もう1人の先輩
この日もまた、いつのの様に水泳部のプールでは、文化祭で披露をするシンクロの練習が行われようとしていた。
「お~いっ、今日も来てやったぞ!!」
プールサイドに入って来たのは、他校の生徒であり、蘭の幼馴染の安奈である。
安奈は、蘭の頼みで文化祭のシンクロのメンバーに入っているが、別の学校の生徒である為、毎日はこの学校のプールでは練習が出来ず、週に数回しか、この学校のプールには来れていない状態である。
そんな安奈は、今日は数日ぶりに、みんなと一緒に練習をする日である為に、この学校のプールにやって来たのである。
また、みんなと一緒に練習をしない日は、1人でシンクロの流れを復習しながらイメージトレーニングをしている。
そうして、プールサイドに入って来た安奈を、既にプールサイドに来ていた麻奈と菜月と聖は、もう1人の先輩となった安奈に挨拶をした。
「アッ、アンナサンガキタ!! コンニチワ」
「こんにちわ。安奈さん!!」
「こんにちわ」
その様子を、安奈は歩きながら見ていた。
「よっ!!」
そして安奈も、麻奈と菜月と聖に軽く挨拶をした。
「前から疑問に思っていたんだけど、お前等って、いつもそんな風に呼ぶのか?」
「エッ、ナニヲデスカ?」
来て早々、安奈は麻奈達の方を見ながら呼び方に関して疑問を投げかけて来た為、それを聞いた麻奈はなぜ疑問に思われたのか、不思議そうな顔をした。
「何って、普通は『さん』ではなく『先輩』と付けて呼ぶだろ?」
「ソウナンデスカ?」
「そうなんですかって、普通は先輩に『さん』付けで呼ぶ奴なんていないだろ?」
安奈が疑問に思っていたのは、麻奈達が先輩である安奈に対し、『先輩』と呼ばずに『さん』と付けて呼んでいた事だった。
その事を疑問に思っていた安奈に対し、麻奈はどうしてそれを気にするのか不思議そうに思っていると、安奈は少し怒った様子になった。
「デッ、デモ…… 『センパイ』トヨバナクテイイトイッタノハ、ランサンデシテ」
「蘭のヤツがそう言ったのか?」
「ハッ、ハイ」
安奈が『先輩』と付けて呼ばれなかったことに対し、少し怒った様子になった為、麻奈は『先輩』と付けて呼んでいない理由を言った。
「蘭なら、そう言ってもおかしくはないな……」
その後、麻奈達が『先輩』と付けて呼ばなかった理由に関し、安奈は蘭の事だからと考えながら、少し頷いていた。
すると、その時、麻奈の隣にいた菜月と聖も、何かに納得をする様に頷いた。
「だから、私達も蘭さんと呼んでいたんですね」
「なるほど」
「って、お前等は、なぜ蘭の事を『さん』と呼んでいたのか、その理由すら知らなかったのかよ!?」
菜月と聖が、蘭の事を『さん』と呼んでいた理由を、今まで自分でも知らなかった事に対し、安奈はツッコミを入れるように驚いた。
「えっ、だって、麻奈が蘭さんと呼んでいたから、私も一緒になっ蘭さんと呼んでいたのよ」
「私もそんな感じ」
そんな安奈を見ながら、菜月と聖は、蘭の事を蘭さんと呼んでいた理由を言った。
「全く、蘭の奴は何を考えてるんだか……」
そして安奈は、後輩達に『先輩』と付けて呼ばせなかった蘭の事を、少し不思議に思った。
安奈がそう考えていた時、麻奈がモジモジとした様子で安奈に対し話しかけに来た。
「ヤッ、ヤッパリ…… 『センパイ』トツケテヨンダホウガイイカシラ?」
「ん? 私の事か?」
「ハッ、ハイ」
「私も、別に良いよ。どうせ、文化祭までしかここにはいないんだから。だから、蘭と同様に『さん』と付けて呼んでもいいぜ」
「アッ、アリガトウゴザイマス!!」
麻奈は安奈に対しても、蘭と同様に『さん』と呼んでいた為に、安奈が少し怒った事を気にかけ、安奈に対しては『先輩』と呼んだ方が良いか聞いて来た。
