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正式入部へ

 4月も後半に差し掛かった今日、ついに部活動の正式入部届を提出する最終日となった。


もし、この日のうちに水泳部への入部届を提出しなければ、蘭が部長を務める水泳部は廃部となってしまい、この学校から水泳部はなくなってしまう。


本来であれば、入部届を真っ先に提出していたであろう麻奈も、菜月と聖がなかなか入部届を提出しない為、自分も入部届を提出するのを遅らせていた。


「ねぇねぇ、今日が部活の正式入部届の最終日だよ。早く出さないと閉め切られてしまうよ」


麻奈は、菜月と共に聖が座っている席の前に集まり、今日が部活の入部届の最終日であることを少し焦った様子で伝えた。


「そういえば確かにそうね。少し水泳部の様子を見せてもらったけど、あの水泳部は辞めておいたら? それに、泳ぎを覚えるぐらいなら、スイミングスクールにでも通う方が、よほどためになるわよ」


しかし、菜月は焦っている麻奈の様子とは異なり、今日が入部届の最終日だと言う事を思わせない様子でいた。 


「それじゃあ、今まで泳ぎ方を教えてくれた蘭さんに失礼だよ。それに、水泳部がなくなってしまえば蘭さんも落ち込むよ」


「麻奈は、そんなにあの蘭さんの事を気にしているようだけど改めて言っておくわ。あの人は何を仕出かすか分からない人よ!」


麻奈が蘭の事を物凄く気にした様子で言うと、菜月は蘭の事をまるで変人を見ているかのような目つきをしながら言った。


「そんな…… いくら蘭さんでも、そこまではしないと思うよ……」


麻奈は、少し自信無さ気な様子で言った。


「ほら、麻奈だってまだ蘭さんの事よく分かっていないじゃないの」


「そりゃあ、まだ一緒にいる時間が短いんだもん。でもきっと長い事一緒にいれば、蘭さんが良い人だって事に気が付きはずだよ」


菜月に蘭の事をまだよく分かっていないと言わると、麻奈は少し焦った様子で長い事一緒にいれば蘭が良い人だと気づくと言った。


「それは長い事一緒にいたらの話でしょ。最も私は仮入部だった訳だし」


しかし、菜月は蘭の話には興味を持とうとしないどころか、まるで他人事のようにしか聞いていなかった。


「そっ、そんな…… 今まで色々と協力をしてくれたじゃない」


「アレはただ…… 早く水泳部に入部をしたいって人を見つけて麻奈を安心させたいのと、あと…… 蘭さんが変な事をしないか監視していただけよ。よって、私は入部する気なんてないわ」


麻奈は、今までの部員集めの件や、泳げるようになるまでの一週間の特訓の際に、菜月が協力をしてくれた事を思い出しながら言った。


しかし、それを聞いた菜月は、少し考えながら自分なりの解釈を言って、水泳部には入部しないアピールをした。


「これじゃあ、約束の4人には到達せずに廃部になっちゃうよ…… でも、聖ちゃんは入部してくれるよね?」


菜月が水泳部に入部しようとする様子を見せなかった為、初めに蘭が言っていた部員を4人にならなければ廃部になるという約束を思い出し少し焦った麻奈は、机でうつ伏せになりながら話を聞いていた聖の方を見た。


「ん? まあ、私としては、泳げる環境があればそれでいいかな?」


先程までうつ伏せになっていた聖は、少し眠たそうな表情で泳げる環境があれば良いと言った。


「ほらっ! 聖ちゃんは入部するつもりだよ! さっ、菜月ちゃんが入部をすると言えば、水泳部の廃部危機はまのがれるんだよ!」


「そんなしつこく言われても……」


聖が水泳部に入部する様子でいたのを確認した麻奈は、なかなか水泳部に正式入部をする様子を見せない菜月を説得させるようにしつこい感じで言った。


 

