僕と彼と彼のクリスマス
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僕と彼のクリスマス
「じゃあ、またね。」
12月22日23時。ホームパーティも終わりみんなが帰っていく。僕は年末の忙しい中きてくれたみんなに感謝しながら、みんなの背中が見えなくなるまで笑顔で手を振った。
部屋に戻る。10数人が入っていて狭く感じた部屋が、今は広く感じる。さすがに、12月部屋は寒い。
みんなが帰った後、後片付けをする。寂しさが込み上げてきた。頬を涙が流れる。
突然、後ろから抱きしめられた。
「馬鹿だな。寂しい時は俺が側にいてやるって、言っただろう。」
大学からの悪友が残っていた。昼間から相当アルコールを飲んでいる。
「え?帰ったんじゃなかったの?終電まで時間無いよ。」
「そんな顔しているお前を置いて帰れるかよ。」
「酔ってるの?」
「馬鹿。俺があれくらいで酔うかよ。心配だって言っただろう。」
悪友が耳元で優しく囁いた。
「ずるいよ。こんな時に。」
僕は、最近、彼女と別れた。今日は、その寂しさを紛らわすためのホームパーティだった。悪友もそのことは知っている。
「そうだよな。ずるいよな。ごめん。今のなし。やっぱり、酔っているみたいだ。水をくれ。」
悪友は恥ずかしさを誤魔化すように早口でまくしたてる。
僕は台所に行き、胸の鼓動が治まるのを待ってからコップに水を入れた。
「氷は無くて良いよね。寒いし。」
悪友は鼾をかいて眠っていた。僕は起きないように、そーっと、毛布をかけた。
「嘘つき。」
悪友の寝顔に呟く。
そして・・・
額に、“肉”と書いた。
翌日、僕たちは朝から国民的人気アニメを見た後、食事を取りに駅前まで行くことにした。
「なんか、俺たち見られてない?」
悪友の言うとおり街行く人たちがこちらを見て笑っている気がする。
「クリスマス前に、男2人で歩いているのが、そんなにおかしいのか?」
「あっ。」
僕は恐る恐る悪友の額を指差した。悪友がファストフードのガラス張りの壁で自分の顔を見ている。
「なんじゃこりゃ~。」
悪友の声が、冬の寒空に消えて行く。
2012年12月23日、日曜日。今日も日本は平和です。
今年のクリスマスは雪が降るだろうか。雲一つない空を見上げながら考えていた。
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「どう?今回の作品?」
会社の友人Hが笑みを浮かべながら聞いてきた。新しい小説を書いては意見を求めてくる。
「いや、どうって、これのモデル・・・僕とYじゃないか。」
「ははは。やっぱり分かる?」
「さすがに、これは無いわ。」
「ごめん。ごめん。」
Hは笑いながら誤った。気のせいか笑顔のHの瞳は悲しそうだった。
1週間後。12月18日。僕は友人Hの葬儀に参列していた。
「あれ?Yも来て居たのか?どうして?」
「どうしてって、俺もお前もあいつも同じ大学だろ?」
「え?」
思いだした。同じ会社の友人Hは同じ大学だったのだ。彼が1週間前に見せた小説を思い出していた。
大学からの悪友はYではなくてHだったのか。
僕が、そのことに気付いていたらHは死ななかったのかもしれない。
Hは死という最期の手段で僕の記憶に残ったのだった。