7話
更新遅れてすみません。
頑張ります。
勉強は生涯付きまとってくるそうな。
いくら拒絶し、いくら逃避し、いくら無視しようとも奴は必ず食らい付いて来る。もはやそれはストーカーとも言え、変態だ。犯罪級だ。現に奴らに追い詰められ自殺した人だって少なくはない。つまり勉強は正義と言う名の悪である。
というような下らない考えの持ち主だった僕が今勉強を楽しいと思ってしまっている。
僕は今、数Bの追試が余裕で終わって、数Ⅱの追試を受けているのだが、スルスルと解けるのだ。
われらの通う学校は追試はテスト終了後二回目の土曜に行われる。正規のテストと比べ追試のほうは問題の難易度と合格ラインがかなり高い。だから一般生徒は絶対に欠点を取るまいとテスト週間に猛勉強をする。現に今追試を受けているのは僕だけだ。つまり僕は特別生徒。すぺしゃる。
とにかく、それほどまでにこの高校の追試は厳しいため、欠点を取ってなんとか残った者の方が最終的には学力が高くなるのではと言われるている。と僕は思っている。
そんな追試を今僕はスルスルと解いている。いつもは四苦八苦しながらようやく合格という感じなのだが今回は余裕そうだ。やはり僕はやれば出来る子なんだ。天才なんだ。
こうやって過酷な追試を乗り越えるたびに変な自信が付いてきて、結果また欠点を取ると言うのがこの制度の穴だ。
「先生。今回は目を瞑っても採点できますよ。全部丸ですから」
僕はびっしり記入された答案用紙を佐古田先生に提出する。
「前回の採点も目を瞑ってできたよ。ほとんどバツというか白紙だったから」
それはそれは。早速佐古田先生は赤ペンを走らせていた。
「僕って採点者に優しい生徒ですね。楽な生徒ですね。」
「お前は採点者をキレさせる生徒だよ」
思い出したのか先生がギロリと睨んで来た。
そうしながらも先生の手にある赤ペンは気持ちよさそうに答案用紙上をターンする。
数分後。
「これは驚いたな。本当に満点だ。」
目を丸くしながら先生は完璧なる答案用紙を眺めている。
「僕ってやっぱり天才だったんですよ」
僕は胸を張ってドヤ顔を作る。
いつもは冗談で言っているこの言葉だが、今はマジだ。
「そうだな。もしかしたらきみの場合天才と書いてばかと読むのかもしれない。」
ため息をつきながらそう言った。
「先生。生徒が頑張って結果を出したときはもっと嬉しそうにしないと駄目ですよ。唯でさえいつもしかめっ面が多いんだから、たまに笑って皺を伸ばさなきゃ折角の美人が勿体ないですよ。」
「心遣いありがとう。だがな、皺を伸ばすより、皺作る原因を取り除きたいんだがどう思う?」
今の先生の表情は想像に任せます。
とにかくやばい。
「あー、えっと、そう言えば篠宮さんに何かお礼をしたいんですけど、何が良いと思います?今回の追試が良かったのも二重に僕の才能と彼女の協力のおかげと思うので……」
鼻息の荒い先生をドードーと静めながら訪ねる。
ドードー。ドードー。ドードー……。
僕は結局土下座した。
「お礼か?そうだな。詩織は何も受け取りそうにないな」
先生は足を組んで座り、床に正座したままの僕を見下ろしながら言った。
「そうなんですよねぇ。」
「あいつ頑固だからなぁ」
「そうなんですよねぇ。いつも読書してますけど、どういったジャンルが好きなんですかね?」
篠宮さんといったら本とセットのイメージがある。
いつも寡黙に読書する美女。それが篠宮さんだ。
「本だけはやめておけ」
先生が静かに言った。
「いや、まぁ。好みが分かれるからな。」
慌てて付け足すようにそう言った。
よく分からないが、やめておこうと思った。
きっと先生の経験から基づくものだと僕は睨んだ。
過去に恋人か何かに本を贈って失敗したのではないか?ケッケッケ
「なるほど。ところで先生」
「なんだ?」
僕は先ほどから気になっていたことを言おうと決めた。
「大変言いにくいのですが、足組んで太もものきわどい所まで見せてるのはわざとですか?眼福なので僕は一向に構いませんが……。どうせならもう少し開いてください。」
ちょうど目の前にあるのだ。
残念なことにその奥は見えないが。
視線をを太ももから、先生の顔にあげる。
シュビドゥヴファッッ
ピンポーンと篠宮さんちのインターホンを押す。
「はい」
