新しい仲間
前回の時に、今まで練習をしてきた一通りの流れのシンクロを撮影した動画のチェックをした日から数日後、この日は水泳部の部長である蘭から重大発表があると聞かされ、部員である麻奈達は部室代わりに使っているプール更衣室に集まっていた。
「今日は、重大発表があるとメールで書いていたけど、何なんですか?」
更衣室に置かれている赤い台の上に座りながら、早速菜月は、メールに書かれていた重大発表の内容を気にした様子でいた。
「まぁまぁ、菜月ちゃん。そう焦らずに」
早速真相を聞きに来る菜月に対し、蘭は気長に待つよう、声をかけた。
「タシカニ、メールノナイヨウガキニナルネ」
「どうせ、いつもの様に、本当にくだらない事よ」
一方、麻奈も菜月と同様にメールの内容を気にしている様だったが、聖の方は特に気にはしていなかった。
「まぁ、そう言わずに……」
特にメールの内容を気にする事のなかった聖に対し、蘭は麻奈や菜月の様に、もう少し気にして欲しかったと思う様な感じで言った。
そして、蘭は気を改め、右手を強く握りしめ、その強く握りしめた右手にコンッと咳をした。
「それじゃあ、今からメールの内容を発表するわね……」
そう言った蘭は、少々、勿体ぶる感じで、メールの重大発表の真相を言い出そうとした。
「早く言ってよ」
「ソウダヨ」
「どうせ大した事ないのだから、早く言いなさいよ」
蘭が勿体ぶる事に対し、菜月と麻奈と聖は、早く真相を言って欲しいという感じであった。
その為、蘭も勿体ぶるのは止め、メールの重大発表の真相を話す事にした。
「それじゃあ、言うわね…… 今回のメールの真相を」
その後も蘭は、少し勿体ぶる感じはあったが、本題を話し始めた。
「前回の動画を見た時に、いくら練習をしても、人数の問題は解決できないとか言っていたわよね」
「そう言えば、そんな事言ってましたよね」
「その、人数の問題なんだけど、解決しちゃったのよ!!」
「えぇ!?」
蘭が語り出したメールの重大発表の本題は、先日のシンクロの練習の一連の流れの動画をチェックした時に人数が少なかった為、迫力があるシンクロが出来ないという問題に対する解決であった。
すぐには解決できない問題だけに、あまりにも早い解決であった為、それを聞いた菜月は凄く驚いた。
「解決したって、人数を?」
「そうよ。それ以外に何があるの?」
あまりにも簡単に解決をしてしまった為に、菜月は疑った様子でいたが、蘭は凄く自信がある様子であった。
「それに今日、新しく入れるメンバーを、もう呼んで来てるのよ」
「ホントにですか!!」
「イッタイ、ダレガキテクレタノダロウ?」
そして、蘭が人数問題解決の為に、既に新しく呼んだ人が来ているという事を伝えると、それを聞いた菜月と麻奈は、誰が来てくれたのか凄く気になった様子でいた。
そして蘭は、その新しく来てくれた人を呼ぶ為、更衣室の入り口の方に目を向けた。
「もう、入って来ても良いわよ!!」
蘭の一言と共に、更衣室に1人の少女が入って来た。
「えぇぇ!!」
その少女を見た瞬間、麻奈と菜月だけでなく、聖までもが斜め上の予想外な結果に凄く驚いた。
この時、麻奈達が驚くのは普通の反応であった。
なぜなら、蘭に呼ばれて更衣室に入って来たのは、麻奈達と同じ学校の人ではなかったからだ。
その証拠に、その少女が着ている制服は、セーラー服ではなく、リボン付のカッターシャツの制服であった。
その少女が、麻奈達の目の前に来た瞬間、蘭は早速、その少女の紹介を始めた。
「紹介するわね、私が今回の助っ人に呼んだ安奈ちゃんよ!!」
蘭の紹介した少女は、前回の大会のリレーで戦った相手であり、蘭の幼馴染でもある安奈であった。
「あれっ? なんでここに来たんですか?」
「そうよ。あなたはこの学校の生徒じゃないでしょ!!」
「ドウシテキタノ?」
しかし、蘭が連れて来た安奈を見て驚いている菜月と聖と麻奈は、すぐには受け入れる様子はなかった。
