11話
更新遅くなってすみませんでした。
これは注意点というか知っておいて欲しい事なのだが、僕は篠宮さんに恋愛感情を抱いているわけではない。
2ヶ月前の5月、僕が風邪でぶっ倒れた所を彼女が看病した一件以来、何かと僕は篠宮さんと繋がりを持とうと行動してきたが、これは恋愛感情から来るものではないと思う。確かに反応を返されただけで顔がニヤケてしまったり、もう社会的に死んでしまっても構わないと喜んだりするが、これはそんなにドロドロしたものではない。
根拠としては、仮に篠宮さんに懸想していたとしたら、へタレである僕はこれまでのような積極的な行動を起こすことは出来ていないだろうということだ。
あの5月、ずっと雲の上の、どこか浮き世離れした存在と思っていた篠宮さんが、僕らと同じ人間と気づいた。そして人間である篠宮さんが何故、浮き世から離れるようにしているのか、それが気になり、また同時に寂しくも思えた。
だから僕は篠宮さんと友人になりたい。
そう。
だからこの胸の高鳴りは恋なんかじゃないはずだ。
僕と篠宮さんは二人三脚参加者の待機場で、出番を待つ間会話をしていた。
そう、会話である。
言葉のキャッチボールである。
僕は胸が熱くなるのを感じていた。
「篠宮さんって運動得意なの?」
「いいえ、人並みと思います。」
「そっか。僕は人並以下だから、イカの世界では最強の頭脳を持っていることになるイカだよ。」
「・・・・・・?」
うん。僕も意味不明だと思う。今の発言は。
「えっと、人並み以下、人並のイカ、すごく頭良いイカ、みたいな?ははは。」
僕の必死の説明も虚しく、篠宮さんは怪訝そうな顔をしている。
折角会話してたのに、僕はバカか。
詰まらん冗談言いやがって。
「・・・・つまり浅野君はイカの中のイカですが、人並み以下には変わりない、ということですか?」
無表情で地味にキツい事言わないで。
でももうその結論で良いよ。
あながち間違いでもないし。
後、変な知恵巡らさせちゃってすみませんでした。
頭の中で土下座した。
「えっと、自信もって下さい。浅野君はイカじゃないと思います。」
うん。誰でもそう思うと思うよ!
でも、篠宮さん。
アナタ良い人やねー。
と、こんな風なたわいもない、ただ僕がバカなだけの会話が続いていた。
ただの会話だが、これは大きな変化だ。
何か篠宮さんの意識が変わるキッカケでもあったのだろうか。
とにかく今日は雪が降るかもしれない。
まさか!
珍しいことをして雪を降らし、この暑すぎる気温を落ち着かせようとか、そんな女神的なこと考えてるのでは?
篠宮さん、それは迷信だよ。
雪ふらんよ。
そんな変な妄想が膨らむほど、僕は彼女との会話が珍しく感じ、現実感もない様な気がした。
「お前、もやし系美少年の浅野だな?」
突然そんな声がきこえた。
声もした方を向くと、背の高い短髪のスポーティーな青年と、その青年と手を繋いでいるポニ一テールのよく似合っている女子がいた。
受けた印象じとして、二人は3年の様な気がした。
「僕は浅野ですけど何か用ですか?」
当然だが声を掛けられたことによって、篠宮さんとの会話は途切れた。その事に少し残念な想いがあったので、少しつっけんどんに答えた。
ちなみに話しかけてきた相手が隣の女性だったら、今の1.5倍のテンションで答えたはずだ。
「さっきはえらいチヤホヤされてたが、調子乗んなよ。ベストカップルの座は俺とコイツの物だ。」
そう言って隣の彼女と笑い合う。
多分苦手な人だな。この人。
そんなことより・・・・
「ベストカップルって何ですか?」
いや、何となく分かりますよ?
「この競技全体を通して、一番相性が良いと思われたペアに与えられる称号だ。知らんのか?」
えぇ初耳です。
てか、運営側いろいろ頑張るね。
ちょっと迷惑な気もするけど。
「ふん。お前何組目に出るんだ?」
「一組目です。初っ端です」
「へぇ、同じか。ふん。覚悟しとけよ。」
そう言い残して、カップルは仲良く回れ右して僕達というか僕から離れていった。
覚悟しとけよって、何を覚悟すればいいのだ。
覚悟なんて対象によってどあいが変わるんだ。
とりあえず、この先輩(推測)は僕がもやし系美少年って騒がれたのが羨ましくて、逆恨みしてるって事?
