本格的に練習
夏休みも終わり、新学期が始まったある日の放課後。
この日の放課後、室内型のプールに集まった麻奈と菜月と聖は、水泳部の部長である蘭から、ある事を告げられた。
「今日からは、プールに入っての、シンクロの練習を始めるわよ!!」
蘭は、競泳水着を着た状態で仁王立ちをやりながら、麻奈達にプールに入ってのシンクロの練習をやる事を告げた。
先日までは、身体を柔らかくする為に柔軟の練習ばかりだったが、この日からは本格的にシンクロの練習が始まる様である。
その為、それを聞いた麻奈と菜月と聖は、やっと先日まで続いた開脚の練習が終わり、ホッと一安心する反面、これから始まるシンクロの練習に緊張もしていた。
「やっと、本格的にシンクロの練習が始まるのね」
「そうね」
「ジングロノレンジュウモ、ガンバラナイト」
3人はそろって、これから始まるシンクロの練習の意気込みを語った。
しかし麻奈は、先日の開脚の練習の際に、あまりの痛さのあまり大声で泣いた為、未だに声が嗄れた状態であった。
そんな嗄れた声の麻奈の事を、蘭は少し気にした。
「そう言えば、麻奈ちゃんの声は未だに治らないのね」
「ゾウザヨ」
蘭に声の事を質問されるも、声が完全に嗄れてしまった麻奈は、発声すら上手く出来ない状態であった。
「まぁ、あの時は凄い大声を出していたから仕方がないわね。でも、そのおかげで、麻奈ちゃんも開脚が出来るようになったじゃん!!」
「マア、ゾウダケド…… ガワリニ、ゴエガオガジグナヂヤタヨ」
「まぁ…… 声に関してはすぐに直るわよ。気にしなくても大丈夫よ!!」
「ゾ? ゾウガナ?」
声が嗄れた事を心配する麻奈に対し、蘭はすぐに治ると軽い気持ちで行った。
その後、蘭はプールの中に入り、シンクロの基本を麻奈達に見せ始めた。
「いいっ? まずは、私が動画で覚えたシンクロの基本をやってみるから、きちんと覚えるのよ!!」
「あっ、分かりました!!」
「ワガダ」
そして、菜月と麻奈が返事をした後、蘭は1人でプールの中に潜った。
プールに潜った蘭は、しばらく潜った後、右足だけを水中から出し、ピンッと伸ばした。
その次に、蘭は右足から左足に素早く入れ替え、今度は左足を水中から出し、ピンッと伸ばした。
この様な感じで、左右の足を水中から出しては戻しての行動を、しばらく続けていた。
その後、いったん両足を水中の中に引っ込めた後、数秒後に水中から両足を出し、更にハイレグカットの陰部が見える辺りまで水面に出ると、今度は両足を左右に広げ始めた。
そして、ある程度角度が広がったところで、蘭は両足を水面に出したまま、回転を始めた。
その回転は1回だけではなく、2~3回だけでもなく、4~5回以上は続く回転を、蘭は水中に潜ったままの状態で行っていた。
そして、一通りの足の芸を終えた蘭は、水面に顔を出した。
「プッハァ、だいたい分かったかしら?」
「とりあえず、水中に潜って、足を出せばいいのね」
「そう簡単に言ってるけど、これがまた難しいのよ」
先程の蘭の披露した足の芸を見ていた菜月は、簡単そうに出来るような感じで言い返すと、プールに浸かっている蘭から簡単には出来ないような事を言われた。
「じゃあ、早速、さっき私がやったヤツをやってもらうから、プールの中に入っておいで」
「あっ、はい」
「分かったわ」
「ヴン」
そして、蘭にプールの中に入る様に言われた後、菜月と聖と麻奈は蘭の指示通り、プールの中へと入った。
プールの中に入った麻奈と菜月と聖は、各自、先程蘭が披露したシンクロの足芸を似様似真似に練習を始めた。
しかし、いざシンクロの足芸の練習をやろうとして水中に潜った途端、早速、難関の壁にぶち当たった。
