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心の底からの思い

 ロードバイクに乗りながら、練習場のプールがある学校へと向かっていた安奈は、もうすぐその学校に着くという時、とんでもない光景を見てしまった。


それは、聖のいる某スイミングスクールに向かって、ハイレグタイプの競泳水着姿のまま走っていた麻奈の姿であった。


「おいっ‼ お前、なんちゅう格好で走ってんだよ‼」


麻奈の走っている姿を見た安奈は、驚きながら、ロードバイクを止めた。


「いまは、かっこうなんてきにしているばあいじゃないよ‼」


安奈の声を聞いた麻奈は、走った状態で後ろを振り向きながら言った。


そんな麻奈に対し、安奈は麻奈の後を追うように、ロードバイクで麻奈が走っている前に来た。


「さすがに気になるわ‼ この様子だと、ただのランニングではなさそうだな?」


「そうだよ。これはらんにんぐじゃないよ‼」


「じゃあ、何でそんな格好で走ってんだよ?」


麻奈の事が気になった安奈は、ロードバイクで走っている麻奈を追いかけながら、その真相を聞き出そうとした。


「そっ、それは…… きっ、きよらちゃんがむかしのこーちのもとにもどるのを、そしするためだよ‼」


「……」


 麻奈から、ハイレグタイプの競泳水着姿のまま走っている理由を聞いた安奈は、麻奈が走っている前でロードバイクを止め、急いでいた麻奈の足止めをした。


「なにするのよ‼ わたしはいそいでいるんだよ‼」


走っている目の前に邪魔が入った麻奈は、早くどいて欲しいが為に、怒り口調で言った。


「確か、今日は聖が某スイミングスクールで、昔のコーチの元に戻るか戻らないかを決める日だったよな」


「だから、それがどうしたのよ?」


「お前の走りでは、某スイミングスクールに着くのに日がくれてしまう」


「だから、いそいでいるんじゃない‼ そこをどいてよ‼」


「そんなに急ぐ必要があるなら、これに乗っていけ」


そう言いながら、安奈は乗っていたロードバイクを降り、両手にハンドルを握りながら、ロードバイクを麻奈の方に向けた。


「のってっけって、あんなさん…… かしてくれるの?」


「それ以外に何があるってんだよ。それにお前、裸足じゃないか。靴も貸してやるから」


この時の麻奈は、あまりにも急いでいた為、靴も履いていない状態であった。


その為、裸足である事も心配した安奈は、麻奈に履いていたスポーツシューズも貸すと言った。


「そんな、くつまでもわるいよ……」


「悪いことがあるか‼ 裸足で走ってケガでもしたら、どうするんだよ? ほらっ、これを持て」


そう言いながら、安奈はロードバイクを麻奈に持たせた後、履いていたスポーツシューズを脱いだ。


「サイズは合うはずだから、気にするな‼」


「あっ、あんなさん……」


「礼なんて後ででいいから。早く聖の元へ行け‼」


「うんっ‼ わかった‼」


 そして麻奈は、安奈から借りたスポーツシューズを履いた後、安奈から借りたロードバイクに乗り、勢いよく漕ぎ始めた。


勢いよくロードバイクを漕ぐ麻奈の後ろ姿を、安奈は麻奈の無事を見守る様に見ていた。


(始めて会った時は、ただどぐさい奴だとしか思わなかったけど…… なかなかやるな)


そんな麻奈の姿が見えなくなった後、安奈は蘭と菜月のいるプール更衣室に向かう為、裸足で歩き始めた。


 そして、麻奈は聖のいる某スイミングスクールに向かって、ロードを全力疾走で漕いでいた。


(どっ、どうか…… まにあって……)


