夢に向かうには……
文化祭のシンクロで、歌を披露する事が決まった数日後、この日の主な練習は歌を歌いながらのダンスの練習が中心であった。
そして今、この練習も終わり、ここ最近は日が暮れるのが早くなり、少し肌寒くなった夕方の下校時であり、麻奈は菜月と話をしながら一緒に帰っていた。
「きょうのれんしゅうも、きつかったね」
「まぁ、ここ最近は、水中でのシンクロの練習以外にも、プールサイドでのダンスの練習も追加されちゃったからね」
帰り道では、麻奈と菜月は部活動での練習について話をしていた。
また、麻奈の声の調子も、ボイストレーニングを始めた事により、少しずつ以前の様な声に戻りつつあった。
そんな中、麻奈はここ最近の聖の事について、菜月に聞いてみた。
「そういえばさ、きよらちゃんさいきんなにかかんがえごとをしていることがおおいね」
「そう言えば、私達がダンスの練習を始めてから、聖が時々何か考え事をしているかのようにボーとしている事があるわね」
麻奈が菜月に聞いて見た事は、ダンスの練習を始めて以降の聖の様子の事であった。
聖は、ダンスの練習が始まって以降、練習中でも考え事をしながら、ボーとしている事が多くなった事を、麻奈は心配していた。
「もしかしたら、聖が居ない間にプールサイドでのダンスの披露の追加が勝手に決まっちゃった事に不満があるのかもね?」
「さすがに、それはないとおもうよ」
「どうして、そう言えるのよ?」
「だって、きよらちゃんなら、ぜったいにらんさんにもんくをいうにきまっているよ」
「それもそうね」
「う~ん、きよらちゃんは、なにをかんがえているんだろう?」
麻奈は、聖が何について考えているのか凄く気になっていたが、菜月と話をしても、その答えは見つからなかった。
すると突然、後ろから麻奈と菜月の名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「さかのさ~ん、おおかみさ~ん」
突然、名前を呼ばれた麻奈と菜月は、同時に振り向いた。
振り向いて、後ろを確認した麻奈と菜月は、見覚えのある人であるのと同時に久々に会う人であった為に、2人とも笑顔になった。
「あっ、えみちゃんだ!!」
「ホント、恵美だ!! 久しぶりに会うわね」
「久しぶり、麻奈さんに菜月さん」
麻奈と菜月が笑顔になったのは、麻奈と菜月の友達であった、空宮恵美と、久々に再会をしたからである。
恵美は、あずき色のセーラー服の制服を着ており、茶髪のおさげ髪で、後ろ髪のおさげの部分を右肩に乗せて前に出している髪型をしている。
恵美は、麻奈と菜月とは小学校と中学の時の友達であったが、高校は別々である為、長い事会ってはいなかった。
その為、久々の再開に、両者共に笑顔になっていた。
そして、恵美と久々の再開をした麻奈と菜月は、今までの練習の疲れを忘れるかのように、恵美との久々の会話を楽しんだ。
「そういえば、えみちゃんはすいそうがくぶはがんばっているの?」
「そりゃそうですわ。私は吹奏楽がやりたい為に、あの高校に行ったのですから」
「そういや、恵美は昔から音楽が好きだったからね。でっ、恵美のトコの学校の部活はどうなの?」
「私のところの学校の吹奏楽部は凄く練習が厳しいですわ。何しろ、他県からも部活の為に来た実力者が、同じ部活には何人もいますからねぇ」
「それはたいへんだね」
「大変なんてものではないですわ。強豪校だけあって、顧問は凄く厳しいですし、私の得意楽器のフルートでさえ、何人もの部員がいるから、レギュラー争いすら物凄いわよ。その為、毎日の練習が凄く大変よ」
「私達のとこと、全然違うね……」
恵美が語る部活が、自分達の学校の部活とは全くイメージが違い正反対であった為、菜月は口を開けて唖然とした表情で驚いた。
その後、菜月は歩きながら少し考え事をしたあと、少し勇気を出して、恵美に質問をしてみた。
「そう言えばさ恵美、久々に会ってこんな事を聞くのは失礼かも知れないけど……」
「どうしたの? 菜月さん。なんでも行ってごらんなさい」
