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第七十四話

 手錠を掛けるまでの間、私は辺りが静まり返っていた事に気が付いた。


 どうやらガトウ達も、片付いたらしい。


 そして、同時に身体が冷えていくのを感じる。


 どうという事は無い、運動をして、その動きをやめると起こる純粋な身体の冷えだった。


 それはこちらも終わりを感じ取る事が出来るほどに。


 「気が付いたようだな…」


 私はゆっくりと目を開いたペインに語りかけていると。


 「痛てえな、殴るなよ…」


 そう言って意識を取り戻す。


 正直、まだ私の拳は痛かった.


 よほど強く殴りすぎてしまったのだろうかと思いもした。


 治安部にも武器を持った相手に、素手で対処する方法はある。


 だがそれは…。


 「捕縛術なんて、東方術の治安部がやるワザじゃねえだろうが…」


 東方術は武器を作り出す手段だ。


 自分自身で作り上げた武器は、私を含め、人は武器に頼るように出来ている。


 それなりに技能も持つ相手に、素手で行う捕縛術は危険を伴う。


 そのためペインの言うとおり、あまり行われる手段ではなかった。


 私でも、相手を倒してから取り押さえるために、その捕縛術を使うくらいだ。


 ペインには武器の力に頼りすぎる傾向があった。


 彼には一撃が強力すぎる武器があるのだ、なおさらだろう。


 「確か投げるはず、だったろ。


 それを思いっきり…」


 ちょっとアクセントは、加えてはいるが…。


 「ふっ、世の中、西方術者で素手で私に立ち向かってくる男もいる。


 そして、その男の接近戦に、何度も手を焼いた事があるのでな。


 お前には通用すると思ったよ」


 昔の私だったら、一辺倒に剣に頼ったまま、ペインに敗北を喫していただろう。


 だが、人はこうやって戦術だって見直す事が出来るのだ。


 そしてロウファも自分の中にある答えを見つけ出そうと、必死に足掻いて魔法使いと戦っている事をペインに伝えると、


 「だからオレは負けた、か…」


 ペインは呆れていたが、その身体は倒れたまま言った。


 「そういえば、いつか自分の力で身を滅ぼす事になる、よく言われてたな…」


 ペインが気絶した時間は、ほんの五分ほど。


 だが、私は身構えずにいられた。


 「一瞬だが、夢を見ていた」


 彼にもわかっているのだ自分の決着が。


 「そんな中で、いつか自分自身の能力で、身を滅ぼす事になる。


 だから、キミはもっと厳しい訓練を積むべきなんだ…。


 身を滅ぼす辺りは、教師にも、友達にも言われてた。


 厳しい訓練を積むというのは…、鍛えてくれた恩師、両親に…いや、母さんは少し違ってたか…」


 日が完全に沈んだおかげで、ペインの顔は見えなくなる。


 「みんな注意していたんだな。


 オレはその言葉にも、振り向く事が無かった。


 アイツだって、そうだ…」


 ペインは倒れている幹部に目を向けていた。


 「考えてみればアイツは数合わせで、ゴロツキどもを集めていただけだって言っていた。


 やり直すんなら、まだ時間が必要なんだってな。


 当然の処理だった、だってよ、オレが捕まった時、組織は壊滅していたんだからな。


 アイツはオレを利用しているだけだなんて、また思い上がって…。


 いい歳こいて殴られて、初めてわかるなんて、オレも酷い大人だ…」


 ゆっくりと立ち上がりこちらを向くが、夜になったせいでペインの顔は見えなかった。


 「ペイン…」


 だが、ここには何も言えず、そう呟くしか無くなる空気が存在していた。


 私は自分を見直す事が出来たのに対し、ペインはそれが出来なかったのだから…。


 一つでも間違えていれば、私も彼のようになっているのか…。


 そんな考えが浮かべば、黙り込んでもしまう。


 するとそんな中を通信の入る音がした。


 「私だ」


 「無事か?」


 「ガトウ、私は大丈夫だ。


 ペインは拘束したよ」


 「そうか、それはよかった。


 だが、不味い事になった」


 「負傷者か?」


 私は後の事を聞く前に、窓から下を眺めると、そこには異様な光景があった。


 思わず身を隠しながらガトウに聞いた。


 「いや、あのモンスターども、レフィーユさんに会わせろと言って来ているんだ」


 「保護者達が?」


 警察も来たのだろうか、サイレンの音と、照明で辺りが明るさを取り戻す。


 そこにはミチコを始め、保護者達が治安部と何やらもめていた。


 「レフィーユさん、今は絶対に外に出ないでくれ!!」


 そう言ってガトウは通信を切った。


 「おい?」


 何事かと聞こうとするが近くにいた、ガトウには事態が私より把握できたのだろう外の方で彼の声がする。


 「おら、下がってくれ、まだ事件は終わってないんだ」


 「そんな事より、アンタ達こそ道を開けなさい」


 「もう少しで、ここに私の子供がやってくるのよ!!」


 そんな中で誰かを探しているかのように見えたミチコの姿もある、外の様子の異変にペインも気付いたのだろう。


 いつの間にか隣で窓を覗き込んでいたので、私は少し驚いて彼の方を向いたが、この事態を解説し始めた。


 「…あいつ等、標的をオレに変えやがったな」


 「どういう事だ?」


 「モンスターたちの狙いは、そもそも子供の将来を考えての行動だ。


 本来ならレフィーユ、お前率いる治安部に認めてもらえる事が、自分達の評価にも繋がると考えていた。


 だが事のほか、思い通りに運ばなかった」


 「馬鹿な」


 「レフィーユ、お前達の所為じゃない、事態が収束に向かっているのだからな。


 だからこそあいつ等は、この場を利用しようとしているんだ。


 今度こそ安全な状態なんだからな」


 「何をするつもりだ?」


 「レフィーユ、今のお前は『私闘』を行って、今の地位を投げようとしている。


 お前の治安部はお前の意思に、同調して行動を共にした。


 だがそんな状況下の中、お前の地位を取り戻す役が、あの初等部と演出されてみろ。


 お前がどう考えていようと、世間どう評価するかわかるだろう?」


 言葉も出なかった、私は思わず首を振るだけだったが、ペインの言い分には余りにもリアリティがあった。


 何か手段を講じようと考えを張り巡らすが…。


 「くそっ!!」


 手詰まりだった。


 元々モンスター達はそれを狙っていたのかもしれないと思いもすれば、さらに腹立たしくなった。


 「手詰まりか…?」


 ペインがそう言うのを、黙って答えるしかなかった見て、ペインは言った。


 「レフィーユ、俺にいい考えがある」


 ペインの提案に耳を貸すが、それは私にとって納得が出来ない提案だった。


 「ロウファってガキも、答えを探しているんだろう?


 だったら、やらせてくれねえか?」


 だが、その時のペインは態度はいつもどおりだったが、彼はこの時、何かが違っていた。


 「…セルフィ、聞こえるか?」

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