の手足となる。私の存在はそれだけで成り立つ。守り怖し乞わす」
「哲学チックな答えが返ってきたが理由を聞いてもいいか?」
「君を守れば大切な人が死なずに済む」
「よっぽど大切な人なんだろうな、スレゼがそこまでして守るなんて」
「……」
スレゼの大切な人について追及はしなかった。スレゼ自身それを望んでいるとは感じられなかったからだ。ただ――ここから、本当に始まるのだと背を摩る夜風が告げた。
手に持ったはずの赤い球体は目を離したすきに霧散したのだろうか、跡形もなかった。