麻奈は、ただ聖の事だけを考えながら、ロードバイクを漕いでいた。



 そして、麻奈はロードバイクに乗っていたお陰で、予想よりも早くに聖のいる某スイミングスクールについた。


某スイミングスクールについた途端、入り口でロードバイクを止め、再び走りながら某スイミングスクールの中へと入って行った。


 そして、某スイミングスクールの中を走っていると、すぐに聖の姿を発見した。


聖は、スイミングスクールのプールが目の前に見える見学席に座りながら、隣に座っていた少し小太りな男性と目の前のプールを見ながら話をしていた。


その光景を見た麻奈は、聖と話をしていた小太りな男性をすぐに、聖の昔のコーチであると確認した。


 そして、麻奈はそんな小太りな昔のコーチと話をしている聖に向かって、見学席全体に響き渡るぐらいの大きな声を出した。


「きっ、聖ちゃ~ん‼ 行ったらダメだよ~!!」


麻奈は、ただ心の底から思っていた事を口に出して、全身全霊の魂を込めるように言った。


この瞬間、今まで掠れた声しか出せなかった麻奈の声が、まるで奇跡が起こったかの様に治った。


そんな麻奈の大声を聞いた聖と小太りのコーチは、声を聞いたすぐ後に麻奈の方を振り向いた。


「まっ、麻奈!! 何しに来たの!?」


「聖ちゃんが、昔のコーチの元に戻って、私達の前から離れてしまうのを、阻止しに来たんだよ‼」


振り向いた聖が驚きながら麻奈に来た理由を聞いてみると、麻奈は凄く悲しそうな表情で某スイミングスクールに来た理由を言った。


そんな必死になって訴える麻奈を見ながら、聖はクスッと笑い出した。


「聖ちゃん、どうしたのよ?」


「麻奈、心配しなくても大丈夫よ。私はどこにも行かないから」


聖がクスッと笑った為に、麻奈が心配をしながら理由を聞いてみると、聖は優しい口調でどこにも行かないと言った。


その言葉を聞いた麻奈は、一瞬、疑問に思った。


「それって、昔のコーチの元へは戻らないって事なの?」


「そうよ。私は昔のコーチの元へは戻らないわ」


「本当に、それで良かったの?」


昔のコーチの元へは戻らないと言った聖に対し、麻奈は確認をやる様に問いかけた。


「今わね。今の水泳部に入った事で、昔は分からなかった仲間と過ごすという楽しさが分かったからね。少しでも長く今の水泳部のメンバーと一緒に居ようと思って、昔のコーチの元へ戻るのを断ったわ」


そして聖は、昔のコーチの元へ戻るのを断った理由を言った。


それを聞いた瞬間、麻奈は凄く嬉しそうな表情になった。


「てことは、これからも一緒に居れるって事だね‼」


「そうよ。文化祭の後も、ずっと一緒よ」


「やったぁ‼」


そして、麻奈はその場で高くジャンプをした。


 そんな喜んでいる麻奈を見た、聖の昔のコーチは、速やかにその場から離れようとした。


「いい友達を持ったな……」


小太りのコーチは、聖の元を離れる時、聖に一言言いながら去って行った。



 その後、麻奈と聖は某スイミングスクールを離れ、蘭達が待っている学校へ戻る時、一緒に話をしながら歩いた。


「実は、元々断るつもりでいたのよ」


「そうなの?」


「でも、本当に断って、後で後悔しないかと、自分でも不安に思ったわ」


安奈から借りたロードバイクを押しながら歩く麻奈は、聖から予想外な事を聞かされた。


「それで、後悔はないの?」


「せっかくのチャンスだけに、ちょっぴり後悔はあるかもね。私は今までは、親を始め大人達に言われるがまま泳いで来たの。でも、麻奈達と出会った事により、今までは気がつかなかった面が見えて来たような気がするの。それが、仲間、友達と一緒に楽しむという事。こんな風に楽しむのも充分にありだと感じたの」


そして聖は、麻奈達と出会う事によって、今までは気がつく事が出来なかった面に気がついた事を言った。


そんな面が、聖を今回のコーチからの誘いを断らせたのだと、麻奈はロードバイクを押しながら薄々と気づいた。


「長い人生、ちょっぴり寄り道をしたっていいじゃない‼ 楽しまなきゃ損よ」


聖は両腕を伸ばしながら、軽々しい気持ちで言った。


その発言は、今までの聖からは想像のつかない発言であった。


 その後、聖はさっきから気になっていた事を、麻奈に聞いてみた。


「そう言えば麻奈…… なんで競泳水着のままなの?」


「あぁ、これね。急いで来ちゃったから」


聖の疑問に対し、麻奈はテヘッと少し舌を出しながら苦笑いをした。


「恥ずかしくはないの?」


「聖ちゃんの事を思うと、恥ずかしいとか気にしていられないよ」


「本当に? それはいい事を言ってくれるじゃない‼」


そう言いながら、聖は凄く嬉しそうな表情をやりながら、ロードバイクを押しながら歩いていた麻奈の肩に、軽くタックルをした。


「本当だよ、聖ちゃん‼ だって友達じゃないか」


そして麻奈も、聖の肩に軽くタックルをやり返した。


 その後も、麻奈と聖は、楽しそうに話をやりながら学校へと向かった。


「そう言えば、シンクロで着る衣装が届いたよ」


「そうなの」


「そうだよ。学校へ戻ったら、試着しようよ。みんなも待ってるから」


「そうね。早く帰りましょう。文化祭まであと少しね」


麻奈からシンクロで着る衣装が届いた事を知った聖は、まもなく文化祭が始まるという事を、改めて実感した。


その文化祭は同時に、麻奈と聖にとっては、高校生活で始めの文化祭である。

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