めんどくさいなぁ。
一応、授業中鼻くそほじくる程度の覚悟をしとくよ。
結構な覚悟いるぞ。これ。
ほどなくして。
コース説明をかねてグラウンドを一周しながら入場することとなった。
アナウンスの人がコースを説明する。
『さぁ、お待ちかね。男女混合二人三脚が間もなく始まります。この競技のテーマは“夫婦”。コース中、夫婦にちなんだ関門が3つあるのですが、ペアの愛の力で見事にゴールしてもらいましょう。尚生徒会役員が行う審査で一番愛に溢れていると感じたペアにはベストカップルの称号が与えられます。』
こんな風にアナウンスが流れる中、選手改め夫婦(仮)一行はグラウンドを一周し、スタート地点に到着した。
1組目の僕らは、既にスタート準備に入っている。
左隣のレーンにいる先程の煩い先輩たちはこちらを睨んでいる。怖かったので右隣りにいる篠宮さんを見た。誰もが少しはドキドキするであろうスタート前であっても彼女は無表情だった。
うん、なんか落ち着く。
「手を繋いで~」
スターターの人が声をはっていう。
それを受けペアがそれぞれ手をつなぐ。
これは二人三脚のはずなのにどうも最初から足を結ばれる訳ではないらしい。
僕も右手で篠宮さんの左手を掴んだ。優しく握ったりとか無理。
第一女子の手何ざここ数年握ったりなんかしてないんだ。一時間ほど前に波多野さんに無理やり拉致された時も手首掴まれてただけだし。
というわけで、ソフトタッチとか何か小っ恥ずかしくて、くすぐったい感じがして。熟練度の低い僕には無理だ。
篠宮さんが顔を少ししかめたのが見えて全力で力を抜いた。
「よ~い」
ピストルの音が鳴った。
あ~耳に響く。これでスターターの人が男子だったら、鼓膜破る気かテメエコンチクショーと文句を言うところである。もちろん心の中で。良かったな、女子で。
そんなことを考えていたら既に皆はスタートしているのに、僕ら二人はスタートラインの上に突っ立ったままであった。
多分これは、僕のせいであろう。
篠宮さんが引っ張ってスタートをする正確であろうか。否だ。
篠宮さんと顔があった。
「スタートしましょうか」
僕がそう言ってかtら、ようやくスタートをした。
よくよく考えると、客観的に見ると今のこの状況はもしかしたら、自己中なバカップルに見えるかもしれない。恥ずかしくて、顔から火が出そうである。いっそのこと出してしまったらこの状況をごまかせるかもしれない。「バカップルかよ~。うぜぇ」より「おい、顔から火が出てるぞ。やべぇぞおい」の方がきっと盛り上がるだろう。
そんなこんなでマイペースに進む僕たちは第一関門に差し掛かっていた。
第一関門名づけて「おしゃれな妻、待つ夫」らしい。
グラウンド中央に大きな箱みたいなのが置いてあるのだが、それは更衣室らしく、女性側はその中に入ってそこに用意されている服に着替えるらしい。その間男性はただ待つ。
何というかこの中で着替えが行われてると思うと少し……。
しばらくして篠宮さんが着替えて出てきた。
中世ヨーロッパを思わせる静かな青色のドレスを着ていた。
ドレスは袖が短いため、、体操服の袖が出ていて少し間抜けだった。でも元がとんでもなく美人なのだからそれでも、綺麗と思わずにはいられなかった。
だがほかの人も色が違うだけで、同じドレスを着ているのに、体操服は見えなかった。
うまく捲くって隠したのか、脱いだのか。
夢を持って後者と思いたい。
どちらにしろ体操服の袖を隠す手間を取らなかった為か、単純に篠宮さんの着替えるスピードが早かったおかげなのか、スタートでは遅れをとっていたのに7組中4位まで順位を上げた。一位は待機中うるさいことを言ってきた例のペアである。
続いて第二の関門に突入した。
タイトルは「怖い妻、耐える夫」
女性はボールを渡され、それを7M程離れた夫に向かって投げる。
尚、第三関門でようやく二人三脚をしてゴールとなるのだが、ボールが当たった場所によって走る距離が変わるらしい。
顔は残り50M、上半身は100M、下半身は140Mとなるらしい。
当然顔にあたったほうが有利なのだが、ボールは思いのほか硬そうなので、上半身に狙いを定めるのが定石となるだろうというのが僕の予想だ。
でも何だ、これって夫婦円満の秘訣は夫の我慢って言いたいの?
もしそれが本当なら、男は小さい時からMになように指導する教育制度にしたら?
