10話
体育祭2日目。
良い天気だ。予報によると32度をこえるらしい。
お風呂の温度としてはぬるいはずなのに何故こんなにも暑く感じるのか。
それは全裸かそうでないかの違いだ。
よし、皆全裸になろう。
ものは試しよう。
なぁに皆でやれば怖くないさ。
・・・・・・。
兎に角、そんな中運動するのは地獄だ。
それこそ、女子が脱いでくれたら天国に一変するのだろかが、そんな事あるはずもなく、逆に日焼けしちゃうーとか言ってジャージ着たりして肌を隠すんだろう。まったく男心を分かっていない。それでよく乙女心を理解しろとか言えるな。この世はギヴアンドテイクだぞ。
“おとめごころ”はっ何それ?
“おつとめごくろう”ってか?
何上から目線で物言ってるの?
え~失言いたしました。
とにかく頭が変になるくらい暑いんです。
2日目は所謂運動会ぽい競技を中心に行われる。
騎馬戦、かけっこ、障害物競争などなど。
競技は全てグラウンドで行われ、生徒たちはクラス単位で固まってグラウンドを囲むように設置されたテントの下で観戦をする。
高校生は普通の競技をただ見ていてもあきてしまいがちなので、いろいろな工夫を用いられて少し変わった形式の競技が多い。
例えば徒競走は50m毎に何かポーズを決めなければならない。ノリの良い男子がやると吐き気をもよおし、ノリの良い女子がやるとニヤニヤが止まらない。
他にも玉入れではドベのチームは玉と何度も叫びながらグラウンドを行進しながら一周しなければならない。こんな風に下品で下らないものもあるが体育祭という雰囲気が笑いを生み、結構盛り上がる。
まぁ僕は暑さでげっそりしてるけどね。
フヤフヤだよ。ニヤニヤはしてないよ。
同じ2828でも鼻の下伸ばしてる方じゃないから。
兎に角、まだ何もしていないのに既にこんな状態で、二人三脚まで体力がもつか分からない。
昨日佐古田先生に勝利宣言をした手前、無様なのは駄目だ。
だから皆で脱ごうよ。
暑さ対策のためにさ。
・・・・・・嘘だし冗談だしそんな度胸無いよ。
そういえば篠宮さん見かけないな。
朝はチラッと見たのだけど今は近くにいない。
ほとんどのクラスメートはここにいるというのに、全く彼女はどこにいるのだろうか。
一緒に二人三脚に出るから出来るだけ近くにいて欲しかったんだけど。
何より彼女の冷たい視線浴びて冷や汗かいて、体感温度を低くしたい。
篠宮さんの無表情レベルなら可能なはずだ。
「おいシロー今から委員ちょちゃんが出てくるぞ」
暑さにやられて変な事を考えてばかりいた僕に声がかかった。
勿論、本田和馬君。
目をキラキラさせて想い人の登場を心持ちにしている。
そんなに好きならもう告っちゃいなよ。
と言いたいがその後、だってぇ俺なんかが、とか言いながらイジイジする和馬を見るのは気持ち悪く、面倒くさいので言わない。
僕のことヘタレとかもやしとか馬鹿とか言うけどこいつも大概だ。
「何に出るんだ?」
適当に、まぁ暇だしということで余計なことは言わずに会話を続ける。
「借り物競争だって。うちのクラスはあと波多野さんが出るな」
「へぇ」
確かにスタート待機の列の中にその二人がいるのが分かる。
そしてワクワクしているのは和馬だけじゃなくクラスの皆もクラスの中心人物の2人が出てくるので総じて興奮気味だ。更にこれは借り物競争。男子達が前に集まってきて期待をしている。良かったな和馬。男子皆の雰囲気のおかげで浮かずに済んで。
ピストルが鳴り、1組目がスタートをした。
その中に委員ちょちゃんも含まれている。お題のかいてある紙を見て、借り物をする為四方八方に競技者達が散っていく。
委員ちょちゃんがこちら側に向かって走ってきた。
大抵の人はこの体育祭がクラス対抗のため、自分のクラスの元に借りにくる。なので平等を出来るだけ期すため、お題置き場とゴールはグラウンドの真ん中に設置されている。
委員ちょちゃんが近づいてきて、隣の和馬ががくっと震えた。
健気だな。
応援はしてるぞ、和馬。
まあ残念ながら委員ちょちゃんはクラスの仲の良い女子から青色のタオルを受け取って去っていった。