 そんな感じで昼休みの時間を過ごしていると、1人の女子生徒が麻奈達のいる方へと向かって来た。


「あの~ 阪野さんに大神さんに夜鮫さんの部活の入部届がまだ出てないって、担任の先生に言われたのだけど……」


麻奈達に声をかけた女子生徒は、麻奈と菜月と聖とは同じクラスであり、そしてクラス委員長でもある。


「あっ、ゴメン伊神さん。今すぐに出すよ」


そのクラス委員長の名は、伊神真理恵いがみまりえであり、メガネをかけたボブカットの女の子である。


「そう。なら早く入部届を渡してちょうだい。私がまとめて代わりに先生に渡しておくから」


真理恵は、ジト目で麻奈達を見ながら、早く入部届を受け取りたそうにしていた。


「ほら、伊神さんが私達の入部届を先生に代わりに渡してくれるって言ってるんだから、早く水泳部に入部をするって、入部届に書くんだよ」


「だから、私は水泳部に入部する気はないって、何度も言ってるでしょ」


入部届を受け取りたそうにしている真理恵を見た麻奈は、少し焦った様子で菜月に水泳部の入部届を書くように言ったけど、菜月はどうも水泳部には入部する気はないと言った。


「ああ、廃部決定だぁー」


「まだ決まったわけじゃないでしょ。もしかしたら、誰かが入部してくれているかもしれないわよ?」


菜月が入部しないと言ったのを聞いた麻奈は、完全に廃部が決定したと思い、開いた口が閉じなくなった。


そんな麻奈を見た菜月は、誰かが入部をしてくれると余裕をかましながら、自分の席にかけてあるカバンの中から入部届の紙を取り出そうとした。


しかし、カバンの中を見始めた菜月は、すぐに様子を一変し、カバンの中を漁るように探し始めた。


「どうしたの? 大神さん」


その様子を見た真理恵は、少し心配をしながら菜月に声をかけた。


「ない、ないのよ。私の入部届が…… 家に忘れてきちゃった……」


真理恵に声をかけられた菜月は、半泣きになりながら後ろを振り向いた。


「あら…… 忘れちゃったのね。今から先生に新しい紙をもらえばまだ間に合うと思うわ」


入部届の紙を忘れて、落ち込んでしまった菜月を見た真理恵は、慰めるようにしながら言った。


そんな時、突然、教室の窓側から蘭の声が聞こえた。


「菜月ちゃん、心配することはないわよ」


その声を聞いた菜月は、すぐさま廊下側の窓の方を見た。


すると、蘭はすぐに教室の中に入り、菜月と真理恵のいる方へと近づいた。


「はいっ、これが阪野さんと大神さんと夜鮫さんの入部届よ。水泳部の部長である私から代わりに渡しておくわ」


「あっ…… どうもありがとうどざいます」


まさかの予想外な展開に、蘭から3人分の入部届を受け取った真理恵は、驚き半分な気持ちでそのまま教室を出て行き、職員室へと向かってスタスタと歩いた。


「あまりにも入部届を出すのが遅かったんで、代わりに私が出しちゃったわ。テヘッ」


「あっ、蘭さん。私の分だけでなく、聖ちゃんや菜月ちゃんの分まで代わりに出してくれてありがとう」


「どうせ、初めからそうするつもりだったのでしょ?」


「そうかもね。あまりにも提出が遅かったので、出しに行く際に私も付いて行こうと思って、別に入部届を用意していたけど、本当に役に立ったわね」


クラス委員長である真理恵に麻奈と聖と菜月の水泳部への入部届を渡した蘭は、その後、麻奈と聖と楽しそうに話をした。


そして、水泳部に入部をする気のあった麻奈と聖とは違い、水泳部に入部をする気のなかった菜月は、入部届を忘れてしまった愚かさと勝手に水泳部への入部届を蘭に提出をさせられた怒りから、泣きながら蘭に一言を放った。


「やっぱり、あんたは変人よ!!」


とりあえず、蘭を含め、部員が4人になった為、水泳部の廃部はまのがれた。

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