そんな3人の様子を見た安奈が、早速、麻奈と菜月と聖に向かって、話し始めた。
「全く…… 歓迎されていないんだな」
更衣室に入って来るなり、歓迎をされていない様子を見た安奈は、面倒くさそうな様子でいた。
「ほらっ、せっかくのスペシャルゲストが来てくれたのだから、もっと歓迎しなさいよ!!」
安奈を見ても嬉しそうには思わない、麻奈と菜月と聖の様子を見た蘭は、もっと歓迎するように声をかけた。
「なんというか、複雑な気持ちなのよね」
「ウン、ナンカワカル」
「他校の、それも前回の大会で戦った相手が、いきなり仲間になられてもね。すぐには喜べないわよ」
麻奈と菜月と聖は、それぞれの思いを言った。
それを聞いた蘭は、早速言い返した。
「全く、素直じゃないわよ。こういうのは素直に喜ぶべきよ。以前の敵が味方になった展開よ」
「でっ、でも……」
蘭が素直に受け止めるように言った後、菜月はどこか考え込む様子となった。
そんな様子の菜月を見た後、安奈が口を開き、喋り始めた。
「お前等と同様、私だってお前達を仲間だとは思っていないよ」
「だったら、どうして来たのよ!?」
「それは、蘭に強引に連れて来られたからだよ」
喋り出した安奈もまた、麻奈達と同様に仲間だとは思っていないという考えであった。
その為、それを聞いた聖がなぜシンクロのメンバーに加わったのか聞いてみると、安奈は蘭に強引に連れて来られたと、面倒くさそうに言った。
「なるほどね。蘭さんなら、強引に連れて来そうね」
蘭が安奈を強引に連れて来たという事を知った菜月は、頷いた様子でいた。
「全く、私をどういう風に観ているのかしら?」
「お前が、普段からそんなんだから、後輩にもそういう目で見られんだろ?」
菜月の反応に少し怒った様子となった蘭を見て、安奈はまたしても面倒くさそうな表情をしながら言い返した。
その後、なぜ他校の安奈を連れて来たのかという質問が始まった。
「どうして、他校の安奈さんを連れて来たの?」
「そっ、それは、シンクロの為だけに水泳部に入ってくれそうな人はこの学校にはいなかったし、かと言って今更新入部員を探すのも大変だったの」
聖から安奈を連れて来た理由を言われた蘭は、さっそくその理由を始めた。
「理由は、それだけ?」
「それだけではないわ。1から泳ぎを覚えるよりも、既に泳ぎを知っている人がいた方が良いでしょ。それで、今回は、私の幼馴染である安奈ちゃんを呼んだの」
「そうなの、そんな理由があったのね」
蘭が語った理由を聞いた後、聖は納得をした様に頷いた。
その後、蘭への質問は消え、一旦静まり返った。
「え~ てなわけで、今日から私達の仲間となる安奈ちゃんだけど、みんな、もう1人の先輩が出来たと思って、仲良くしてね」
そして蘭は、後輩である麻奈と菜月と聖に、改めて安奈を紹介した。
しかし、安奈の表情は、またしても面倒くさそうな表情をしていた。
「もう1人の先輩…… 本当に先輩なのかな?」
「センパイガフタリ…… ナンダカニンズウガフエテイイカモ?」
「正しくは、先輩と言うよりも、後輩じゃないかしら?」
そんな、面倒くさそうな表情をしている安奈に対し、菜月と麻奈と聖の反応は、先程とは少し異なり、全く受け入れないという感じではなかった。
寧ろ、少なからずは受け入れている感じであった。
しかし、一方の安奈は、未だにその様な様子は見られず、面倒くさそうな表情をしていた。
「おいっ、お前等、色々と言っているけど、私は蘭の様には甘くないから、先輩となる以上は覚悟しておけよ」
安奈は、目の前にいる麻奈と菜月と聖を、睨み付けながら言った。
「あらっ、始めはダルそうにしていたけど、結構やる気が出たじゃない」
「うっ、うるさいな……」
蘭から、ニコッとした表情で言われた後、安奈は再び面倒くさそうな表情で、蘭をみた。
こうして、無理難題だと思われた人数確保の問題は、1人ではあったものの、あっさりと解決をし、麻奈達の水泳部には、文化祭までの間、安奈が加わる事にした。