昼休み中に
午前の授業が終わり、昼食の時間が訪れた。
この時間は、先程までの授業の時間とは異なり、各クラスにいる生徒達は皆それぞ仲の良い友達同士での昼食タイムを楽しんだ。
そんな中、麻奈と菜月を同じクラスにいる聖は、1人で校舎の外の庭に置かれているベンチの上に座り、昼食であるサンドイッチを食べていた。
毎日、昼食時の友達同士で賑わう教室から逃げるように離れる聖は、ただ1人、のんびりと過ごす様にこの時間帯はベンチの上で昼食を食べている。
今日もまた、いつもの様にベンチの上でゆっくりと流れてゆく時間を過ごすだけかと思っていた矢先、このベンチの場所に2人組の女子生徒がこちらに向かって走って来るのがチラッと目に入った。
「あっ、聖ちゃんこんなところにいた!」
ベンチに向かって走って来た2人組の女子生徒は、麻奈と菜月であり、特に麻奈は昼食時にどこかへ行ってしまう聖を探していたようである。
「いたって、阪野さん、一体なにをしにここへ来たのよ?」
「まあまあ、そう警戒をする様な顔をしないで、私達と一緒にお昼を食べようよ」
「お昼を食べるって…… 別にここに座るだけなら構わないけど、あんまり騒がないでね」
お弁当を入れた袋を持つ麻奈を見て、少し警戒をした様子でいた聖は、昼食を一緒に食べたいと言った麻奈に対し、少しダルそうな様子でベンチの空いている両サイドの方に座るよう指示した。
「ありがとね! じゃあ私、ここに座るね」
聖の両サイドの空いていた場所のベンチに座り、袋に入っていたお弁当を取り出し、そのまま麻奈と菜月も昼食タイムに入った。
「全く、麻奈ったら、よほど夜鮫さんの事を心配していたようね」
「心配をしていたって、何を?」
お弁当の袋を開けながら菜月は聖に、麻奈が聖の事を心配していたという事を伝えると、聖は何の事で心配をしていたのか疑問に思った。
「そりゃあ、一週間も部活に顔を出さなかったからに決まってるでしょ」
お弁当に入っていたおかずを口の中で噛みながら、菜月はきっぱりとした様子で言った。
「そうだよ。いくら生理中だからって、部活に顔を出さないのはよくないと思うよ」
「ちょっと待って…… 生理中って何の事? 一体誰が私を生理中だなんて決めたの? それに私、生理なんて来てないから」
サンドイッチを食べながら話を聞いていた聖は、麻奈が突然生理という言葉を言った為、急遽食べるのを止め、一週間の間部活を休んでいた理由を生理だと決めたのは誰なのか聞いた。
「あれ? 生理じゃなかったの。全く、蘭さんったら私達に嘘を教えておいて」
「全くよ! 私はただ休むって言っただけなのに、それなのにあの巨乳金髪ビッチめ。嘘を言って」
聖が一週間もの間、部活を休んでいた理由を生理ではないと分かった菜月は、蘭が嘘を言った事で聖と一緒に怒った様子になった。
「なんだ、生理じゃなかったのか。それにしても先週の部活の途中に突然帰っちゃったから、私ずっと聖ちゃんの事心配していたんだよ」
「そう、ずっと心配をしていてくれたのね。心配しなくても、ご覧のように私は元気だから」
お弁当を食べながら麻奈は、隣に座っている聖の方に顔を向けた。すると聖は特に笑ったような表情もすることなく、この一週間の間ずっと心配をしていてくれた麻奈に元気であるという事をアピールした。
「よかった。それよりもなんで先週の部活の時、突然帰っちゃったりしたの?」
「ま、まあ…… アレよ。突然の急用ってヤツよ……」
その後、麻奈から次の質問として先週の初めてプールに入った日に、途中で帰ってしまった理由を聞かれた。
その答えに聖は、麻奈がろくに泳げもしないのに水泳部に入部をしようとしていた事実と、この学校の水泳部のレベルの低さに嫌気を指したとは言えず、少し考えながらとりあえず急用があったと嘘を言った。
「ほう、用事があったんだね。それだと、私がプールで溺れた後の出来事を知らないでしょ?」
「えぇ、まあ…… じゃあ教えてくれるかしら?」
さらにその後、麻奈が先週の部活中に溺れた出来事の続きを語りたいかのような顔をしながら、聖の方をジロジロと見た。
「あの次の日から一週間、毎日蘭さんの下で泳げるようになる特訓をしたんだよ。それはもうとっても厳しい特訓だったんだよ。その証拠に身体中が筋肉痛になって、今もサロンパスを張っているの」
「そうなのよ。あの蘭さんって人、見かけによらず…… いやっ、見かけ通りかも? そんな事はさておいて、蘭さんって、結構なドSだったのよ」
麻奈が、この一週間の出来事を太股に張っているサロンバスを見せながら語っていると、菜月がこの一週間の蘭の練習の指導ぶりを振り返っていた。
「なるほどね。私がいなかった一週間にそんな事があったのね。なんか蘭さんがドSってよりもドMのイメージがあったわ」
麻奈と菜月から、先週にあった出来事を聞いた聖は、そっと先週の麻奈の練習をコソッと監視ををしていた時に見た様子を思い出しながら言った。
「それに私、この一週間の間、蘭さんの元で練習をする以外にも、家に帰ったあとにこの本を読んで泳ぎ方の勉強もしたんだよ。
そして麻奈は、弁当と一緒に持って来ていた泳ぎ方を覚える為の本を聖に見せた。
その本を麻奈から受け取った聖は、パラパラとページをめくりながら本の中身を確認した。
「この一週間、思っていたよりも泳ごうと努力はしたみたいね。それにこの本は自分で買ったの?」
「そりゃあ、早く泳げるようになりたいもん。あっ、その本はね、蘭さんから借りている本なの」
「なるほどね。それで各ページの大事な個所には赤ペンで印が付いているのね。蘭さんも意外と気が利くものね。この本、意外に良いわ」
ページを一通り見終えた後、聖は麻奈に本を返した。
「ありがとう。私が思っていたよりも、阪野さんは頑張っているのね。これからもこの調子で頑張るのよ」
「うん! 私、絶対に泳げるようになってみせるからね!」
聖から本を受け取った麻奈は、聖に頑張るようにと励まされた後、麻奈は元気よく答えた。
その後も麻奈は、聖と菜月と一緒に話をやりながら、昼食のお弁当を食べた。
そして、この日の昼食時間に、聖と一緒に話をやりながら昼食を食べた麻奈にとっては、ほんの少し聖に近づけたと感じたのであった。