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Lesson eat!

 『秩序があって人の世は成り立つとされているわ』と俺が前世のことなどを初めて話した時にレシレルさんが言った言葉である。理解はされたがもう二度とこの秘密をしゃべらないことを同時に言われた。真実を話して受け入れられるほどこの世界の人達の脳は柔らかくない。科学の世界から来た俺としては『魔法』と『加護』があるファンタジックで受け入れがたい現実だったが現実だから真正面から受け入れなければならなかった。

 レシレルさん曰く、この世界の魔法の定義は呪文を唱えたり魔法陣を描いたりするのがごく一般的な魔法で魔法の展開の速さと魔力量で優劣が決まり、器量を超える大きな魔法や多重の魔法は頭が負荷に耐えきれなくなり脳漿をぶちまけて死ぬことに直結するパッシブなものである。

無論、脳漿をぶちまけないようにする補助器具はある。展開力を高速化する道具も魔力量を底上げするものもある。

 加護はいたって簡単。神様に加護を受けているか、どんな神に加護を受けているかで優劣がきまり魔法のように死につながることは決してない。魔法師より加護者の方が地位高いのはそこにある。


 不思議なことに加護を授ける神様は前世では神話に登場していた神様ばかりで戦を司る神アレスや狩猟と純潔の神アルテミス、雷と火山の神ヘーパイストスは特に有名であり、ヘーパイストスの加護があれば雷に打たれても平気になり火に焼かれてもやけど一つない超人になる。軍神のアレスは受けている者が戦に赴くだけで勝てるとされているが、軍神も様々存在し常に勝てるとは加護を受けた人物の器量次第、試されるなどよくあることであるが居ると居ないのでは大きな差がつく故に加護者を野放しにはできない。

国はそんな有名な加護を受けている人材や魔法使いとして最たる人材を囲みたいのは当たり前の話で月に一度、国から試験員が各領地に訪問し定期検診も兼ねて加護の有無とどの加護を受けているかを調べている。

 有能だとわかれば国は十歳に達すると入学できる王国立の学園に強制的に入れされられる仕組みとなっている。無論、強制的に入学した場合の食費、学費は免除となり給料までもらえる明るい寮生活が待っている。

 アルテミスの加護を生まれ持っていたエーテルはすでに学校に入学が決定している。

 簡略的ではあるがレシレルさんが話してくれた魔法と加護を俺なりの解釈で説明したものだ。

 なぜ、急にこんな説明をしたかと言われれば……


「ユウリ、それだけか? それだけか?」

「あぁ、そうだよ。これが俺の知る『加護』と『魔法』の知識だよ。付きまとうのもいいがこの畑を耕すのを手伝ってくれよ。さっきからずっと質問ばっかじゃねぇか」


 恩人に恥をかかせた罰だとレシレルと一緒に四ヘクタールほどある畑を鍬で耕している。

 小一時間ほどやらされているが終わる気配すらない。

 鍬を上げては勢いよく振り下ろし、引き上げる時に地中だった土を地上に出さねばならない。エーテルもどこかで加護を活かした手伝いをさせられているだろう。

 そんでもって、俺にこんな偏屈な愛情を注がれる原因となった黒い奴は背後霊ならぬ側面霊とでもいうべきかたちで付き添っている。添われている。

 あまりに無言で付き添ってくるので聞きたいこととかあるかと聞けば「ユーリのことを伺いたい」とのことで前世から転生した部分を削り拾われてから六歳になるまでを教えた。

 ついでに『加護』と『魔法』もしらないというので教えていたのだ。


「copy, なれば鍬を持ち手伝いつつ質問しよう」


 農機具を家から持ってきて彼女に渡し作業に戻る。


「質問はするのかよ。いいよ、次はなにを聞きたい。国か周辺諸国か主力武器か?」

「国だ。この国について知りたい」

「そうだな、この国は――」


 今、俺達が居るアズガル王国は海を背に四つの国に囲まれている。都はガウントレッドヘグレシア、ヘグレシア、ガウントレッドが一般的な呼び名である。

救世主ストレーゼを信仰するストレーゼ教の教会本部がある。アズガルは魔法技術の医療、魔力増幅が特に優れ技術力で言えば近隣諸国の二〇年は先を進んでいるとされているが金属の産出資源が少量で問題となっている。

