文化祭当日
この日は、ついに待ちに待った文化祭の日である。
この日の学校内では、各教室ではそれぞれのクラスの出し物が行われていたり、また、校庭では出店の屋台も何件か出ている。
その為、外からの来場者も多く、この日の学校は凄く賑わっていた。
そんな中、麻奈達も高校生活最初の文化祭を、水泳部で行うシンクロが始まるまでの間、それぞれ自由時間として、文化祭の様子を楽しんでいた。
そして、シンクロが始まる時間が訪れた……
開始1時間前ぐらいから、室内型のプールの見学席には人が座り始め、開始数分前では既に満員の状態であった。
その為、プールの窓の周りにも、人が集まっている状態であった。
そして、シンクロを披露する麻奈と菜月と聖と蘭と安奈もの5人は、シンクロで着る専用の衣装である、スカートやスカーフを取り外す事が出来る、白と青い色のセクシーなやや露出のあるセーラー服の様な衣装を着ていた。
同時に頭にはいつも使っているゴーグルを装着し、手にはタンクが付いてあるおもちゃの水鉄砲を持って、始まるのを待っていた。
そんな人がたくさん集まっている様子を、プール更衣室から確認した麻奈は、少し緊張をした様に不安な気持ちでいた。
「あわわぁ~ 凄い人だよ!!」
「そうね。人がたくさん集まっているわ」
麻奈が人の多さに緊張をしている中、聖は特に緊張はせずに、落ち着いた状態であった。
「こんな多くの人の前で、失敗でもしたら、それこそ恥ね」
「失敗しない為に、今まで練習をやって来たのでしょ!!」
「そうだろ。第一、お前等は、私よりも練習をしているんだから、本当に失敗しないか不安なのは、私の方だよ」
「それもそうね」
また、菜月も麻奈と同様に緊張をした様子でいたが、蘭と安奈に言われた後、菜月はあっさりと気持ちを切り替えた。
「確かに、蘭さんと安奈さんが言うように、いつまでも緊張をしていたってしょうがないよ」
「そうよ!! 自信を持ちなさい」
「今のお前なら、絶対に上手くいくって」
「そうね、自信を持たないと!!」
そして、麻奈も菜月に続くように、蘭と安奈に言われるがまま、さっきまでの緊張を自分で解いた。
「その調子よ、麻奈」
自力で緊張を解いた麻奈に対し、聖は麻奈を応援するように声をかけた。
「うん」
そんな麻奈は、ニコッとした表情で頷きながら聖の方を見た時、聖の黒いロングヘアーに目が行った。
「あっ、そうだ聖ちゃん。せっかくだから、髪を結んだらどうかな?」
「えっ、なんで?」
「だって、その方が可愛いよ」
「そっ、そうかな? じゃあ、やってみるわね……」
聖はそう言いながら、麻奈に言われるがまま、更衣室に置いてある自分のカバンの中から、麻奈から貰ったゴム紐を取り出し、それを両サイドに結んだ。
「やっぱり、その方が良いよ!!」
「んん~ なんだか、これで出るのは、少し緊張するわね」
長い髪を結び、ツインテールとなった聖は、先程とは異なり、結んだ髪を触りながら、少し恥かしそうに頬を赤くしていた。
「やっぱり、聖はそれでいいよ」
「ツインテールの聖ちゃんも、可愛いわよ」
「まぁ、蘭の言っている事は、間違いではないな」
「全く、みんなしてまで!!」
更に、菜月と蘭と安奈までもが、聖のツインテール姿に賛成の意を示すと、聖は嬉しいと言う表情を心の奥で隠しながら、表面は先程よりも更に恥かしがる様子を見せた。
そして、プール見学席やプールの窓の周りから入場を期待する歓声が上がると、いよいよシンクロ公演の始まる時が訪れた。
その瞬間を迎えた時、プール更衣室では蘭がプールへ入る前に、皆に一言言った。
「さぁ、いよいよ始まるけど、みんな絶対に成功させるわよ」
「はいっ!!」
「分かってるわよ」
「当たり前でしょ」
「そりゃそうだろ」
蘭の一言に答えるように、麻奈と菜月と聖と安奈も、シンクロ公演を成功させると言う意気込みを見せた。