菜月は、ためらう様子で、恵美に話しかけた。
「恵美の学校の部活は、凄く厳しいって言っていたじゃない」
「確かに、凄く厳しいわ」
「そんな厳しくて、レギュラー争いも厳しいところの部活だったら、自分がやりたいと思う事が完全には出来ない時もあるんじゃない?」
「確かにあるわね。レギュラーになれなければ、コンクールには出られないし、ずっと目立てないわ」
「そんな部活に入っていて、本当に楽しいの?」
菜月が恵美に質問をやるのにためらった理由は、恵美に強豪校の吹奏楽部に入って楽しいのかという内容であった為である。
「いい事、菜月さん。部活は楽しい楽しくないではないのですわ。楽しいだけであるのなら、それはタダの遊びよ。部活は遊びではなく、学生にとっては将来を左右する場合もあるのよ。そんな部活に楽しいとか楽しくないとかって答えはないわ。ただ、真剣に取り組むのみよ」
「やっぱり、そうよね…… なんだか、私のところの水泳部とは凄く正反対だった為に、つい、そんな事を思ってしまった……」
恵美は部活に対して真剣に取り組んでいるという事をうかがえた菜月は、自分の所属している水泳部の世界とは全く異なり、競争社会である強豪校の部活があるという事を直で知り、溜息をついた。
「私は、将来もフルートが吹ける仕事に就きたいと思い、吹奏楽部の名門校できっちりと修行をする為に、麻奈さんや菜月さんとは違う高校を選んだのですわ」
「それって、フルートを吹くのが好きだからなの?」
「そうね。好きか嫌いかで聞かれると、好きと答えるわ。だからこそ、強豪校の辛い練習にも耐えていけるのよ」
その後、恵美はフルートを吹くのが好きだからこそ、強豪校の辛い部活にも耐えれるという事を言った。
そんな恵美の強豪校の吹奏楽部に対する答えを聞けた菜月は、どこかスッキリした様子になった。
「なるほどね~ 自分の好きな事を仕事にする為には、ただ単に楽しいだけではダメなのね」
「そうね。やっぱり、好きな事を仕事にするには努力は必要よ」
スキッリした様子で、腕を伸ばしていた菜月に対し、恵美はニコッとした表情で言った。
「でも、やっぱり私は時々後悔する事があるの」
「何を?」
「それはね、自分の夢を追う為に、友達であった麻奈さんと菜月さんとは違う高校に行ってしまったという事よ」
その後、恵美は自分の夢の為に麻奈と菜月とは違う高校に行ってしまった事を、少し後悔していると漏らす様に言った。
「やっぱり、恵美さんも思っていたんだ」
「わたしもだよ」
「確かに、菜月さんや麻子さんと同じ高校に行けたら、どれだけ楽しかったのかなと、辛い部活の練習中に、思う事がよくあるの」
それを聞いた菜月と麻奈も、恵美とは高校が別々になっている事を寂しく思っていた。
「そっ、そうなんだ……」
「うん、でも、夢の為に別々の道を歩むと決めたのは私だから、いつまでも後悔なんてしていたらダメだよね」
更にその後、恵美は少し悲しい表情になった。
「そうだよ、ゆえのためにこんなところでかなしんでいたらだめだよ。わたしは、えみさんのゆめをおうえんしているよ!!」
「わっ、私もよ!! だから、頑張って!!」
「麻奈さん…… 菜月さん……」
その後、麻奈と菜月は、強豪校で夢に向かって頑張っている恵美を応援すると、恵美はさっきまでの悲しい表情は消え、雨が晴れたように凄く嬉しそうに感動をした。
「私、頑張るね!!」
「うん!!」
「その調子だよ!!」
そして、感動をしながら恵美がその応援に答えると、麻奈と菜月も笑顔で恵美の応援をした。
その後は、麻奈と菜月と恵美の3人は、一時的ではあるものの、かつての中学時代の頃を思い出しながら歩いていた。
「こうして歩いていますと、久々に中学の頃を思い出しますわね」
「そうだね、あのころはいつもいっしょだったから」
「でも、今も一緒じゃない」
「そうね!! 少しの間だけど、たまには昔のように戻りましょ!!」
この日の帰り道、麻奈と菜月は中学時代の友達である恵美と、久々に昔のように3人一緒に楽しく話をしながら歩いた。




