第七十三話
「ふっ、私は良家の出身でな。
そのおかげで子供の頃から、社交辞令というお世辞を認識していた。
それ故に特別扱いが嫌いだった。
私のほとんどの資格、能力は、その反発と言っても過言ではなかった」
「別に良いじゃねえか、それが結果として、今のアンタを生んでんだろ?」
「自分の実力だと信じていたからな。
今の自分は自分が形成したものだと、お前の様に言っていた事だってあった。
だが、現実は違っていた」
サーベルが消え、彼女の身を守るモノがなくなる。
しかし、ペインは一歩も動く事が出来なかった。
「どこぞかで気付いていたのかも知れない。
だが、最初の違和感はとある事件だった」
ここの空気が、さっきからペインを息苦しくすらさせていた。
彼女から発せられる殺気。
それと共に彼女から語られたのは、ある事件の内容だった。
「お前が逃げる時に、橋を爆破させただろう。
その時も河川をつなぐ大橋の中心部に爆弾が仕掛けられ爆破した事件あった。
そして、その中で一台のバスが斜面と瓦礫で引っかかっていた。
当然、私は助けに行ったが走ってて、自分がバランスを崩したトコロで理解出来た事があった。
助からないとな…。
そして、その時、私は撤退の指示を出した」
「それは仕方ないだろう、オレもテレビで見たことがあるけど…」
ペインはいつもの調子に戻ろうと『仕方が無い』と言おうとしたが、
「おい、ちょっと待て…」
この時、ペインはレフィーユ言う違和感がわかったのだろう、彼女は遮るように言った。
「ふっ、見た事があるなら、ちょうど良い。
結果はどうだった?
お前も元治安部に所属した事があるなら、結果ぐらいは覚えている性質はあるだろう?
『自然に落下したはず』が、
『魔法使いがやった事』になっている」
彼女は拳を握り締めて、窓の外を見る。
「だが、私は『魔法使いがやった方』を信じてしまった。
特別扱いされて、担がれた事もあったからな」
ペインは信じられないとばかりに首を振る。
「そして、歯止めが効かなくなるまで時間が掛からなかった。
自分の実力だと信じ、英雄扱いされ担がれ…。
誰かに似ているだろう?」
ペインは何も言えずに視線をそらしていた。
「周りは私を見習えというが、こんな私なぞ見習ってほしくない」
彼女がそんな失敗をしていたのが考えられなかった所為もあるが、ペインには感じられた事があった。
「だからこそ、言える事がある…」
さっきからレフィーユから視線をそらすのはその所為だった。
「甘ったれるなよ、貴様…」
彼女は明らかに自分とは違っていたのだから。
「確かにお前は、自分のした事に絶望したのかもしれん。
だが人はな、絶望すれば、歯を食い縛って生きていく生き物なんだ。
そんな気高い生き物とお前を一緒にするな!!」
「黙れ…。
お前は特別扱い、担ぎ上げられたトコロは一緒だろう!!」
「私には間違いを間違いと言ってくれていた人がいた。
私には自分の過ちを、どう乗り越えればいいのか一緒に考えてくれる人がいた。
昔の私はお前と変わらないのかも知れない。
だがな、今はちゃんと振り返る事が出来る。
今の私は…」
彼女の視線の先には、
「お前とは違う…」
先ほどペインが倒した死体があった。
「お前はただ、自分の思うとおりにならないから、人を殺していただけに過ぎん。
自分の能力と向き合うという事はな、人を解して初めて理解が出来るんだ。
そんなお前に私は絶対に負けん」
「黙れよ、お前は、さっき劣勢に立たされていた事、忘れてんじゃねえだろうな!?」
怒りを浮かべ、ペインは多節鞭を突きつける。
その武器の一撃は犯罪者すら恐れさせる獲物だった、しかし、彼女はさっきほど怯む事はなかった。
それ以上に、虚しさがあった。
「ふっ、哀れな男だな…」
彼女の目に映るペインは、ロウファに似ていたのだから…。
その一言が、ペインの感情を逆撫でていた。
「ぬおおお!!」
感情まかせに一撃を加えたくらいでは、止まりようのない勢いでレフィーユ目掛けて武器を振り下ろす。
「その男はいつも強大な敵に立ち向かっていった」
レフィーユは両手でペインの腕を受け止めていた。
「殺し屋、指名手配犯、マフィア、組織…。
どんな相手でも怯む事は無く」
真正面で勢いも止められたので、ペインは驚きを隠せなかった。
まるで力比べをするような体勢で、レフィーユはペインを押し込む。
「一歩間違えれば、自身の身に危険が迫るというのに…。
恐れを知らず」
一歩、一歩、また一歩、ペインは後ろに下がっていく、
「私がロウファに見習ってほしかった人はそういう男だった…」
反撃に足を出そうと体勢を崩せば一気に押し倒されてしまいそうになるので、ペインは攻撃も出来ずに踏ん張ったままだった。
「ミクモが死んだ事実をあの中で誰が教えてやれた?
かつての私はそんな強さすら、見抜くことすら出来なかった」
一瞬、力が緩んだので、ペインは自分の手に握られた武器に視線を送る。
腕を掴まれた体勢だったが、この距離でも、痛みを与えてレフィーユを倒す事が出来る。
そう考えた瞬間だった。
「そんな私を…見習うなー!!」 何が起きたのかわからなかった。
「うごぁ!!」
ペインは机にうつ伏せるように倒れ、そのまま床に崩れ落ちていく。
彼女は拳を握ったまま動こうとしない、それは彼に見舞った一撃を物語っていたのは言うまでも無かった。