9話
更新遅くなりました。
1.5週間に1回更新を目指して頑張りますので、気が向けば読んで下さい。
「えーでは、体育祭開催をここに宣言します。」
どこかやる気のない生徒会長の開催宣言で体育祭が始まった。生徒の中にはウオーと発狂している者もいる。運動得意な男子は女子にアピール出来るからね。ちょっとした重要イベントの1つではある。
まぁ僕はもやしっ子で最近はやりの所謂草食系男子だから、頑張って出番がくるまでどっかの隅で雑草むしっとくよ。
といっても今日は得に何もする予定はなく、僕が参加するのは2日目にある男女混合二人三脚とクラス対抗の永縄だけなんだけどね。
「おーいシロー。男子バスケ一試合目だって言うから応援行こうぜ」
さっそく日陰で涼もうと思ってたら友人の本田和馬に声をかけられた。
「僕は蟻さんと戯れとくから」
面倒臭かったので、そう言って断った。
と言うのも今は開会式があったのでグラウンドにいるのだがバスケの会場は体育館で約400mほど歩かなければならない。
ちょーめんどい。
「お前、アリさんは忙しいんだぞ?おすす前如きと遊んでる暇なんかないんだよ。迷惑だからいくぞ。」
素直に傷ついた。
ひどいよね、この人。
そう思うよね?
「・・・・・・そんな僕と一緒に応援する暇のある君もアリ以下じゃないか。」
アリ以下の下等生物め。
バーカバーカ。
「そうだな~、行くぞ~」
さらりと僕の嫌みを受け流し僕の腕を引っ張っていく和馬君。ちょっとはムカっとしてよ。僕が惨めになるじゃないか。
それとだから僕は行きたくないって。
体育祭1日目はスポ一ツが中心だ。
そして各競技はそれぞれ別の場所で行われる。
サッカーはグラウンド、バスケは体育館、バレーは第2グラウンド等々。だから僕が和馬に引っ張られて体育館に向かう途中、いたる所で練習をしている風景を目にした。
こういう時ってわざとボールを女子の集団の方に転がして、それを取ってもらったりして、ありがとうって言って、少し照れた感じの女子の顔を見たりするんだよなー。
青春だな~。
とか思ってんじゃねえぞ。特にそこの男子!
「シロー、目恐いぞ」
「それより和馬。逃げたりしないから手離して。学校内で男と手繋いで歩くっていろいろやばいと思う」
「・・・・・・知ってるか?委員ちょチャン、腐女子の気があるらしいぜ。ほら今もあそこで見てる」
和馬の指さす方向を見ると、確かにこちらを興奮した感じで見つめている小さな女の子がいた。
「だかう何?」
「俺の為に犠牲になってくれ。」
・・・・・・。
「おまっ、まさか、委員ちょちゃんに見つめられたいが為に・・・・・・」
「許せ。」
和馬が委員ちょちゃんに片想いをしているのは知っていたが、何ということだ。
「おい和馬!お前委員ちょちゃんにそういう対象で見られてしまったら、恋愛対象では見られなくなるかもしれないぞ!」
気づけ!
そして僕を開放しろ。
手が物凄い握力で握られて痛い。
「・・・・・・。」
黙るなー!
それから見つめられてるのが嬉しいのか知んないけど、この状態でニヤニヤするな。周りから余計に勘違いされるだろうが!
そうこうしている内に体育館に着いた。
見渡してみるとうちのクラスの男子バスケチームが試合に向け軽く練習をしていて、その近くには応援しに来たクラスメートがかたまってだべっていた。
「あ、浅野君やっときた。」
波多野さんが僕に気づき声をかけて、笑顔で近づいてくる。しかし段々と笑顔が硬くなり、遂に手をつないでいる男二人を目の前に全運動を停止した。
まぁそうなりますよね。
「波多野さん、誤解してるようだから言うけど、違うよ。決して僕は。神に誓って。命にかけて。」
石像化した彼女に懸命に声をかけるも反応はない。
「おい和馬。いい加減はなせ!」
「おっと、悪い悪い」
やっと、やっと和馬が手を離してくれた。
長時間離すまいと長時間握られていた手の痺れをとくため、そして目の前の石像に意識を取り戻させるために、波多野さんの顔の前で自由を取り戻した手を軽く振る。
「・・・・・・はっ」
「目覚めたかね」
「わ、私、何か変なものを。」
「気のせいじゃない?」
寧ろ気のせいであるべきだ!
最近ぽっちゃり系女子がモテるっていう風潮は気のせいじゃなくていいから、このことは気のせいであって!
「ううん、気のせいじゃないよ。」
急に後ろからそんな言葉が聞こえてきた。
振り返ると満面の笑みを浮かべた腐女子こと委員ちょちゃん。
「お幸せに!」
彼女は意味不明な言葉を残し、僕と和馬の肩を軽くたたいた後、バスケの練習をしているクラスの連中の方に向かっていった。
近くを見てみると、再び固まった波多野さんと委員ちょちゃんに触れられた方の肩を片手で優しくなでながらニヤケ顔のまま動こうとしない和馬がいた。
何か、もう疲れたよパトラッ○シュ。
程なくして試合が始まろうとしていた。
気合を入れる為選手と応援に来た人全員で円陣を組んだ。
その輪の中には当然篠宮さんはいない。
どこかで読書をしているんだろうな。羨ましい。
「ファイトー!」
「「「「「オー!!!」」」」」
バスケチームのリーダーが掛け声を掛けて皆が一勢にオーと言った。その中にただ独り一発と言った者がいた。
僕である。
てか普通ファイトときたら一発でしょ。
なんで皆揃ってオーって言えたの?
