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4話



シャーペンの先が紙を叩く音がいくつも聞こえる。

不規則だがどこか統一感のあるこの音の連打が僕は好きだ。

今日は一学期中間テスト最終日、そして今最後の科目である数学のテストを皆さん真剣に受けている。今回の数学の範囲は狭かったので難しい応用問題が多く出るであろうと予想されていたこのテスト。いったい今聞こえてくる音の中でどれだけのものが正しい解を導いていて、どれだけのものが誤解を導いているのだろうか。

しかしこんな疑問は浮かびさえしたものの全く意味のない問のように思えてくる。

他人が正解を導こうか誤解を導こうか僕には関係のないことだからだ。自分はどう解を出すか、それだけ考えればいいのだ。そしてその解が結果的にどのような物であったとしても僕はそれを恥ずかしがることは決してしない。

なぜならば自分の出した解とは自分の考えを持ったという尊ぶべき証なのだから。

そもそも妄想の自由を認められている我が国ではどんな答えを妄想しても良いはずである。


そんな風に少し達観した心持ちで僕はこのテストを受けていた。

教室の扉が開いた。

その瞬間心地よい五月の風が流れてきた。

「質問がある人はいるか?」

佐古田先生がそう言って入ってくる。

どうやら今回の問題作成者である彼女は問題並びに解答用紙に誤りや不明瞭な所がないか聞きにきたようだ。


解答用紙を回収する都合上現在出席番号順に席を取っているのだが僕は1番の為最前列の右端、つまり先程開いた扉のすぐ側、もっと言えば佐古田先生が今立っているすぐ側に僕は着席している。

先生はざっと教室全体を見渡してから一番手頃な所に陣取っている僕の解答用紙を見た。


その瞬間先生は目を鋭くする。

その視線に僕は照れ笑いを返す。


だってしょうがないじゃないか。

全然分かんないんだもん。


もしかすると今の僕と先生の光景は、少しキツめの彼女に彼氏がおどけるのに似ているかもしれない。

そう妄想して少しでも先生の視線からうけるダメージを和らげようと努力した。


僕は100分間時間をとられていたテストで残り時間約30分といった現段階でほぼ白紙のこの解答用紙に対して既に開き直っていた。


「まぁ今回は少々難易度は高いが最後まで諦めないように」


最後にもう一度僕をにらみつけた後佐古田先生は教室を後にした。





「終わった~」

教室内のいたる所からそんな声が聞こえてくる。

まぁ僕はきっと欠点科目が3つはあるから再試にむけてこれから始まるって感じだけど。


「シロー、お前どうだった?」

本田和馬が愚問をぶつけてきた。


「ほとんど白紙。紙がもったいなかったよ」

誇らしげにそう言う僕はやはり元々の器量が違うように見受けられよう。


「またお前勉強しなかったのか?」

「僕はテスト週間はテストの結果を真摯に受け止めるだけの心構えを身に付ける期間だと思っているからね。勉強はしないよ」

と言っても玄人である僕は既にそんな心構えは身についているから娯楽に惚けていただけだがね。

「テストの結果を変える為の期間だと俺は思うぞ」

和馬よ。お前は真面目すぎるよ。

真面目すぎて目力半端ないよ。








そして2日後


「浅野。なぜお前が呼ばれたか分かるな?」

僕は佐古田先生に呼ばれて職員室にいた。

「ま、まぁ」

そりゃ勿論。テスト終了後の恒例行事ですから。

「はぁ全くお前は。頭自体は良さそうなのに。もっとやる気を出せ」

ため息混じりにそう告げる先生。

「え?僕天才なんですか?やっぱり」

「いや、お前は馬鹿だ」

間髪を容れずそう返してきた先生のストレートな言葉。

「まぁなんだ。お察しの通りお前追試だ。この前ワークをまともに出してきたから少しは期待してたんだがな。」

残念そうに言う佐古田先生のわざとらしい顔がそこにはあった。

「それで再来週の土曜にあるんだが、お前何教科欠った?」

「数Ⅱと数Bなので2つです」

なんとびっくり。最良記録の2教科。

日本史とか化学も危なかったのに何とかセーフだったのだ。運は我の味方なり。

「ほぉ。お前にしては少ないな」

佐古田先生も少し驚きの様子。

「まぁ日頃の行いですかね」

「理不尽なものだよな。日頃の行いは良くても中々報われない奴もいるのにお前みたいにラッキーな奴もいる。あぁ成る程。お前は低レベルだから些細なことでも報われたと感じるだけが。」

どこか遠い目をしてそんな失礼なことも言う女教師がここにはいた。

「些細なことに喜びを感じれる。純情な好青年じゃないですか。」

「え?どこに好青年がいる?どこだ?あそこか?」

惚けてアホみたいにキョロキョロする女教師がそこにはいた。

失礼極まりなかったがその動作に

少し萌えた。


それから何やかんやしている内に後ろに気配を感じた。


「お、きたか」

僕は後ろを振り返る。

そこには篠宮詩織が立っていた。


「では先生失礼します。」

僕はこれから2人で何か話をするのだろうと思いここを去ろうとした。このさり気ない気遣い。僕やっぱり好青年。先生!やはり好青年はここにいますよ!

「いや、浅野逃げるな。お前についてで詩織を呼んだんだ。ここにいろ」

そう言って僕の気遣いを無下に先生はしやがった。

しかも逃げるなだと?

図星だよ。

「どういうことですか?」

そう聞きながらチラリと篠宮さんの方を見る。

彼女も内容については知らされていないようだった。


「詩織。追試まで浅野の勉強を見てやれ」


「え?」

そう声に出したのは僕だった。

「この前も勉強みてやったんだろ?どうかこの馬鹿を助けてやってくれ」


しばらくの間沈黙が流れた。

「いやいやいや。それは駄目でしょ。流石に申し訳ないです。」

その沈黙を破ったのは僕だった。

「お前散々私に迷惑かけといて詩織相手になるとその態度とはいい度胸だな。」


「ははは・・・・・・」



「それで詩織どうだ?2人は隣人同士というし、お前は成績もいい。こいつと2人きりになるかもしれんが安心していいだろう。こいつはへタレだから安全と私が保証しよう。駄目か?」

先生。ここまで僕のことを思ってくれているなんて。へタレは余計だけど、少し感動です。

「私は忙しいのでこいつ如きにかまってばかりではいかんのだ。私を助けると思って」

感動を返せ。


篠宮さんは相変わらず無表情のまま静かだった。

しかしその唇が開こうとしている瞬間を僕は見失わなかった。独特の緊張感が流れる。僕はその空気にのまれてしまった。スロ一再生のようにゆっくりと開いていく彼女の唇。そこから声が出されるのを今か今かと待ってしまう。




「分かりました。」




彼女ははっきりそう言った。



読んでいただきありがとうございます。

感想並びにご意見があれば教えて下されば嬉しいです。

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