第七十七話
「あっけないですね…」
学園内の留置場にて、誰もいない牢屋を眺めていると、そんな感想が素直に漏れた。
ここにはもう、かつて指名手配犯、スーパーペインがいた。
「あのまま警察はペインを、そのまま収容所に直行して行ったからな。
とは言え、やはり虚しさを感じてならんな」
「半ば強行的な気もしたのですが?」
「ふっ、そうかも知れん。
だが、あの強引さは必要だ。
これ以上は邪魔が入らないと言う、警察側の判断だったのだろう。
それ故、その事態をモンスターどもが警察を利用しようした時、止めようがなかったよ」
「やっぱりあれはペインさんが考えた事だったのですね?」
「当然だ。
私はいくら犯罪者とは言っても、見世物にする道徳は持ち合わせてはない…」
そう言って、レフィーユは黙り込む。
当然、不機嫌だ。
モンスター達の『演出』は、彼女をも見世物にしようとしたのだから…。
だがペインはロウファを向かって、復讐を完成させようとさせる『演出』を用いたおかげで、モンスター達の演出を台無しにしたのだ。
だが、子供達は傷ついたのは言うまでもない。
所詮は見世物になのだ。
犯罪者を犯罪者と捉え、正義の味方はどこにもいない。
それには自分も不機嫌になる。
「ペインさんには、悪い事をしましたね…」
「私もまだ、青い…」
「ところでレフィーユさん、どうして、こんなトコロにいるのですか?」
「ふっ、空気を悪くしてしまったか?」
空気を換えるために、そう言ったように見えるが、
「違いますよ…」
もう一度、周りを見回して聞いてみた。
「これは私の罰なのでは?」
「そうだな、ペインもいなくなって、虚しさを感じてならん」
「この状況下で、そんな無視しないでくださいよ」
ちなみにここは留置場と説明しているだろうが、牢屋の中だった。
「セルフィに聞いたが『初等部の足止めをしてくれ』と、漆黒の魔道士に頼んだそうだな?」
「彼女は、どうも自分が初等部を足止めをするために現れたというのを理解してた様子でしたからね。
セルフィさんが、どうしてここまでの事として、戦おうとしたのかと聞いて来ましたので。
その時に『アラバ君に頼まれた』と言ったのですよ」
「ふっ、言い訳くらい、用意しておけばよかったものを…」
「そんな気にはなれませんでしたよ」
「だが、漆黒の魔道士がやった事は、所詮は傷害だ。
お前はそれに関与したという事は、罪で訴えられても文句は言えない事くらいわかっていると思ったが?」
レフィーユのもっともな言い分をする。
普段の自分なら、彼女の言うとおりあらかじめ用意していた。
『言い訳』を使って、その場を凌いでいただろう。
ただ、この事件には悔いがあった。
「セルフィさんは止めれなかった事を悔やんでましたからね…」
自分にも、それが残っていた。
「私が警告を続けなければ、彼は暴走する事はなかった…。
私にはロウファ君を見捨てなければなりませんでした…」
「だが、お前は逆に他の初等部を止める事に成功したではないか?」
「それこそ言い訳ですよ。
もっといい方法が一つあったのですから」
レフィーユは息を飲むように黙り、それを静かに答えた。
「実力を行使する事だな?」
その態度だけで、彼女も知っていた事がわかった。
「ですが、私にはそれが出来なかった。
私には個人に正体をバラす覚悟はありました。
ですがあの時、多くの子供達に見られる事が…怖かった…」
あの時、確かに退いた自分がいたのだ。
「格好は付いたのかも知れません、ですが、すがるしかなかったのですよ…。
そして、ミクモ君は確かに身を挺して友達の危険を、止めようとする子がいたのですよ。
私はその子の思いだけは、忘れたくなかった」
「だから事件に名前を残しておこうと思ったか…」
レフィーユは、向かいに座り込んだ。
「すまんな、私の作り上げた事が、ここまでお前を追い詰めていたとは思わなかった」
自然に身体が沈んでいく中、レフィーユはずっと見つめていた。
「私も魔法使いに頼んでいてな。
私がその男を見た時、大きく傷ついていたのは見て取れたよ」
そして、彼女も躊躇するように言った。
「でも、私は残酷にもその男に頼んでしまった。
初等部の足止めしてくれと、ミクモと言う勇敢な男の思いに、答えようとする男もきっとやって来るとな。
何がレフィーユ・アルマフィだと思う事がある。
でも、その男に頼み、すがるしかなかった。
そして、その男は勇敢に立ち向かって行ったよ。
ふっ、私には出来ない行為だ。
お前はやってのけた。
私に向けた背中は、とても大きかったよ。
私が見上げれる男は、そういう男だ」
ただ、その言葉は。
「そう言ってくれると楽になります」
ホント、少し楽になった。
するとお互いほぼ同時に気配を感じ取り、顔をそちらに向けた。
完全に気配を殺して、こちらの会話を聞こうとしているのだろうが、レフィーユは気配に向けるように言った。
「ふっ、だが、お互いそういう事で、こんな牢獄に放り込まれたというのは、納得いかんな…」
「そうですね、学園行事は大幅に狂う事になるのでは?」
「心配するな、そういうのは全部、後がやってくれる」
「全部…ですか?」
「そうだ、今回の事件における自分達と、その周辺の被害報告に、破壊報告。
今後、大きく狂ったであろう両校学園行事の調整に…」
ズラズラズラズラと聞いている自分にとっても胃が痛くなるような、レフィーユの本来こなす仕事内容が隠れている人物を押し潰していった。
付き合いが長いので、なんとなくわかる。
全部、この隠れている妹に押し付けたのだろう。
「レフィーユさん、知ってます。
彼女、本来なら中等部なんですよ?」
「ふっ、私は飛び級ごときで特別扱いはするつもりはない」
ガラガラと仕事内容の束から、セルフィは抜け出てきた。
「ふん、まったく人に後事を押し付けておいて言う台詞じゃないわね…」
「驚いたな、いたのかセルフィ」
とんでもなくワザとらしかったので、つい笑いそうになった。
「何よ、アンタ。笑い事じゃないのよ?」
ただ、その瞬間だけ、気分はすっかりと晴れていた。