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心を一つに

 蘭が、聖に水泳は好きかと優しく問詰めると、それを聞いていた聖は一瞬戸惑う様な様子になった。


「水泳が好きとか嫌いとかではなくて…… 私には水泳しかないの!! 水泳しか取り柄がないのよ!!」


「そうなの。水泳しか取り柄がないんだ。だから、水泳部に入って来たのね」


「そうよ!! それが理由で悪いの?」


「別に悪くはないわよ。だって、聖ちゃんが来てくれた事によって、今、こうして水泳部の大会に出られているんだから。寧ろ、聖ちゃんには感謝よ」


水泳部に入って来た理由を問い掛けられ再び怒ったような表情になった聖に対し、蘭は特に表情を変える事無く、先程と同じ様に普段は見せない様な優しそうな表情をしたままであった。


「それは良かったわね。私のおかげで、水泳の大会に出られて」


聖は怒ったと言うよりも、どこかツンッとした様な表情で、蘭に言った。


「そうでしょ。ところでそんな聖ちゃんを、水泳部に勧誘したのは誰かしら?」


「はっ? 何が言いたいのよ?」


すると、蘭が言ったセリフを聞いた聖は、少し疑問に思った。


「だから、聖ちゃんが、この学校の水泳部に入るきっかけをくれたのは誰?」


「誰のきっかけなんてないわ。私は、ただ、この学校に水泳部があるのを知ったから来ただけよ」


「そうかしら? 聖ちゃんは麻奈ちゃんが作ったチラシを見て、水泳部に来たよね」


聖の疑問に対し、蘭は聖が水泳部がある事を知るきっかけとなった、春頃に麻奈が作ったチラシの事を言い出した。


 その話を聞いていた麻奈と菜月も、頷きながらチラシの件を思い出していた。


「そう言えば、部員を増やそうとして、麻奈がチラシを作っていたわよね」


「あのチラシで来てくれたのは、聖ちゃんだけだったけど……」


廃部寸前の水泳部を救おうとして、チラシを作っていたが、それで集まった部員が聖1人しかいなかった事を思い出し、麻奈は少し落ち込んだ。


 その後も、蘭の話は続いた。


「麻奈ちゃんが作ったチラシを見ただけで、どんなレベルか分からない水泳部に来るぐらいなんだから、聖ちゃんは余程、水泳が好きだと初めから見ていたのよ」


「そっ、そんな事、後付けでしょ!!」


しかし、蘭の言った事を全く信じようとしない聖は、またしてもカッとなる怒りの表情となった。


「別に後付けでもなんでもないわよ。現に今もこうして水泳部にいるじゃない。仮入部の時はすぐに帰っちゃったけど、正式に入部をしてからは、きちんと部活に来てるじゃないの」


「そっ、それは……」


「それは、聖ちゃんが、水泳が好きと言う以外にも、この水泳部で友達と言える仲間に出会えたからじゃないかしら?」


そんなカッとなって怒っている表情となった聖に対し、蘭はまたしても普段のイメージとは異なるセリフを、優しい表情で言った。


「だからこそ、聖ちゃんは今、こうして、ここの水泳部にいるのでしょ? そうじゃないかしら?」


「だったら、何か問題でもあるの!?」


蘭に色々と言われた聖は、先程同様、怒った表情で蘭に言い返した。


「ないわ…… でも、これだけは知っていて欲しい」


「なによ」


 すると、突然、蘭は優しい表情から、真剣な眼差しを見せ始めた。


「聖ちゃんが同じ部員の麻奈ちゃんや菜月ちゃんの事を大事に思っているという事は、同じ部員である麻奈ちゃんと菜月ちゃんも、聖ちゃんと同じぐらい思っている事なのよ」


「そんなモノなの?」


「そうよ!! それでこそ、友達であり仲間なのよ!!」


蘭は、聖に自分が大事に思っている仲間は、相手も同じ様に大事に思っているという事を伝えた。


 蘭のそのセリフを聞いた麻奈と菜月も、聖に向かって喋り始めた。


「そうだよ、蘭さんの言う通り、私も聖ちゃんの事は凄く大好きだよ!!」


「私もよ。聖がいてこそのメンバーじゃない」


聖は、麻奈と菜月の言ったセリフを聞き、何か思いつめる様に考え始めた。


 そして、蘭が再び聖の方を見て喋り始めた。


「ほらっ、麻奈ちゃんも菜月ちゃんも、聖ちゃんと同じくらい大事に思っているでしょ」


「だっ…… だから、何だと言うのよ?」


喋って来た蘭に対し、聖はどうしたら良いのか、疑問に思いながら、蘭に聞いてみた。


「だからこそ、この水泳部のメンバーで、午後のレースに勝つのよ!!」


「はっ!?」


「それだけよ」


蘭の話していた話の真相を知った聖は、スットコケル様に、キョトンとした表情になった。


「今までの真剣に語っていた話は何だったの?」


「だから、もう一度、昔の様な泳ぎを見せて欲しいのよ。私達に」


キョトンとした表情となった聖に対し、蘭はニコッとした表情で言った。


「だから、さっきも言ったように、昔の私はいないのよ」


「何度も、昔を引きずらずに、今を見なさい。今の仲間達を。そして、今の水泳部の仲間と心を一つにすれば、きっと昔の様な聖ちゃんになれるわよ。だから、午後のレースは頑張りましょ!!」


その後も、反論する聖に対し、蘭はニコッとした表情で言い返した。


 そして、聖は少し悩むように考えた後、聖はスクッとその場から立ち上がった。


「そうね…… 心を一つに……」


そう言いながら、聖は蘭達が座っているピクニックシートの上に置かれている救急箱を取り出し、救急箱からハサミを取り出した。


 その様子を見ていた蘭や麻奈や菜月は、突然の出来事に驚きを隠せなかった。


「きっ、聖ちゃん!! 何をやってるの」


「何も、そんなトコを切らなくても!!」


「あ~あ、やっちゃった…… 公開しなければ良いけど……」


聖がハサミを持ち出し、何かを切り出した光景を見た蘭と麻奈と菜月は、驚きながらその様子を見ていた。



 ~そして、時間は流れ~


午後の部が始まる為、蘭がレースの行われるプールに来てみると、既に安奈がそこに来ていた。


「よぉ、蘭じゃねーか」


「あらっ、安奈ちゃん。午後はリレーがあるわね」


「そうだな」


安奈と出会った蘭は、共に会話を始めた。 


「まっ、リレーも、私のトコが勝つけどな」


「悪いけど、リレーに勝つのは、私達よ!!」


安奈との会話の中、蘭はリレーに勝てるという自信を、安奈に見せつけた。


「何を根拠に、お前のトコの黒い奴も大した事なかったのに……」


「いいえ、聖ちゃんは、昔の様に速いわよ」


 蘭が自信を持って、リレーに勝てると言った後、少し遅れて、麻奈と菜月と聖もレースの行われるプールへとやって来た。


「いい事、安奈ちゃんよく見ておきなさい。これが、私達の最高のチームよ!!」


「部員が少ないからって…… って!! 黒いヤツの競泳水着が!!」


麻奈の後ろを歩いて来た聖の着ている競泳水着を見た安奈は、驚きを隠す事が出来なかった。


なぜなら、聖の着ている競泳水着が、ハーフスパッツタイプから、太股や腰股が露出しているハイレグタイプの競泳水着に変わっていたからである。

 

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