「ぷはっ!! 水中で逆立ちをやるぐらい簡単だと思ったけど、これって結構難しい!!」
「確かに。水中に潜った状態で、逆立ちをやりながら足を延ばすのは、思ったよりも難しいわね」
「バナ二、ミジュガバイル……」
先程、蘭が簡単そうにやっていたシンクロの足芸も、実際にやってみると、物凄く難しかった。
「ほらっ、簡単には出来ないでしょ!!」
「確かに、蘭さんの言う通り。これって、結構難しいですね」
「何もかも、簡単だと思い込んでいてはダメって事よ。いい? 今から、私が動画で見て短期間で出来るようになったコツを特別に伝授するわ」
そんな3人の様子を見た蘭は、動画を観て短期間で覚えたという、自信を持って言えるやり方を、早速始めた。
「まずは、水中に潜った状態で、綺麗に両足を伸ばせるようになる練習からやってみましょ!!」
そう言って蘭は、早速、水中に潜った。
水中に潜った蘭は、水中から足の指先から始まり、ゆっくりと足を垂直に伸ばし始めた。
まるで地上で寝転がるかの様に綺麗に垂直に伸ばされた両足は、太股まで水面に出した後、ハイレグカットの腰辺りまで水面に出した。
水面に下半身を出した後も、蘭の両足はぶれる事もなく、綺麗に垂直に伸ばされた状態であった。
「すっ、凄い……」
「確かに……」
「ドウヤレバ、ゴンナゴトガデギルンダロ?」
そんな、綺麗に垂直で下半身を伸ばしている蘭を見ていた菜月と聖と麻奈は、驚きながら関心をしていた。
そして、約1分ぐらい下半身を水面から垂直に伸ばした後、蘭は一旦下半身を水中に入れた後、顔を水面に出した。
「ぷっはぁ~ どっ、どうだった? 凄かったでしょ!?」
「すっ、凄いですよ!! あんなの簡単には出来ないですよ」
「シンクロって、競泳とは違う難しさがあるのね」
水面に顔を出した蘭は、少し息を荒くしながら、先程の下半身を垂直に伸ばした状態の感想を聞いていた。
その感想に、菜月と聖が蘭を褒める様に答えた。
「ゾレニジデモ、ズイチュウ二ナガイゴドモグデルゲド、グルジグハナイノ?」
そんな中、麻奈は発声がやりづらい声が嗄れた状態で、蘭に水中の中では苦しくないのかを聞いてみた。
「何、麻奈ちゃん? 水中では苦しくないって事かしら?」
「ヴン」
「そう。それなら、凄く苦しいわよ。水面では美しい姿を見せている反面、水中では少しでも身体を浮かばす為に、必死にもがいているのよ」
麻奈の質問に対し、疲れた状態であった蘭は少し聞き取れなかった個所はあったものの、大体は麻奈の言っている事が分かり、麻奈の疑問に答えた。
「やっぱり、凄く疲れるのね」
「当たり前でしょ!! シンクロと言うのは、水面を優雅に泳ぎ、水中では足をバタバタと必死になって動かす白鳥の様なのよ!!」
「そんなものなの?」
「そうよ!! 優雅な裏には底知れぬ苦労があるのよ!!」
蘭から、凄く疲れるという事を聞かされた後、菜月が疲れた様な表情をしながら喋ると、それを聞いた蘭は怒った口調で言い返した。
同時に蘭は、菜月に何事も楽しては出来ないという事を簡単に伝えた。
そんな蘭の簡単な説教を聞いた後、麻奈と菜月と聖の3人は、先程の蘭が水面から両足を垂直に伸ばして綺麗に見せていた足芸の練習からやる事にした。
「ジングロゴウエンマゼハ、マダマダザギザゲゾ…… ザイデイデモ、ザギノランザンガヤデイダヤヅハ、デギルヨウニジナイドネ」
「そうね。とりあえず、まずは足を綺麗に見せる練習からね」
「今度のは、見た目とは異なり、結構キツイ練習ね」
こうして、蘭がプールに浸かって見守る中、麻奈と菜月と聖の3人は、水中に潜って水中から両足を垂直に伸ばし、綺麗に見せる事が出来るようになる練習を始めた。
そして、シンクロの練習は、まだまだ始まったばかりであった。