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1話

楽しんでいただければ嬉しいです。

綺麗な女性が静かに読書をしていた。

僕はそんな彼女をベッドに横になり見つめている。


この部屋には数分置きに聞こえる紙のめくれる音しか聞こえなかった。




本日は日曜日。普段ならば高校の友人達と遊ぶなり家の中でDVDを見るなり何なりしている曜日である。


現に今日も遊びに行く予定であった。

しかし僕は今友人と一緒にいない。


事の発端は自分にある。

昼頃外出する準備を整え、アパートの自分の部屋を出たときだ。


突如世界が揺れ始めた。


僕は大地震が起きた思い、すぐしゃがんだ。

驚くべき反射神経、驚くべき状況判断だった。しかし何と言うことはない。世界が揺れたのではなく僕が揺れていたのである。

気づけば僕は地面にアツいキスをかましていた。

恐らく熱があったのだろう。

実を言うと倒れる前から違和感はあったのだ。

朝起きてみると何となく視界がぼやけていたので視力が落ちたのかと思い、眼鏡を買うことを決意したのは今日である。

またやけに寒気がしたのでもう五月に入ったというのにコートとマフラーを装備したのも今日である。

つまりこれら2つの違和感は僕が倒れることを予兆していたのだ。


その後のことは覚えていない。


そして今、僕はベットを媒介に甘い香りと心地の良い温もりに包まれている。

ここは多分読書をしているこの美人さんの家だろう。この女性が道端で倒れているいたいけな僕を見つけ部屋に運び看病してくれたという経緯が容易に想像が付く。

そして実を言うと彼女は僕の隣人だ。

さらに言えばクラスメイトである。


僕と彼女は隣人同士になったのは1年と少し前のこと。高校入学を期に僕がこのアパートに越して来たのがきっかけだった。

しかし隣人関係に加え、クラスメイトだというのに僕と彼女は交流といった交流はない。

最後に交わりがあったのは事務的なことを除けば、高2になり今のクラスになった時僕がよろしくと言ったのが最後のはずだ。しかも返事は無かったので交流ではなく直流だろう、あれは。

引越しの挨拶の際も、似たようなものであった。そのときは流石に会釈はしてもらえたが…。

これらの件から言えることは僕が挨拶もろくに返してもらえないような可愛そうな男だということではない。

彼女はそういう人だということだ。

容姿が整っている彼女は入学当初かなり持てはやされたらしい。

しかし彼女にはどこか人を寄せ付けさせない独特なオーラがある。

授業中以外はいつも静かに本を読んでおり、彼女に話しかけてはならないというのが内の学校での暗黙の了解とまでなってしまった。それ故に今となってはその容姿であるにも関わらず、学校では空気のような、そういった存在となってしまっている。


だから僕は驚いていた。


彼女が僕を看病してくれたということに。




彼女は普段の教室にいる時と変わらないようにどこまでも静かだった。

一定の間隔で聞こえる紙の擦れる音がなければ、寝ていると勘違いするほどにその体は動かなかった。


僕はここで目覚めてどれだけの時間が経ったのだろうか。

濡れタオルがずれて目から鼻に掛けて横たわっているのを直してやりたい。

背中がかゆい。

お腹がすいた。

どの欲求を満たそうとしても彼女をまとう静のオーラがそれを遠慮させた。

なにより、僕が動きこの世界に音を加えてしまうことが申し訳なく感じた。

それほどまでに彼女とそれを取り巻く環境は静を極めていた。




ぐぅ、ぎゅるるるぅぅ



「あ」


しかしどこにも遠慮の無いけしからんやつはいるものだ。

今の場合それは僕の腹の虫だった。

あれだけの音が鳴ったのだ、当然彼女は僕を見ていた。

今日初めて、もしかしたら出会って初めて、目が合った。


笑ってごまかすべきか、何事無かったように起き上がり看病に対して礼を言うべきか。

「あ」

僕が逡巡している間に、彼女は本を閉じ立ち上がって台所のほうに向かっていった。


それからしばらくすると料理のする音が聞こえてきた。

そこまでしてもらわなくても良いと言おうと思ったが、またもや彼女の雰囲気とイメージに緊張してしまい、結局僕はボーっとしていた。時々聞こえる腹の音が何とも腹立たしかった。


気づけばお粥が出来ていた。

はっきりと何を作ったかわからないが匂いと今の僕の状況を鑑みてお粥だと想像できた。うん僕名探偵。

彼女は座卓にそれを置き僕に近づいてきた。

やばい、緊張して心臓止まりそう。


「起きれます?」

初めて彼女の声を聞いた気がした。

そのことにしばらく感動を覚え固まってしまった。

「お粥を作ったんですけど」

僕は彼女はボソボソっと消え入るような声でしゃべるのかと想像していたのだが、割りとはっきりと物を言うようだった。

アルトの声が落ち着いていて耳によく馴染んだ。

その声の余韻に浸ってしまい、僕はまたしても行動を起こせない。

恐らく間抜けな顔をしているだろう。

いつもの三割り増しでお馬鹿に見えるはずだ。

そう思うと僕は覚醒した。

僕はアホ面じゃない。

腹筋を使い起き上がり、顔をキリッとさせ彼女の目を見て言った。

「大丈夫」

決まった、そう思った。

しかし元々熱があるのに加えいきなり起き上がって、頭がフラフラした。

更に額に乗ってた塗れタオルが落ちて顔の変な所で静止した。ぐへっ

その時の僕の顔は驚くほど気持ち悪かっただろう。

いつもの五割り増しでお馬鹿に見えたはずだ。



「薄……」

お粥は本当に意外なことにおいしくなかった。

僕は彼女が一人暮らしのこともあり料理慣れしており、これどこの漫画のヒロインよろしくスンバらしく料理が上手だと思っていた。しかし実際は味が薄く、水気が多く、おいしくなかった。

そしてこぼれた言葉がそれだった。

「味でおいしいですね」

今更付け足しても無駄だと分かっていたが苦し紛れにそう言った僕は間違っているのだろうか。

ずっと横になっていたため時間の感覚が分からなくなっていたが、どうも既に夕飯を食べるのに相応しい時間になっていたようで目の前で一緒にお粥を食べている彼女は僕の言葉なんかどこ吹く風といった感じでやはり静かだった。

僕は気まずくなりあたりに視線を巡らす。

すると棚の所にカップめんが見えた。

どこか体が暖まった。

彼女を取り巻くオーラも心なしか少し可愛く思えてきた。これが世に聞くギャップ萌えというやつだろうか。とにかく同じ部屋にいるというのにやっとこの人を身近に感じた。




「どうもありがとうございました。大分楽になりました」

僕はそう礼を述べて自分の部屋に戻った。

その際やはり彼女は無言であった。

しかし、それは不思議と寂しいものではなかった。

彼女の事はどこか遠い存在の様に感じていた節が僕にはある。しかし今日、実はそうでもないと気づいた。彼女もカップヌードルを食べるんだ。

僕は明日学校で彼女に声を掛けようと思う。

快調すればだが。

そして彼女は無視をするだろう。

そんなやりとりを早くやりたいと高鳴る胸を抑え、明日を迎えるべく床についた。


しかし眠れなかった。

昼寝過ぎたようだ。





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