ちょこんと篠宮さんがドアから顔を出してきた。
「えっと、今日の追試数Ⅱ数B共に余裕で合格でした。それもこれも一重に篠宮さんのおかげと思いまして、御礼を言いに来ました。」
本当に感謝だ。それに尽きる。
「そうですか。おめでとうございます」
篠宮さんの顔が上下した。顔しか見えないので何処か可笑しさがそこにはあった。
「それで何かお礼をしたいんですけども……」
「結構です」
予想通りの返答かかえってきた。
しかしここで簡単に引き下がるほど今日の僕はヘタレじゃない。
考えもあるしね。
「三回」
僕は人差し指と中指とお姉さん指を立ててキョトンとしている篠宮さんの顔の前に出した。
どうでもいいけどお姉さん指ってエロいよね。五本の指の中で一番うまく動かなくて、他の指の協力が必要って言う所も何か、現実見せられてる感じがして、むかつくけど、お姉さんって感じがしていいよね。どうでもいいけど。
「三回だけなんでも貴女の言うことを聞きます。という権利を貴女に送ります」
そう。これが僕が佐古田先生にボコボコにされながら思いついた御礼の仕方だ。
「限界はあるけど出来るだけ頑張ります。あぁ、勿論使わなくてもいいです。」
こんな権利を使われなくても大抵のことは出来る限りは協力はするだろうけど、この人はきっと人を頼らない。
それはとっても人間らしくない。人は支えあっているからこそ人であれる。僕はそう思っている。
だから少しでも人を頼るという選択肢を彼女の中に持って意識してほしかったから、僕はお礼としてこの権利を送った。
そして彼女に人と触れ合うことの暖かさを少しでも分かってほしい。
本人がどう思っているのかは分からないが、やっぱり静かに読書するのもいいのかもしれないが、友達との会話もするべきだと思う。
「あぁ、それと。僕はMじゃないからね。普通だからね」
ただでさえキョトンとしていた篠宮さんが、更にクエスチョンマークを顔面に貼り付ける。
「いや、その。確かに佐古田先生にボコボコにされながらこれを思いついたんだけど、三回なんでも言うことを聞くって、そういう願望があるわけじゃないというか、目覚めてないというか、上手くいえないけどそういうことだから。うん。」
上手く説明できず、だんだん焦ってきて恥ずかしくなってきて俯いてしまった。
これじゃぁ、嘘を言っているみたいだ。
だからこれだけは言いたい。僕はMじゃない。
「ぷっ」
そんな破裂音が僕の耳に届いた。
おならではない。それにしては音が高すぎた。
まさかと思い顔をあげる。
目の前にはやっぱり、いつもと変わらない篠宮さんの顔があった。
気のせいか?
もしかしたら篠宮さんが笑ったのではないかと思ったのだが……
僕はジッと彼女の顔を見つめる。
「えっと、まだ何か?」
彼女が怪訝そうに聞いてきた。
「あ、いや、その。今笑いましたか?」
聞こうか聞くまいか迷ったが、やっぱり聞いてしまった。
「いえ」
彼女は無表情でそう答えた。
「そうですか。それではまた学校で。本当にありがとうございました。」
これ以上言及しても意味はないことは分かっていたので、僕は彼女は笑っていないといったが勝手に笑ったことにすることにした。そっちの方が良いから。
「はい」
彼女はそう言って扉をしめた。
予想外でぇす。
月曜日。
教室に入ると、やっぱりいつものように静かに読書をしている篠宮さんがいた。
僕は彼女に近づく。
そしていつものように挨拶をする。
いつもなら返事は返ってこない。しかし今日は何故かそうでもない気がしていた。
それはきっと、この前の別れ際に言われたたった二文字が原因だろう。
彼女の顔があがった。
僕は期待を胸に、彼女が次のアクションを起こすのを待つ。
「……おはよう、ごさいます」
朝の喧騒な教室の中ではそれは聞き漏らしてしまうほどに小さな声だった。
いつものように、意外だがはっきりした物言いではなかった。
だけど僕は聞いてしまった。
既に彼女の視線は本の文字達にある。
だけど僕はここから動けなくなってしまった。
女子生徒が座って読書をしている目の前に立ったまま動かない男子生徒がそこにいた。
なにかが変わってきている気がした。
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