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一週間の特訓!

 蘭と菜月が、麻奈に泳ぎを教えようとして燃えていた中、一人だけその光景を冷たい目線で見ている人がいた。


「ふん、まるで茶番劇みたいね……」


そう言った聖は、そのままプール更衣室の方へと向かって歩いていき、プールサイドを離れた。



 それから一週間の間、麻奈は蘭と菜月による泳ぎの特別講習を受けていた。


「ほらっ、麻奈ちゃん、25メートルまでもう少しよ。その調子でもっと両足をバタバタと水を蹴るようにキックをするのよ!」


両手にはビート版、腰にはヘルパーを装着してプールをバタ足で泳いでいる麻奈に、蘭はプール全体に響き渡るような大声で指導を行った。


そして、息を切らすくらい苦労をしながらも、麻奈はバタ足でプールの25メートルを泳ぎ切った。


ちょうど50メートルプールの真ん中に置かれている赤い台の上で立ち止まり、ハァハァと息を切らしながら休んでいると、蘭から次の練習内容を告げられた。


「じゃあ、麻奈ちゃん。今度はヘルパーとビート版とゴーグルを外して、潜水で残りの25メートルを泳いでみましょう!」


「えっ、えぇ~!! 次は潜水ですか!?」


「そうよ。せっかくバタ足が出来て来ているんだから、今度は息継ぎが無しでもある程度泳げるようになる特訓をしておかないとね!」


ノリノリな様子で言う蘭に対し、麻奈は疲れ切った状態の中で次の練習内容を聞き、プールの真ん中に立ち止まったまま驚いた。


「ちょっと! 蘭さん、また麻奈に無茶苦茶な練習をさせて。少しは麻奈を休ませてあげたらどうなの?」


「確かに休憩をさせてあげた方が良いかも知れないけど、それだと練習にはならないのよ。少なくとも、一週間以内には泳げるようになってもらいたいんだから」


蘭の厳しい練習内容を目の前で見ていた菜月は、疲れ切っている様子の麻奈を見て、蘭に少しでも休憩を与えたらどうかと言ってみた。


すると蘭は、麻奈を一週間以内に泳げるようにしたいと言い、麻奈には休憩を与えようとはしなかった。


「そんな無茶な練習をさせて、麻奈が溺れたりでもしたら、私、絶対に許さないから」


水泳初心者である麻奈に厳しいと思える練習をさせている蘭に向かって、菜月は心の奥で怒りを秘めているような感情で言った。


そんな麻奈達の様子を、聖は室内プールの外側の窓から見ていた。


「全く…… 一度溺れかかった目に合っているくせに、水泳部から逃げ出そうとはしなかったわね……」


聖は、麻奈が必死をこいて蘭の指導の下、泳げるようになろうとしているのを、陰ながらひっそりと見ていた。


「それにしても阪野さん、いったいこんな調子で何日持つかしら?」


聖はプールの外側から、蘭の初心者に対する厳しい練習内容を見て、麻奈が泳げるようになる以前に、厳しい練習が嫌で逃げ出さないか疑問に思った。



 それから数日後、蘭の無茶な練習の舞台は、今度はプール内ではなく学校近くにある神社で行われる事となった。


「それじゃあ麻奈ちゃ~ん、今日は体力作りと脚力アップを目指して、この神社の階段ダッシュをやってみましょ!!」


「えっ、この階段を走って上るんですか?」


「そうよ。まずは1分を切れるように目指してみなさい」


「むっ、無茶な…… こんな何百段もあるような階段を1分以内だなんて、無理だよ……」


「無理かどうかなんて、やってみないと分からないじゃない! ほらっ、走った走った」


そう言うと、蘭は数百段もあろうかという階段を見て怖気ついている麻奈の背中をポンッと押した。


麻奈の目の前には、神社へ続く数百段の階段があった。実際にひと目で数えるのは難しいくらいに、段数が多い。


そんな神社まで続く長い階段道を、走り出した麻奈は階段を2弾ずつ飛ばしながら上り始めた。


「また蘭さん、麻奈に無茶な練習をさせて。あの階段を1分以内のダッシュだなんて、私でもキツイくらいよ」


この階段ダッシュの練習は、運動が得意な菜月でも嫌になるくらいのキツサでもある。


「確かにスポーツ慣れしてる人でもキツイかもしれないわね。でも、キツイ地獄のような練習をこなしていく行くことによって、麻奈ちゃんは大きく成長していくのよ!」


「またそんな事言っちゃって…… この先もこんな無茶な練習ばかりやらせていたら、仕舞に麻奈だけでなく聖も入部しなくなって水泳部が廃部になるだけよ!」


初めてプールに入った日以降、ずっと麻奈にはキツイ地獄のような練習ばかりをやらせてきている蘭を見て菜月は、ただキツイ練習ばかりをやらせていたら、仕舞に入部をする人がいなくなり、水泳部が廃部になるだけだと言った。


「そっ、それならきっと大丈夫よ…… なんせ麻奈ちゃんは泳げなくても、どんな部員がいるかすら分からない状態から、水泳部の部室に1人で訪れた子なんだから、きっとこんな練習で逃げ出すような子じゃないわ!!」


蘭は、全身から流れ出る滝のような冷や汗をかきながら喋った。


「まっ、そうかもね。なんせ麻奈は、一度やりたいと決めた事は何があっても最後までやり遂げようとする子だから」


蘭の発言には、菜月も納得をした様子になった後、菜月と蘭は数百段もある神社の階段をダッシュで上って行く麻奈を見守るように見始めた。


そして、この神社の数百段もある階段の両サイドにある無数に植えられている木の後ろに、聖は隠れながら麻奈の走る様子を監視するように見ていた。


「それにしても、なんて古典的な練習かしら。水着だけでなく練習法までもが古典的だなんて…… 阪野さん、無理して身体を壊さなければ良いけど……」


聖からしてみると、階段ダッシュの練習法は古臭いようであり、蘭の考える無茶な練習を行っている麻奈が無理をして身体を壊さないか、少しながら心配した様子でいた。


そんな聖が見ている中、麻奈の数百段もある階段ダッシュの練習は、日が暮れるまで続いた。



そして、麻奈がプールで溺れてからちょうど一週間目、ついに地獄のようにキツかった一週間の成果を試す時が訪れた。


「さあ、麻奈ちゃん。この一週間の特訓でどれだけ泳げるようになったか見せてもらうわよ!」


「全く、蘭さんの無茶な練習がどれほどの成果が出たのかが見ものね」


麻奈の一週間の成長を、蘭と菜月は楽しみにしていた。


「うん…… それじゃあ私、ひと泳ぎしてくるね……」


しかし、その時の麻奈の様子は、この一週間の間に今までやった事のないような運動で全身の筋肉を使い過ぎたせいもあり、麻奈の身体は全身が筋肉痛の状態であり立っているのがやっとであった。


「って言っても、こんな筋肉痛じゃ泳ぐのは無理そうね」


「イヤッ、だっ、大丈夫です…… 私、泳いでみます……」


蘭が心配をしている中、全身筋肉痛の状態で無理をして歩いていた麻奈は、プールサイドにこぼれている水を踏んでしまい、足を滑らせ全身を床に打つという軽いケガを負ってしまった。

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