そしたら少子化も解消できるかもね。
篠宮さんは硬式のテニスボールが渡され、投げる位置についた。僕は篠宮さんから7M離れた所、つまり投げられる位置につく。そこにはどこに当たったかチェックする係りの人がいて、礼儀正しく軽く会釈をされたので、僕も返した。
「僕短足でしかも、顔デカイんで、ここが腰でここまでが顔です」
デタラメを言った。
と、その時。
「ッンゴ」
鼻に激痛が走った。
一瞬何が起きたかわからなかったが、鼻に鈍い痛みがじわじわと蓄積され、目頭に涙が溜まってきたのが感じ取れるようになると、やっと状況を把握することができた。
どうやら、篠宮さんが大きく振りかぶったかどうかは知らないが、彼女から放たれたボールが僕の鼻にジャストミートしたのだ。
ナイスコントロール、ナイスパワーでした。
あー鼻血でるかも。
「文句なしで顔面ですね」
そうですね。
「ではあちらに向かって下さい」
篠宮さんと合流し、手を繋ぎ、言われた方へ駆け足で向かう。
「ナイスピッチングだったね」
いまだにツンツンする鼻を繋いでない方の手でクイクイしながら、少し嫌味っぽく言う。
走りながらだから、言葉が途切れ途切れになっているのが、気持ち悪い気がした。
なんかハーハーしてるおっさんみたいだよ。
「すみませんでした。大丈夫ですか?」
気持ち悪い話しかけ方をしてしまったのでドン引きされて、いつも以上の無視が来るかと思いきや、意外にも凄く心配してくれた。
眉が少し下がってて可愛い。
「うん。大丈夫大丈夫。それになんか今の所一位みたいだしこの調子で頑張ろう。」
篠宮さんのナイスピッチングのおかげで、僕達はあの例のカップルを抑えて一位に躍り出ていた。あの人らはどうやらボールが上半身に当たったらしく残り100Mのところへ向かっている。
さぁ、これから第3の関門「夫婦の共同疾走」であり、ようやくこの種目の名前にもなっている二人三脚をする時がきた。
用意されていた紐を手に取り、僕の右足と篠宮さんの左足を結ぶ。
固結びにするとほどくのがめんどくさいくなる気がしたので、固めの超蝶結びにした。
お互い肩を組む。
やった。篠宮さんにタッチ。と思いきや、ドレスが思いのほかゴワゴワしてて、全然だつた。でもまぁ遠慮ガチに肩に添えられている篠宮さんの手の感触は最高ですけどね。
しかし、長くこの時間を過ごす訳にはいかないようだ。例のカップルはもう走りだしていた。しかも結構速い。残り60Mといったところまですでに来ている。
「じゃあ組んでない方の足からだしましょうか。その場足踏み始め!イッチニッ、イッチ二ッ!」
そう元気よく叫んだ。
その瞬間クスリと隣から聞こえた。
静かにしかし確かに隣の人は笑っていた。
「進め!」
イッチ二ッとリズムを刻みながらゴールへと向かう。
例のカップルとの差はあまりないが気にせず自分達のペースで走ろう。
こくこくとゴールが近づいてくる。
例のカップルも。
興奮してきた。
結構良いたたかいを繰り広げているじゃないか。鼻くそほじくる覚悟のおかげか?
鼻がジンジンまだしてるけど、これは鼻くそほじくって、鼻毛抜けたからじゃないぞ。
あ、鼻血出てきた。
血のにおいがする。
ゴールがよいよ近づいて来た時篠宮さんと目が合った。ぼくはこの調子と目で合図を送った。鼻血たらした顔でキリリとカッコ付けてもカッコ悪いかも。
彼女の顔は真っ青となった。
え?そんなになるほど僕の顔変だつたのか?
篠宮さんの顔は険しさを増し、そえる程度だった手も、今では肩を掴んでいる感じである。
どうしたんだ?
なにかよくわからないが、明らかに様子がおかしい。
スピードが落ち、ゴールまで後少しのところで、例のカップルが追いついてしまった。
ほぼ間隔がないぐらいのスレスレで篠宮さんの横を通り過ぎる。
「あ!!」
抜けたから瞬間篠宮さんの体がぐらついた。
危ない!!!
足が結ばれいるため僕もバランスを崩してしまう。
このままでは篠宮さんを下敷きにしてしまう。
僕は本能的にそう察知して、何とか体を捻らせ篠宮さんを庇おうとした。
瞬間、強い衝撃が走った。
体から嫌な音が聞こえた。
篠宮さんが悲鳴をあげていた。
僕は意識を失った。
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