 君主制としつつ十二貴族と王国騎士円卓会議の二つで政治は成り立っているが発言力は騎士団の方がやや高い。学園の卒業先が騎士ばかりなので自然と強力な加護者が就き必然と発言力が上がるというわけだ。

 

 

「以上がアズガルだ。他四つの国についても聞くか?」

「お願いする」


 国土の大きい順に言えば

コウ、首都はガン

ソレスティン連邦(以降、連邦と称する)、首都はロクスク。

ユブルド帝国(以降、帝国と称す)、首都はヘグマディア。

イージスイングライト及ブリテン連合王国(以降、連合と称する)首都はブリテン。

どの国もアズガルドの国土を二から四倍ほどある。最大の国土を誇る皇であるが技術ではなく代わりに人口がとてつもなく、人が多ければ加護者も多く存在し人海戦術、下手な鉄砲も数撃てばあたるといった有能な加護者を見つけ出す国策を用い加護大国となった。


 連邦は人も多いが産出される資源も多い。徹底した破壊力物量と過大な資本主義経済が支えとなり大量消費される物品は美徳となっている。高度経済成長の日本みたくとれる。

 帝国は技術と資源が並々でここで作られる品全てが最高品質、魔法技術もアズガルドの次に高い。人こそ少ないが技術で物量をひっくり返している。

 連合は科学で発展した珍しい国で国土こそアズガルドの二倍程度と他国には劣っているが遺産技術ロストテクノロジー、つまり大昔にあった技術を保有している。なんでも、遺跡が多くよく遺産が出土すると聞いた覚えがある。


 セントエルモの火と呼ばれる火時計はあまりにも有名でこの火が消えない限り連合は消えないとさえいわれている。結界みたいなものを張る装置らしい。

 レシレルさんは一度見たことがあったらしく聞いてみたところ火というより光が正しいとのことで発光の具合で時間が判るという。

 関係性は不明だがセントエルモの火は船乗り達の間では守護してくれる大事なものだとのこと。

 しかしながら遺産は十分に扱える物が少なく使えるように改造をするまで数十年もかかるらしい。

 互いが互いのないものを持ち牽制する。一種の武力飽和状態ともいえる。

 飽和状態を崩せる唯一のアズガルドの魔法技術を大国は喉から手が出るほどほしいくその土地も技術も欲しいが考えることはみな同じでこれまた牽制の飽和。

 アズガルドを責めているうちに手薄な本国を攻めるぞっと言った具合である。

 百年前にもアズガルドを巻き込んだ世界戦争があったがアズガルドの中立的な姿勢と圧倒的な技術格差に停戦の形をとった終戦となった。

 終戦をさせてもよかったと当時のアズガルド王はいったがこれ以上納めるのが面倒だと大国のプライドを傷つけない停戦とした。あくまでもいい勝負だったとのこと。

 この時、五つの(アズガルドを含む)国家間で結ばれた不戦の約定によってアズガルドの不可侵、アズガルドの開戦権の破棄が決められアズガルドを永遠な中立国とした。


「こんなところかなっと!」


うむ、いい掘り具合だ。


「理解した。君は賢い人だ」

「嫌味かよ!」

「私は純粋に褒めたのだ。君はひねくれている」

 

不器用なヒューマノイドはもくもくと耕している。


「なら、褒め言葉と受け取っておくぞ。えっと――名前まだしらなかった。名前は?」

「スレゼ。正式名称はOid-Aだ。昔あった彼等は私のことを『ノイド』と呼ばれていたがスレゼと呼んでくれ」

「了解。もっとスレゼのことを聞いていいか?」

「承知したいところがいずれ語るときがくるさ」

「含みがある言い方だな」

「含ませているのだ」

「そうかい、そうかい」


会話から三時間後に俺の罰は終了となった。スレゼについては全くわからなかったが悪い奴ではなさそうだ。

スレゼから貸した道具を返してもらい家へと帰る。道中エーテルと出会い一緒に帰る。

あたりは夕空で一面畑の中にポツンと通る一本の道を三人で歩いている。


「ふぅ、やっと終わったか……」

 ため息をついていると後ろからポンっと背中を叩かれるが痛い。

 背中を叩かれて痛いのはレシレルさん以外いない。

 

