ワタシガ、アイドルニ!?
シンクロの練習をプールの中で始めてから、1ヵ月が過ぎた。
この日は、安奈は練習には来ておらず、聖は凄く大事な用事がある為、この日の練習は、麻奈と菜月と蘭の3人で行われていた。
「はいっ、ワンツーワンツー」
蘭は、プールサイドに立ちながら、プールの中でシンクロの練習をしている麻奈と菜月の指導をしていた。
シンクロの練習を始めた時は、まだグダグダであった水面から垂直に伸ばす足技であったが、1ヵ月も練習をやるうちに、次第に上手くなり、今では一通りの流れは、ほぼマスターしている。
そして、一通りのシンクロを披露した後、麻奈と菜月はプールの中から出てきた。
「フゥ、ランサン、ドウダッタ?」
「うん、始めに比べたら、もうバッチリね」
「ホント!?」
「ホントよ。明日が文化祭でも大丈夫なくらいよ」
「サスガニ、ソレハイイスギダヨ」
プールから上がって来た麻奈は、蘭と楽しそうに会話をしていた。
「確かに、練習を初めてから、もう1ヵ月にもなるもんね」
「そうね。もう1ヵ月にもなるのね……」
そして、菜月の一言を聞いた蘭は、改めてシンクロの練習を初めてから1ヵ月が経過していたという事を、思い返していた。
「初めは、開脚の練習から始めたっけ?」
「ソウソウ。スゴクキツカッタヨ」
「その後は、プールに入っての練習ね」
「プールノレンシュウモ、ハジメハウマクイカナカッタヨ」
「その後、一通りの流れをプールでやった後に、少ない人数では迫力がないからと言って、安奈ちゃんを呼んで来たのよね」
「まさか、本当に人数の問題を解決出来るとは思っていませんでしたよ」
「それからというもの、安奈ちゃんを加えての練習だったけど、安奈ちゃんもみんなも、この1ヵ月の間、よく頑張ってくれたわね。安奈ちゃんはいないけど」
「ソウダネ」
そんな感じで、蘭と麻奈と菜月は、シンクロの練習を始めてからの1ヵ月の流れを思い出しながら、楽しく笑いながら話をしていた。
その時、蘭は麻奈の声を聞いて、ある異変を感じた。
「そう言えば、麻奈ちゃんの声って、まだ治らないの?」
蘭が気づいた異変と言うのは、麻奈の声であった。
ちょうど1ヵ月前に、身体を柔らかくする為に両足の脚を左右に広げる特訓をしていた時、あまりの痛さの為に物凄い悲鳴を上げた結果、麻奈の声は1ヵ月が経過した今でも、ガラガラ声であった。
「言われてみれば、麻奈の声って、まだ治っていないわよね」
麻奈の声の心配は、蘭だけでなく、菜月もしていた。
「マダ、ナオッテイナイデスネ」
「治ってないって、ちゃんと治療はしているの?」
1ヵ月経った今でも、麻奈の声が元に戻らない為、蘭は麻奈が本当に声の治療をしているのかが心配になった。
「ソウイエバ、ビョウインニイッテノチリョウハ、ヤッテイナイネ」
「どうしてやらないの?」
「ダッテ、ブカツガイソガシクテ、レンシュウガオワルコロニハ、ビョウイガシマッテシマウカラ」
そして、蘭が麻奈に病院に行っているのか心配をしながら聞いてみると、麻奈は病院には行っていないと言った。
「だから、治るのが遅いんじゃないかしら?」
「ソウカナ? デモ、タカガコエガカレテイルグライナンダシ、ビョウインハオオゲサダヨ」
「そういう風に、何事にも軽視をしていたらダメなのよ!! もっと問題を深刻に受け止めなさい!! 手遅れにならないうちにね」
「ヤッパリ、ソウデスカ!!」
「当たり前でしょ!! 何事も手遅れになってからじゃ遅いのよ」
そして、声が嗄れている事を軽視している麻奈に対し、蘭はもっと真剣に問題を受け止めるよう、注意深く言った。
「デモ、イチオウハ、イエデハ、コエガヨクナルリハビリハシテイルヨ」
「どんなリハビリよ?」
「タトエバ、ノドニヨイトイワレテイルノミモノヲノンデミタリトカ……」
その後、麻奈が声が良くなる方法として、家では喉に良いと言われている飲み物を飲んで、声を良くしようとしている事を言った。
