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第八話

 「し、心配してますわ、何を大げさな…」


 珍しくアラバは怒っていた。


 彼は声を荒げるでも無く、ただ『じっ』と、いつもの漆黒の魔道士とは違う凄みに、保護者は明らかにたじろいでいた。


 「大怪我してからでは遅いから、レフィーユさんはこの日程を考えたのですが?」


 「そんな事を言っても貴方、ネムは刀剣術3級と言わなかったかしら?」


 「レフィーユさんは有段資格を持っています。


 ですが、それでも遅れを取る事も、時にはありますが3級ではどうなりますかね?」


 普段、怒る事はない男が怒る、それは珍しい光景ではあった。


 他から見れば微笑ましさくらい感じる事だ。


 しかし、理由を知ってる身としては、笑えなかった。


 彼は『事件』で両親を失っているのだ。


 治安が下がった日常というのは、それが茶飯事なのだ。


 「知った口を挟まないでほしいザマス!!」


 そして、そんな日常の連続で、感傷すら薄れたミチコはそう一喝していた。


 「貴方がどれだけやるのかはご存じありませんが、ロウファちゃんは治安部のリーダーを目指しているのザマスよ。


 私だけじゃないの、私達は一流のトレーナーに訓練を積ませて、実戦に出ても通用するレベルだとも言われているのザマス。


 いいでしょう、明日の武道の時間のロウファちゃんを見なさい、きっと成果をあげてくれるザマス」


 そう言って、自らが始めた会話を勝手に話を終わらせて行ってしまった。


 そんな事があった彼の部屋にて、私の持ってきた資料とにらめっこをしている彼に聞いてみた。


 「しかし解せんな、ロウファを治安部のリーダーにするべく仕立て上げようとして、今回の事に及んでいると言うなら、普段安全な成果を上げればそれだけで十分なはずだ。


 こんな危険な時期に行う必要があるのか?」


 「正確にはわかりませんよ。


 ですけど『親の抱えた理由』の延長線上が、今回の事態を招いているのかと私は勝手に思ってますがね」


 「抱えた理由?」


 「例えば親が…。


 『私は治安部のリーダーになれなかった。だから、その子供に果たせなかった夢を託そう』


 『私の子供は治安部で活躍させたい』


 と考えていたら今回の強行も頷けるモノだと思いますよ。


 近年、こんな理由で両親が傷害沙汰、脅迫沙汰を起こすような事件が多発してますし、治安部のリーダーという役職は、将来にも役立ちますからね。


 そこに貴女が『お墨付き』となれば…」


 「…だからと言って、自分の子供にも選ぶ権利くらいあるはずだ。


 それに今回の事で成果を上げたところ、訓練を積んでも、彼等が今後、治安部としてやっていく能力があるのかなど…。


 結局、選ぶのは自分だ。


 親に言い続けられた人生など、下手をすれば、それが犯罪に走らせる理由になる事だってある」


 「それが一般的な答えなのでしょうね…」


 そう言って、PCの電源にスイッチを入れるので、私の言った答えはおそらく『甘い』と言いたいのだろうかと思い、自然と眉間にシワがよってしまったが彼は気にする事無く聞いてきた。


 「レフィーユさん、プロのスポーツ選手の作り方って知ってます?」


 「ふっ、そんなモノがあったなら、こんな事態も起きないと思うがな」 


 するとまた彼はネットを開き検索を始めて、答えを言った。


 「この本の通りに、やれば出来るのが、最近、わかって来たらしいのですよ」


 PCには、ある本が映っていた。


 そして、あまりにも簡単で反論しやすい答えだった。


 その本は古くから…いや、現代に至るまで、執筆をし続けられている本でもあり、思わずこの男の言っている事は間違いではないのかと思いもした。


 「プロゴルファー、ロシナンテ、この前引退したプロゴルファーだな。


 その父、カリウスが語る育成術…。


 アラバ、この本を真似れば、プロゴルファーになれるとホントに思っているのか?」


 「まあ、出来るわけが無いと思う事が普通でしょうね。この場合はプロゴルファーですが、レフィーユさん。


 どうして、こんな事を真似て『プロスポーツ選手が出来ない』と思うのですか?」


 「ふっ、それこそ無理に決まってるからだ。


 大よそこの手の本に書かれているのは、ようやく物を考えるようになった年頃の自分の子にサッカーのリフティングを教え込ませたり、野球のキャッチボールをさせるなど。


 本の中には、親の異常さすら感じさせるモノもあったではないか、大体、この通りにやれば、それこそ、その子だって反発するだろう?」


 「生活環境によっては、子供は全員、反発する事は出来無いようにする事は出来ますよ。


 『反発』する感情自体、今の時代、教育で押さえ込む事が出来ますからね。


 そして、その反発する感情を失った子供は、どんな親のやりすぎでも、それが『普通』だと思ってやってしまう傾向はあるのも、この手の本は証明させてしまっているのですよ。


 子供であればあるほど…。


 海外では、そんな教育環境を作り上げて子供を、プロの選手を作る学校は普通にあります。


 両親の中にも、お金さえ払えば、プロ選手になれると『勘違い』する人も必ずいます。


 そして、治安部員の経歴をある程度真似れば治安部員になれると、受験勉強と『勘違い』する…」


 私は思わず黙り込んでしまった、人間はそこまで単純ではないと思いたいが、自分の周りでもそんな簡単な理由で犯罪を犯す人間もいるからだ。


 犯罪心理とどこかしら似ていると感じた時、彼はこうも言った。


 「あのモンスター達の中には、それは様々な理由でしょうが、今回、親達が『この子を将来、治安部で活躍させたい』なんて、そんな共通の思考を持ってます。


 その子供はやりすぎた間違いに気づく事なんて、まず不可能でしょうね」


 『不可能に近い』ではなく『不可能』と言い切るので、彼は今回の事を私以上に危うく思っているのがわかった。


 彼は一枚の資料を差し出す。


 それはロウファの資料ではある。


 学業は申し分ない、欠席もなし、刀剣術2級、捕縛術3級。


 ここまでは当時の私と近いモノがある。


 だが、他にも習い事をしているらしく…。


 私が趣味でやっている事にも資格を持っていた。


 おかげで華々しく、記載欄を埋め尽くした資格は私の目には、痛々しく思えた。



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