「お疲れユーリ。貴方も手伝わせてしまって申し訳ないわね。スレゼちゃん」 

「お構いなく」

「母さんはもっとやさしく背を叩くべき、背中すげぇいたいんだけど」

「貴方は頑丈に育てているからいいのよ。こんなこともあろうに背中に背骨をいれているのよ」

「な、なるほどぉ! さすが母さん! にいにはすごいや!」

「背骨がないと人が生きてはいけなし元からあるぞ、母さんはエーテルにへんなことを拭きこまないでよ」

 

 途方もない話をしつつ俺達は自分の家までついた。夕日はすでに落ち、家周辺の静けさと暗さがあった。

 我が家は明かりがすでに灯っている。

炎にたよっているせいで明かりが揺らいでいでもいたが煙突からもくもくと出てくる煙は朝に取っておいたシカの肉が焼けるいい香りを鼻腔に届けてくれる。


「今日は父さんの料理か、仕事帰りなのに悪いことしたなー」

「私が惚れた一端だからいいのよ。あの人にとって家族は大切で宝物なのよ。そういえば、昔に私を馬鹿にしたとアームストロング男爵をなぐりとばしたっけね」

「父さんらしい行動だけど、ホント其の時そばに居なくてよかったよ。絶対心臓が止まってたとおもうから」


戸を開けるとゴツイ体躯の男が鼻歌交じりでかぼちゃのスープをスプーンでまわしていた。

 似つかわしくない光景だがレシレルさんが料理ベタなので俺かハバットさんのどちらかが料理をせねば一家が全滅する。

 ハバットさんがスレゼに気づく。

傷つき支えるべきフレームが曲がっている眼鏡をかけ覇気も威厳もない然たる気弱さえ印象として与える。

ハバットは眼鏡を上げピントをスレゼに合わせた。


「やぁ、そちらのお嬢さんはユーリのお友達かな? それともエーテルの友達かな?」

「貴方。この子は、ユーリの命の恩人でスレゼちゃんっていうの」

「おぉ、そうか、スレゼさん、最愛の家族を助けていただきありがとうございました」

「礼は要らない。私は私にすべきことを成したまで、私はユーリを守るために今は生きているのだから当然のこと」

「スレゼさん、『今は』とはどういった意味で?」

「つ、積もる話もあるけどもここはご飯にしないぃ?」

 

 スレゼとハバットさんの会話にエーテルが空腹に耐えかねて割り込んだ。加護者特有の燃費の悪さに今回は救われた。加護無しの人と比べると倍くらい食べるが加護者が殆どのこの世界では加護無しのほうがご飯の量が少なくてやっていけるのかと常識から脱しているように言われるがこの場合の常識は多い方にあり加護無しの非常識は通らない。

 レシレルさんも女性とは思えないほど食べるがそれでも少ない方だとのこと。

 エーテルはまだ小さいからいいがこれが十歳を超えてくるとパンを何個喰うのだろうかとも考えてしまう。

 


「そうしようか、ユーリ、自分の部屋から椅子をとってきてくれないか?」

「らじゃー」


 自分の部屋から椅子を持ってくるとテーブルにはすでに料理が並んでいた。木製のプレート皿に鮮やかな野菜、トマトは半月に切られレタスが敷き詰められた上に円状に盛られ、中央には甘い赤カブの水煮とシカ肉が盛りつけられは空っぽの胃の中を刺激する。主食のパンも焼き中がカリカリそとはフワフワに仕上がっている。スープは最後のアクセントにミルクを少量加えて完成された状態で食べられるのを待っている。

罰もといい労働の後にこんな光景を見れば加護者でなくとも腹が減る。

 家族とスレゼでテーブルを囲み。両手を合わせる。


「「「「私達は生きていけます。今日も植物、動物の命を糧として」」」

「さぁ、食べろ、食べろ! 私特製のサラダとスープだ」

 

 スレゼだけなにも言わなかったがしょうがない。この挨拶は我が家オリジナルで最初に始めたのは俺で習慣になっていた「いただきます」の挨拶をエーテルに指摘されて訳を説明したら父ハバットさんが関心を寄せ、レシレルさんがならばうちでは其の挨拶をいつもしようと決めた。

ストレーゼ教を含む宗教に料理を作ってくれた人に感謝することあれども自然崇拝の概念がなかった。

 これも一つの俺の生きた証になるのだろうか。

 などと、考えていたら立つ湯気に気がつかず俺は熱々のスープを飲んだ。

 

「ぬぁっ! あっちぃぃ!」

「ユーリ、君の賢いといったことは訂正させていただく」

 

 知るか、スレゼが勝手に言っただけだろ。

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