しかし、それを聞いた蘭は、頭を抱えながら呆れる表情をした。
「あのね、麻奈ちゃん。喉に良いモノを飲んでいるだけでは、声なんて決して良くはならないのよ」
「エェ、ソウナノ?」
「そうよ」
呆れた表情で言う蘭を見た麻奈は、目をキョトンと丸くさせながら驚いた。
「いい、麻奈ちゃん。声を治すには、喉を良くする事は大事だけど、それ以上に大事な事があるのよ」
「ソレイジョウニダイジナコトッテ、ナニ?」
「いい事、麻奈ちゃん。声を治すには、ボイストレーニングが必要なのよ!!」
「ソッ、ソウナノ!!」
その後、蘭は声を治すには、ボイストレーニングが必要である事を言うと、麻奈は凄く驚いた。
「そうよ、ボイストレーニングをして、その声を治しなさい!!」
更に、蘭はボイストレーニングをやる様に、麻奈に強く言った。
しかし、いきなり蘭から声を治す為にボイストレーニングをやれと言われても、麻奈はどの様にボイストレーニングをやればいいのか分からず、ピンとは来なかった。
「ソウイワレマシテモ…… ドンナフウニボイストレーニングヲシタライイノ?」
「どんな風にって、ネットで調べると、色々と書いているわ。今、一言で言えないくらいにね」
「ソッ、ソンナニナンデスカ!?」
「そうよ」
そんな麻奈に対し、蘭はネットで調べてボイストレーニングをやる様に言った。
(もしかして、蘭さんはボイストレーニングのやり方を知らなかったりして……)
その様子を端で見ていた菜月は、蘭がボイストレーニングのやり方を知らないのではと疑った。
そんな菜月の事は気にする事無く、蘭は麻奈と話を続けていた。
「せっかくだし、文化祭当日までには、ボイストレーニングの成果を出しなさい」
「ドッ、ドンナフウニデスカ?」
「そうね…… 文化祭で行うシンクロの時に、麻奈ちゃんはプールサイドで歌を披露しなさい!!」
「エェ!! ウタヲデスカ!?」
「そうよ。ただ、水中でシンクロをやるだけでは、お客さん達も満足はしそうにないし」
蘭の突然の思いつきを聞いた麻奈は、凄く驚いた。
その、蘭の思いつきと言うのが、ボイストレーニングの成果を、文化祭で行うシンクロの時に披露をしろと言うものであった。
「ドッ、ドンナフウニウタエバイイノ?」
「どんな風にって…… そうねぇ、とりあえず、アイドルみたいに歌って踊ればいいんじゃないかしら?」
その後、麻奈はどんな風に歌を披露したらいいのか蘭に聞いてみると、蘭はアイドル歌手の様に歌えと言った。
「ワッ、ワタシガ、アイドルニ!?」
「そうよ。ちょうど、プールサイドで何をやろうか考えていたところだったの」
「ソッ、ソコハ、ボウダンシスイエイブミタイニ、オドッタリシタライイトオモウヨ……」
「私も、初めはそう考えたのだけど。やっぱり私達は女の子じゃない。女子は女子らしく、女の子らしい事をやりましょ!!」
文化祭でアイドルの様に歌ったり踊ったりする事を勝手に蘭によって決められてしまった麻奈は、身体を震えさせながら凄く驚いていた。
「そんなに怖がらなくても。当日は、私達はバックダンサーになって、一緒に踊ってあげるから」
「えっ!? 私もやるんですか?」
「当たり前よ!! こういうのは、みんなでやらないとダメなんだから!!」
その後、蘭がみんなでプールサイドでのダンスをやる事を伝えると、それを聞いた菜月は凄く驚いた表情をしていると、蘭から注意を受けた。
そんな感じで、聖と安奈が不在の時に、新しく文化祭のシンクロで披露をする事が、1つ追加された。
「そうと決まったら、早速練習ね。ダンスは私達で考えるから、麻奈ちゃんは、ボイストレーニングを予ての歌の練習ね」
「ワッ、ワカッタ…… ガンバッテミルヨ……」
蘭は、新しく始める事に気合を入れていたが、一方の麻奈は、1人で歌う歌が上手くいくのか不安な気持ちでしかなかった。
「こんな事で、本当に麻奈の声は治るのかしら?」
そんな麻奈と蘭の様子を、菜月は不安に思いながら見ていた。