打ち合わせしてたの?
でも恥ずかしかったが幸いにしてあまり大きな声は出していなかったため隣の人ぐらいしか気づいてなく、少し笑われたぐらいで済んだ。
・・・・・・と思っていた。
「浅野君絶対今一発って言ったでしょ。ロの動きが皆と違ったもん」
恥ずかしかったので俯いていたらそんなセリフが結構な音量で耳に届いてきたので、誰かと思って声のした方を見ると、意地悪な笑顔でこちらを見る波多野さんがいた。
彼女は先日の種目決めの日以来、普段は良いのだがちょっとした事があるとこうして意地悪をしてくる小悪魔系女子になってしまった。
以外と根にもつタイプだったようだ。
皆は僕をみて笑っていた。
あー、どこかに行きたい。
結果としてバスケは負けた。
バスケだけではなく、その他もうちのクラスはあっけなく終わった。トーナメント形式で全て行われたのだが良くて2回戦敗退だった。
くじ運が悪かった、というチームもあったが弱すぎたというのが原因のような気がする。
えらそうなことを言えたくちではないが、僕ですら呆れるほど弱かった。男子も女子も。
兎にも角にもなので応援もする必要がなくなり僕は今、日陰を探して独り歩いていた。ちなみに和馬に一緒にいようと誘われたが断った。当然だ。
その現場を見ていた委員ちょちゃんはあからさまに残念そうな顔をしていて、ザまぁみろと珍しく思ってしまった。
校舎内は防犯のため昼食時の12時から13時以外は保健室以外立ち入り禁止となっており、只今真昼で良い日陰がなく、あっても先に占拠されてたりと中々落ち着けない。ボッチと思われるのは少し抵抗があるので人目のつかない所が良いんだけどな。
もう諦めて潔く私はボッチですと認めて人目があってもいいから日陰に入ろうかと思っていた時、佐古田先生の後ろ姿を見つけた。
どうやら周りをキョロキョロと伺いながらどこかに向かっている様だった。
最初は無視しようかと思ったがどうにもその姿が気になったので後を付けることにした。
周りの目が痛いのでテレビよろしくあからさまにスパイをしている風な感じは見せない。普通に付いていくだけだ。
佐古田先生に付いていくと職員用の駐車場に来た。
ここで一つの可能性が思い浮かぶ。
尾行したのは正解だったかもしれない。
佐古田先生はある車に乗った。程なくしてエンジンがかかったが、車が発進する気配はない。僕は自分の仮説に確信を抱いたのと同時に先生の乗っている車に近づく。
コンコンと運転手座席のドアガラスをノックする。
刹那、ドアガラスが段々と開いていき驚きと気まずさが同居した顔の佐古田先生がいた。
「せーんせっ」
嫌みったらしく、今日は嫌な事がいっぱいあった、それを晴らすかのように僕は声をかけた。
「な、なにかな浅野。私はこれからちょっと出かけるのだが・・・・・・」
声色で嘘だとすぐ分かる。
「嘘はいけないですよ。じゃあ何で座席を思いっきり倒して、テレビまでついて、ポテチを片手に持ってるんですか?」
これはもう言い逃れ不可能だろう。
「こ、これはだなぁ。その・・・・」
「先生お願い聞いてくれたら黙っておきますよ」
1日目終了までエアコンの効いた、そう涼しい車の中にいさせてもらえることになった。
どうやら節電と言って体育祭の日ぐらいはと、普段は掛かっているエアコンを切った職員室の暑さに我慢の限界がきて、車内に避難してきたそうな。
生徒の応援をする先生すらいるのに全くこの人は。
そのような事を言った僕に
「授業がある日は良いんだが今日みたいな日はな・・・と苦々しそうに漏らしていた」
先生美人だから応援したら喜ぶ人多いだろうなと思いながらも、今僕はこの状況に感謝している身なので深くは突っ込まない。
「ところで浅野。聞いた話によると昨日終わったテスト欠点ないそうじゃないか。担任が喜んでたぞ」
「あぁ。僕監視者いたらできるって分かったんで篠宮さんと勉強してたんです」
「よくOKされたな」
「まぁ最初は渋ってましたが、僕が欠点とったら結局前みたいに佐古田先生に僕の事頼まれるだろうから後になるか先にするかだよ、って言ったら簡単でしたよ」
「ふっ、そうか。仲が良さそうで結構」
「んーどうなんですかね?相変わらず会話はないし、友人と言うには些か引っかかる部分が多いですよ。」
というか一方的にこっちが関わろうとしているだけで向こうは迷惑してるって感じだし。
まぁ気にしないけど。
「あ、そういえば明日篠宮さんと男女混合二人三脚やりますよ」
そう言うと先程まで柔らかい微笑みを浮かべていた先生だがいきなり吹き出した。
淑女とは思えない吹き出し方だった。
というかロ内にあったポテチの残骸が散っている。
可哀想にあのポテチ。
「お、お前とっあ、あの詩織が、に、二人三脚ぷっ。はははっっ、だ、駄目だ。腹苦しぃぃ」
腹を抱えながら爆笑する先生。
何というか普段からあまり先生と意識させるような人ではないが今のこの姿は、うん。もういいや。
それからしばらく笑い続けた後、深呼吸をして落ち着きを取り戻すまで数分かかった。
「まぁ頑張れ。応援するから」
頑張るのは嫌だが、楽しみなのは事実だ。
だから僕はこう答える。
「見事1位をとってみせましょう」
読んでいただきありがとうございます。
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