「それじゃあ、行くわよ!!」
「はいっ!!」
そして、部長である蘭を先頭に、水鉄砲を両手で持ちながら、麻奈達も蘭の後ろを歩きながら、歓声を上げるたくさんの観客達が待つプールへと向かった。
プールに向かった麻奈達を迎えてくれたのは、観客達の盛大な歓迎であった。
そんな歓迎に答えるかのように、まずは手に持っていたタンク付の水鉄砲で観客達に水をかけて盛り上げ、その後は、その水鉄砲を床に置いた後で、麻奈のダンスと歌が始まった。
麻奈が歌っている間は、菜月と聖と蘭と安奈は、麻奈が歌う歌に合わせながら、バックダンサーを務めていた。
そんな麻奈の歌が終わると、いよいよプールの中に入る為、麻奈達は着ていた衣装のスカートとスカーフとセーラー服にも付いている首回りのヒラヒラのヤツを取り外し、白いハイレグタイプの競泳水着姿となった後で、頭に付けていたゴーグルを目に当て、一斉にプールの中へと飛び込んだ。
プールに入ってからは、水中で見事に5人の息をピッタリと合わせ、綺麗なシンクロナイストスイミングを披露する事が出来た。
このシンクロナイストスイミングを見ていた観客達からは、盛大な歓声を受けた。
そんな文化祭でのシンクロは、失敗する事なく、見事に大成功で幕を閉じた。
そして……
文化祭も終わり、賑やかであった学校も夕方が訪れるのと共に静まって行き、楽しかった時間は終わり、今は校庭では屋台等の後片付けが行われている。
そんな中、文化祭でシンクロを披露した麻奈と菜月と聖の3人は、今までの練習期間も含めてか、凄く疲れ切った様子で、シンクロ公演終了後からずっと、プール更衣室で壁にもたれながら隣り合わせで寝ていた。
そんな様子を、蘭と安奈は赤い台に座りながら見つめていた。
「文化祭も終わっちゃったわね」
「だな」
寝ている麻奈と菜月と聖を見ながら、蘭と安奈は話を始めた。
「どうだった? 久々に私と一緒にいて楽しかったでしょ?」
「まっ、まぁ…… 初めは他校の文化祭に出るなんてスッゲー面倒くさい事だと思っていたけど…… 実際、シンクロもなかなか面白かったな」
「そうでしょ!! 仲間と楽しい事をするのって、最高に面白いでしょ」
「まぁ、面白いったら面白かったな。この数か月、短い期間だったけど、久々に蘭と一緒にいれて、ちょっぴり、昔の事を思い出しちまったよ」
安奈は、頬を赤く照らしながら、隣に座っている蘭に言った。
「そう、私も久々に昔から安奈ちゃんと一緒にいた日々を思い出せて、凄く楽しかったわ!!」
「蘭もそう思うか。でも、文化祭も終わっちゃったし、明日からは私と蘭はまたライバル同士に戻る訳だな」
「まぁ、そうなるわね」
そして、楽しかった文化祭も終わり、明日からは再び他校の生徒同士ライバル関係に戻る事を、安奈と蘭は少し寂しく思った。
「それが普通なんだよ」
「いっその事、そんな普通を変えてみない?」
「何言ってんだよ!?」
突然、蘭がとんでもない事を言い出した為に、安奈は驚きながら蘭の方を見た。
「だから、これからも私と安奈ちゃんが一緒にいれるように、安奈ちゃんが私達の学校に来たらいいのよ」
「お前はいつも無茶を言うな」
「確かに無茶ね。そう言えば、安奈ちゃんの成績では、この学校には入れなかったっけ?」
「余計なお世話だよ!!」
蘭から突然、成績の事を言われた安奈は、恥かしそうに赤面な顔をしながらツッコんだ。
「それはともかく、これで本当にお別れなのね」
「さすがにお別れは言いすぎだろ? 会おうと思えばいつでも会えるのだから……」
その後、蘭は悲しいという表情を演じる様に作りながら話をしていると、すぐ隣で見ていた安奈から冷めた表情で見られてしまった。
そんな感じで、文化祭も終わり、片付けが行われている少し寂しく感じる夕方のプール更衣室の中で、蘭と安奈もお互いの別れを寂しく思う中、今ままでの事を思い出しながら、色々と話をしていた。