その疑問に対し、安奈も蘭と同様に『さん』で呼んでもいい事を言うと、それを聞いた麻奈は、安心をした様子になった。
「じゃあ、私も安奈さんと呼んじゃお」
「じゃあ、私も」
それを見ていた菜月と聖も、安奈の事を『さん』付で呼ぶ事を勝手に決めつけていた。
「勝手にしろよ」
それに関しては、安奈は受け流す感じの反応であった。
その後、安奈は麻奈と菜月と聖を見た後に蘭がプールサイドに来ていない事に気付き、どこに行ったのかを聞いてみた。
「そういや、蘭はどうした?」
「蘭さんなら、先生に呼ばれてて、今は来ていないですよ」
「そうか」
蘭の不在に関しては、菜月が答え、それを聞いた安奈はすぐに納得をした。
「まぁ、蘭の事だから、悪い事をして先生にでも怒られてるんじゃねーの?」
「いくら蘭さんでも、先生に呼び出される様な悪い事はしないですよ!!」
「そうか?」
「でも…… 蘭さんなら、先生に呼び出される様な事ぐらい、やっていてもおかしくないわね……」
「やっぱり、聖はそう思うよな」
「蘭さんの友達でも、そう思ってしまうのね」
安奈と聖が、蘭が悪さをして先生に怒られているのではと疑っていると、その様子を見ていた菜月は蘭の事を少し哀れに思った。
その話をしていた時、安奈はとある事に気が付いた。
「そう言えば、私がこの学校のプールでシンクロの練習をやり始めてから、一度もこの学校の水泳部の顧問の姿を見ていないな」
安奈が気づいた事は、この学校の水泳部の顧問の姿を、今まで1度も見た事がないという事である。
「この学校の水泳部の顧問は、何やってんだ?」
「そう言われましても、私も見た事がないです」
「ないって、今までに一度もか?」
「はっ、はい……」
水泳部の顧問の事を聞いてみるも、水泳部員である菜月は、肝心の顧問を1度も見た事がないと言った。
「ソウイエバ、ワタシモイチドモアッタコトガナイデス」
「私もね」
「お前等もか!?」
更に、麻奈と聖も水泳部の顧問とは会った事がない事を言うと、それを聞いた安奈は凄く驚いた。
「よくそんなんで、部活が成り立ってるな……」
安奈は、顧問が練習に来ない事に関し、1人で呟いた。
その呟きに反応をするかのように、後ろから声が聞こえてきた。
「でも、顧問の先生が練習を見に来ない事で、私達で好きなように部活が出来て良いと思わない?」
突然の声に反応をした安奈は、後ろを振り向いた。
すると、そこには黄色いハイレグ大部の競泳水着を着ている蘭がいた。
「誰かと思ったら、蘭じゃねーか!!」
「アッ、ランサン、コンニチワ」
「蘭さん、こんにちわ」
「こんにちわ」
「みんな、来るのが遅くなっちゃったわ」
蘭がプールサイドに入って来る姿を見た麻奈と菜月と聖は、蘭を見るなり挨拶をした。
「あらっ、安奈ちゃん。もう来ていたの」
「来てたら悪いのかよ? そういうお前こそ、先生に怒られてたんだろ?」
「私が? 別に先生に怒られてたわけじゃないわよ」
「じゃあ、何してたんだよ!?」
「何って、私は水泳部の顧問と大事な話をしていただけよ」
その後、蘭を見た安奈は先生に呼ばれていた理由として、先生に怒られていた事を言うと、それを聞いた蘭はそれを否定し、水泳部の顧問の先生と会っていたという事を言った。
「顧問って、水泳部のか!?」
「それ以外に何があるの?」
一度も見た事のない水泳部の顧問と会っていたという事を蘭が言うと、それを聞いた安奈が凄く驚いた様子となった。
「そのっ、顧問って、どんな奴だよ!?」
「別に、誰だっていいじゃない。さっ、今日も練習を始めるわよ!!」
「いい事ないだろ!! 教えろ!!」
安奈が、水泳部の顧問の事を凄く知りたがっている様子を見せるも、蘭は顧問に関しては秘密にし、そのまま本日の練習を始めようとした。