ゴール…… 大会終了!!
聖がスタート台を強く両手でタッチをした瞬間、今回の大会のレースは終わりを迎えた。
その瞬間、プールを取り囲む様に輪になっている観客席からは、盛大な声が大きく鳴り響いていた。
そして、泳ぎ終えた聖は、プールに浸かった状態からゴーグルとスイムキャップを取り外し、周囲を確認してみた。
すると、その周りでは観客達が盛大に観戦に盛り上がっているのが確認出来た。
それと同時に、順位のモニターを確認してみると、見事に1位でゴールをしていたのが確認出来た。
この観客席での盛り上がりは、ハイレグ水着を着用していた人達が、スパッツ水着を着用している人達を差しおいて、大会のレースにおいて1位を取ったというものだと、聖は予想をしてみた。
同時にこの時、聖は始めて、今回の大会において自分達の泳ぎで観客達がここまで盛大に盛り上がっている光景を初めて目の当たりにした。
(日本の高校の大会でも、こっ、こんなに盛り上がるものなのね……)
女子高生たちの泳ぎを見て盛大に盛り上がっている観客達の光景を見た聖は、プールの中で驚いた様子でいた。
すると、隣のレーンで泳いでいた安奈が、呆然とプールに浸かりながら立ちすくんでいた聖に話しかけた。
「おいっ、ハイレグにした黒いヤツ、お前、結構速かったな」
「えっ!?」
安奈に突然話しかけられた聖は、驚いた様子で、隣のレーンにいる安奈の方を振り向いた。
「やっぱり、蘭の言った通り、お前スッゲー速いじゃん!!」
「そうかしら?」
「そうだって、そうでなければ、この私を抜かす事なんて出来ないって」
この時の安奈は、負けて悔しいという表情ではなく、寧ろ対戦相手であった聖が見事にやりきったという実力と成果を称えているという感じの清々しい表情であった。
「そうなの。私はいつも通り泳いだだけにしか過ぎなかったわ」
「絶対に違うって!! だって、午前の時と全然違うじゃないか。昼の時に蘭に何を言われて、そんなに変わったんだよ?」
「そうかしら? それは、あなたの気のせいじゃないかしら」
聖は、安奈にそう言った後、プールの水面からプールサイドへと上がった。
「全く…… 素直じゃない奴だな」
そんな安奈は、聖が去って行く姿を、プールの中に浸かりながら見ていた。
そして、聖が皆のところに戻って来ると、戻って来た聖の姿を見た麻奈が、一目散に聖のところに駆けつけ、飛びつくように抱きついた。
「おっかっえりぃ!! 聖ちゃん!!」
「どうしたの阪野さん? いきなり抱きつきに来て」
戻って来るなり、突然抱きつかれた聖は、少し驚いた様子でその理由を聞いてみた。
「だって、私達のチームがリレーで1位なんだよ!! みんなで1位を取れたんだよ!!」
聖に抱きついたままの麻奈は、顔を赤くしながら凄く嬉しそうな表情で、顔を上げて、少し驚いている聖の顔を見ながら言った。
「そう、1位なの……」
「なにその反応。もっと嬉しがったらどうよ?」
「そうよ。1位なのよ、1位」
喜んでいる麻奈とは対照的に、全く喜ぼうとしない聖を見た蘭と菜月は、聖にもっと喜ぶ様に声をかけた。
「確かに、ここは喜ぶ所よね。でっ、でも……」
「ん? どうしたのかしら?」
「私は、今まで、勝つのが当たり前だったから…… そっ、その、勝負に勝って喜ぶというのは…… あんまり習慣がなくて……」
しかし、今までに勝負で勝っても喜んだ事のなかった聖は、喜ぶという事が簡単には出来ずに戸惑った様子となった。
「全く、聖ちゃんったら、難しく考えなくていいのよ。気を解放させればいいのよ」
「そうだよ。気を解放させるのだよ」
気を解放させろと言うのは蘭だけでなく、聖に抱きついたままの麻奈も蘭と同じ様に言って来た。
「気を?」
「うん!!」
「それじゃあ、やってみるわね……」
そして、蘭と麻奈に言われるがまま、聖は身体全身の力を抜き、リラックスをし始めた。
気を解放させ、リラックスをしようとしている聖を見た麻奈は、そっと聖から離れた。
しかし、聖はなかなか喜ぼうとはしなかった。
「どう? 聖ちゃん、喜べそう?」
「う~ん…… そうすぐには喜べそうにはないわね」
「それは、1位が嬉しくない事かしら?」
「いや、そんな事はないのだけれども、どうもすぐには実行出来ないと言うか」
「なるほどね。それじゃあ、しばらく時間を空けてみればいいわよ」
「どうして?」
「そうすれば、気持も本当にリラックスをして、本当に喜べるわ」
「本当に?」
「そんなものよ。とりあえず、表彰式が始まるまで、ゆっくりしておきましょ」
「そうね」
そして、リラックスをしてもすぐには喜ぶ事の出来なかった聖に対し、蘭はしばらく時間を空けてから、本当にリラックスをすれば良いと言って、表彰式が始まるまでの時間をゆっくりと過ごす事にした。
そして――
時間が経ち、今大会の表彰式が行われる時が来た。
今大会の表彰式では、個人種目で出場をしていた菜月と蘭と聖が、それぞれレースの勝者として表彰をされた。
その後、レースの表彰式の時間が訪れ、今大会のレースで1位を所得した麻奈達は、メンバー4人で表彰台の上に立った。
「ついに、この時が来たね……」
「そうね。なんだか、この水着のせいで、さっきから凄く恥ずかしい気分」
表彰台の上に立った麻奈と聖は、自分達の着ている露出度の高いハイレグタイプの競泳水着が、数多くいる観客達に観られていると言う視線を感じ、恥かしそうにモジモジとしていた。
「恥かしそうにしないで、胸を張りなさい!! 1位なんだから」
「でも、やっぱり、ハイレグは恥かしいですよ」
「そうですよ!! 下半身が裸になったかのように露出がしているんですもの」
そんな中、蘭だけはこの露出度の高いハイレグタイプの競泳水着を恥かしいとは思わず、堂々とした状態で表彰台の上に立っていた。
そんな中、麻奈と菜月がハイレグタイプの競泳水着に対して恥かしがっていた中、蘭と同様に聖も恥かしがる様子は見せなかった。
「そう言えば、聖ちゃんはハイレグだけど、恥かしくはないの?」
「別に恥かしい事はないわ」
「本当に?」
「だって、この水着で今回のレースで勝てたのだから」
その為、麻奈が聖に恥かしくはないのか聞いてみると、それを聞いた聖は真顔で恥かしくはないと答えた。
「そうね、それこそ水泳部員よ!!」
「ちょっと、蘭さん。こんなところで何をするのよ!!」
「場所なんて気にしなくていいわ」
「いやっ、気になりますから!!」
すると、それを聞いた蘭が表彰台の上にも関わらず、聖に飛びつくように抱きついた。
表彰台という、会場内にいる人達全員の視線が集まる中であった為、さすがの聖でも恥かしがらずにはいられず、赤面な顔になりながら、抱きついている蘭をどかそうとした。
しかし、そんな光景は、観客席を含む他の人達からは、心を1つにして勝利をしたチームの理想的な最高の一瞬としかとらえていなかった。
それは皮肉な事に、今大会を尊重する1枚として、大会の取材に来ていたカメラマン達に撮られてしまった。
そんな感じで、表彰式の終わりと同時に、長く続いた大会は幕を閉じた。