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初泳ぎ

 蘭の指示で始まった準備運動も終わり、いよいよプールの中へと入る時が来た。


「さあ、準備運動も終わった事で、これからプールの中に入るけど、くれぐれも足を攣らないように気を付けるのよ」


プールの中に入る前に、蘭から麻奈と菜月と聖へ一言の忠告を行った。


「じゃあ、まずは誰から泳いでみる?」


「えっ!? いきなり泳ぐのですか?」


「ええ、そうよ」


準備運動終了後に、いきなりプールに入って泳ぐと言った蘭に、菜月は驚いた様子になった。


「なんなら、私が最初に泳いでみようかしら?」


「まあ、別にかまわないですけれども……」


(こういうのって確か、初めは身体に水を慣らす為に、プールに入るのが先なのでは?)


驚いた様子でいた菜月を見た蘭は、初めに泳いでみようかと菜月に聞いてみると、菜月はあっさりとOKをした。


その時、菜月は心の中で呟くような感じで、プールに入る前には体を慣らす為に先に水に浸かるのが先だと思った。


菜月がそんな事を思っている間にも、蘭はひと泳ぎをする為に、プールの飛込み台の上に立っていた。


「それじゃあ、麻奈ちゃんに菜月ちゃんに聖ちゃん見ててね~ この水泳部の部長である私の泳ぎを」


「うん、ちゃんと見ておくよ。頑張ってね~」


麻奈が応援をする中、蘭は飛込み台の上でプールの中へと飛び込む体制をとった。


そして、飛び込む体制をとりだしてすぐに、蘭はプールの中へと飛び込むように入り泳ぎ始めた。


蘭はクロールでプールの中をスイスイと泳ぎだし、その光景を見ている麻奈にとっては、まるでプールの水面を華麗に泳ぐ白鳥のようにも例えたくなるくらい優雅に泳いでいた。


 それから間もなくして、蘭はプールの端から端の50メートルを泳ぎ切り、水中からプールサイドへと上がり出した。


「ねえ、どうだった。私の泳ぎは?」


「蘭さん、凄くよかったです!」


「さすがは水泳部の部長をやるだけはありますね」


「そうでしょ。これが水泳部部長である私の泳ぎよ」


泳ぎを終え、麻奈達のいる方へと向かってくる蘭は、麻奈達に先程の泳ぎの調子を聞いてみると、麻奈と菜月は凄く感激をした様子で答えた。


「聖ちゃんの眼には、私の泳ぎはどう映ったかしら?」


「ん? まあ、別に良かったとは思うわ」


続いて蘭は、かつて水泳で大きな大会に出場をした経験のある聖にも先程の泳ぎはどうだったかを聞いてみた。


すると、聖は首を傾げながら良かったと言った。


「そう、良かったでしょ。じゃあ、次は聖ちゃんの泳ぎを見せてもらおうかしら?」


麻奈達のいる場所へと戻ってきた蘭は、プールの水面を見ながら後ろにいる麻奈と菜月と聖に背を向けながら喋った。


「まあ、それは別に構いませんけれども、そんな事よりも蘭さん、さっき泳いだせいか水着が食い込んでお尻が丸見えになってますよ」


「ああ、ホントですよ。早く食い込みを直した方が良いわよ!」


プールの水面を見つめている蘭の後ろ姿を見た聖と菜月は口を揃えるようにして、先ほどの泳ぎで水着が食い込んでしまい丸見えになった蘭のお尻の事を指摘した。


「あら、別に私達しかここにいないんだから、そんなに恥ずかしがる事はないわよ」


「ないわよって、蘭さん…… お尻丸見えになってても恥ずかしくないんですか?」


「こんなの慣れてしまえば別にどって事はないわよ。泳いでいたらしょっちゅうなるんだから、いちいち恥ずかしがっていられないわ」


後ろを振り向き、食い込んで丸出しになったお尻を右手で触りながら、蘭は恥ずかしがる事はないと言った。


それに対し、麻奈が少し慌てた様子で恥かしくはないのかと蘭に問いかけると、蘭はいちいち気にしていられないとあっさりと言った。


「そう、やっぱりハイレグ型は食い込みで丸見えになるから好きじゃないのよね」


そう言いながら聖は、プールの飛込み台の上に立ち、泳ぐ準備を始めた。


「聖ちゃんも、頑張ってね~」


飛込み台の上に立ち、今まさに泳ごうとする聖に、麻奈は応援の一言を送った。


その後、間もなくしてから聖は一気にプールの中へと飛び込み、蘭と同じクロールをスイスイとプールの中を進むような感じで泳ぎ始め出した。


聖の泳ぎは、かつて大きな大会に出ていただけはあってか、泳ぎのフォームだけは先程泳いでいた蘭のよりもよほど上手かった。


そして、聖が蘭と同じ50メートルを泳いだ後、水中からプールサイドへと上がり出した。


「やっぱり凄いよ、聖ちゃん!」


「意外と速いわね」


「さ、さすがは水泳経験者と言うだけの実力はあるわね」


泳ぎを終え、先ほどまでいた場所へと戻ってくる聖に、麻奈と菜月と蘭は先程の聖の泳ぎを見た感想を言った。


「そう言ってくれてどうも…… 私としては久々に泳いだものだから、フォームが崩れてないか心配したけど」


麻奈と菜月と蘭の感想を歩きながら聞いた聖は、自分で思っていた感想よりもプラス面だった事で少しホッとした気分になった。


 そして、聖が麻奈達のいる場所まで戻って来ると、蘭は両手を腰に当てた状態で、麻奈の方を見ながらニヤリとした表情を見せた。


「よしっ! 聖ちゃんの泳ぎも見た事だし、次は麻奈ちゃんの泳ぎを見せてもらおうかしら?」


蘭にジッと見られながらそのセリフを言われた麻奈は、一瞬心臓がビクッと止まるかのような勢いで驚いた。


「いっ、いや…… 私はまだ、心の準備が…… 出来ていないので、最後でいいです……」


「あらっ、そんな事言わずに、麻奈ちゃんの水泳部への意気込みは充分私にも伝わってるわ。だから泳ぎも見せて欲しいの!」


緊張をしているのか、泳ぐのを拒む麻奈を強引にも泳がそうとする蘭は、勢いのあまり麻奈の体を持ち上げてしまいプールの中へと放り込んでしまった。


「ちょっと!! 蘭さん、何やってるんですか!!」


「何って? 麻奈ちゃんに泳いでもらおうと思って…… ありゃ、少し不味かったかな?」


「そりゃあ、そうですよ!!」


麻奈の泳ぐ姿を何としてでも見たかった蘭がとった行動を見て、菜月があまりにも予想外な行動として驚き、蘭を叱った。


「そんな事よりさ、麻奈さんの泳ぎがなんか変と言うか……」


プールの中へと放り込まれて泳いでいる麻奈の姿を見ていた聖は、麻奈の泳ぎが変な事に疑問を抱いていた。


その聖の一言を聞いた蘭と菜月も、とっさにプールの方に顔を向けると、そこには麻奈がジタバタと手足を動かしながら泳いでいる姿が目に飛び込んできた。


その泳ぎは、クロールに似て非なる泳ぎであり、蘭や聖のような綺麗な泳ぎとは異なり、まるでエサに群がる鯉のようにジタバタと水面を進んでいるだけであった。


そう、その泳ぎ方は、まるでカナヅチの人が行うような泳ぎ方であった。

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