隣の和馬ががくっとうなだれた。
当然ながらこの借り物競争も普通とは少し違う。
競技者は借りたものを紹介しなければならない。
例えば委員ちょちゃんは青色のタオルを
「ビーエルユーイー、BL結いのタオルです。いいかんじのBlueのタオルです」
と紹介している。
他意がありそうな気がするのは気のせいだろうか。
僕が敏感になりすぎているだけだろうか。
きっと考えすぎだ。気にしない気にしない。
パァ~ン。
僕が何か得体の知りたくない悪寒に戸惑っていたら、再びピストルが鳴り2組目がスタートした。この組には波多野さんが含まれており、うちのクラスの男子が構えたのが分かる。期待するのは分かるけど、どうせとも思う。
波多野さんはこっちに近づいて来ているが、女子に借りるのだろう。
男子の想いなど軽くスルーしてね。
そう思っていたから、
「浅野君行くよ」
と手を引っ張られたのには驚いた。
クラスの皆も驚いた。
男子達の形相は予想通りで驚かなかった。
恐かったけど。
「ねぇお題は何なの?僕である必要あるの?」
引っ張られてゴールへ向かう途中何度もそう質問したが答えてもらえず、ただ波多野さんは生き生きとした、これから何か楽しみがあるような顔でただ走っていた。
何か嫌な予感がする。
やがてゴールし、係りの人から借り物紹介するためのマイクが波多野さんに渡される。
波多野さんは一つ大きな息をすってマイクに声をぶつける。
「私が借りたのは“もやし系美少年”です!」
そんな言葉がグラウンド中に響いた。
あ、確かに僕だ。
いやぁ美少年か。
直接言われたの初めてで照れるなぁ。
「見て下さい。この美少年。クリっとした目の美しさ。綺麗に通った鼻筋。控えめで上品な唇。どの角度からみても美少年です。更にこのもやしっぷり!色白でヒョロっとしていて正にもやし。もやしの中のもやし。美少年と合わさって最早萌やしです。萌の権化です。ホント素晴らしい萌やし系美少年です!」
ちょっ、これは何ていう羞恥プレイだ。
周りからは笑い声やら美少年~と呼ぶ声やらが聞こえる。死ねという熱い視線もある。
さすがの僕もこれは恥ずかしすぎて、怖すぎて、駄目だ。こんなに目立つ場で、こんなことを言われてしまっては、明日から学校中でネタにされてしまう。或いはネタミで死ぬ。
僕は真っ赤と真っ青が合わさって紫色になっているであろう顔で、元凶である波多野さんを睨む。
テヘペロっ。
そんな感じでかわされた。
何?まだ例のこと根にもってるの?
こんなに根が深いと僕の草食レベルを持ってもむしり取れ無いよ。
お願いだから許して。
周りから奇異と鬼畏の目で見られながら、満足げな顔の波多野さんを隣に僕は退場した。
そしてクラスの皆の元へ戻ると、あれ?何が起きたんだっけ?記憶障害があるようだ。
その後、二人三脚がもうすぐと言うし、クラスの男子共の近くにいづらかったので、行方知れずの篠宮さんを探すことにした。
名探偵僕にかかれば捜索はあっという間だ。
何ということはない。
集合場所にすでに来ていた。
二人三脚出場者の集合とあり、イチャイチャカップルだったり如何にもリア充です、とかいう人達が固まって座って賑やかにしている中、篠宮さんは体育座りをしてポツリとそこにいた。
微動すらせず、尚且つ完璧とも言えるスタイルの篠宮さんは人形の様でのようで、推測リア充の喧騒の中、やはり静かで独特の雰囲気を持っていた。
これで僕が声を掛けるとパッと顔を輝かして、待ってたよアピールとかしてくれたら最高だな。
よく言えばその後顔を赤らめて照れ隠ししてくれたら、今日の嫌な出来事全部忘れられるだろうな。もしかしたら興奮しすぎて、社会的に死ぬ程の失態を犯すかもしれない。
まぁどうせ無表情の無反応だろうけどね。
「やぁ、篠宮さん」
そう人形に声をかけると、人形はやはり人だった。
「はい」
無表情だけど、これだけで社会的に死んでも悔いないかも。
と、少し思った。
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